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読書する女
分厚い本を読んでいた金髪女が
顔を上げたとたん、視線が合った。
飾り窓の中から秋波を送られたか。
ドイツの思索家ベンヤミンの至言が、
頭に浮かんだ…
「本と娼婦は、ベッドに連れこむことができる」
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ハンブルクのレーパーバーンは
「世界で最も罪深き1マイル」といわれ、
昔からの大歓楽街。
すぐに「飾り窓」を連想する向きもあろうが、
健全なバー、ライブハウスやストリップ劇場が
軒をつらね、ナイトクラブめぐりの観光バスまである。
だが、しつこい客引きが表通りにたむろし、
鼻の下を長くしそうものなら
ボラれることもあるとか。
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ヘルベルト通りの「飾り窓」の入口に、
独語と英語で
「女性と未成年入るべからず」とある。
もちろん、写真撮影は、ご法度。
日本の遊郭は消えて久しいが、
飾り窓は、ハンブルク州の公認だ。
入口ちかくに警察署がある。
昔から港々に女ありと言うが、
もともとは船乗りと軍人向け。
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窓のなかの女は照明のせいか、
若く見え美人もいて陰湿な感じはない。
昔は貧しかったポルトガル・スペインなどの
出稼ぎ組が大半。
このところは東欧・ロシアからも
流れこんでいる、
とは現地人の話である。
冷やかし組が通りをぞろぞろ、
まさにウインドー・ショッピング。
公然と売春施設が存在すること自体、
日本では考えられない。
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この大きな港町は、懐がふかい。
巨匠ブラームスを生み、
ビートルズが世に出るまえ
この街のクラブで
たこ部屋のごとき
下積み時代を過ごしている。
2017年、新しい名物が誕生した。
「エルプフィルハーモニー」。
エルベ河沿いの
古い赤レンガ倉庫のうえに建てられた、
世界最高のコンサートホール
といわれる。
ここでブラームスを聴きたい。