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ワイン小咄
ブルゴーニュの銘酒街道の一角。
十字架の列が目にとびこんできた、村人の墓。
まわりのぶどう畑では、せっせと房を摘んでいる。
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このあたりにこんな歌が伝えられている。
もしも、わたしが死んだなら
墓穴のなかのわたしのそばに
なみなみと注いだワイングラスを
忘れずに置いてくれ
………
もしも俺が死んだなら
酒蔵のなかに埋めてくれ
いいワインのある酒蔵だ
酒蔵のなかだぞ いいかい
よいワインでいっぱいの酒蔵だぞ
俺の墓石のうえに刻んでおくれ
「酒飲みの王 ここに眠る」
―福本秀子『ワイン小咄』
ぶどう畑のど真中に墓がある村人は、あの世でもワインが飲める。
しかもうまいワインを。なんと幸せなことか。
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開高 健の文に「一本のワインには二人の女がいる。一人は栓をあけたばかりの処女、もう一人は、それが熟女になったとき……
一本のワインで処女と熟女が楽しめる」
―開高 健『知的な痴的な教養講座』
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