神品 ひとり占め
歓喜とは、このことか
目のまえに青磁の極致といわれる
汝窯(じょよう)がずらり並んでいる
この場には、朝一番乗りした僕だけ
若い女ひとり駆けつけるまで1分ほど
神品ひとり占めであった
台北の故宮博物院・北宋汝窯特別展入口に
こう記されていた
「雨過天青雲破處」―雨あがり、雲の破れ目にのぞかせる
空のしっとりとした青
12世紀、北宋の皇帝・徽宗は
こんな色合いの器をつくれと命じ汝窯青磁が生まれた
現存する器はわずか60点ほど
うち21点を故宮が所蔵する。
今回、日本、英国、中国本土からも出品され
40点が展示された
浅い青から深い青まで
どれも澄みわたる空のごとく天高く
神秘さえただよう
圧巻は、10枚の花びらが開いた姿の「蓮花式碗」
こまやかなひび割れ、しっとりとしたスカイブルー
洗練されたかたちの花びらの碗だ
皇帝は、これでお酒を燗したとか
「風流天子」とよばれた皇帝は
北から異民族に攻めこまれ政治に無能だが
書画・青磁など文化に力をそそぎ
北宋時代に中国文化は頂点をむかえた
開館まえに、入口で談笑する係員の脇を
何食わぬ顔ですりぬけ、掃除のおばさんに
ニイハオと声をかけトイレにもぐりこんだ
絵画泥棒が美術館の閉館寸前にトイレにかくれ
深夜、絵を盗みだす手口はあるが
開館まえにトイレにひそむとは
こっけいそのもの
10分後そろりと出て、朝礼中の売店を横目に
階段をあがると
あな不思議や、すでに切符発売中
20人ほどが列をなしていた
開場するや先の一団は書画へ脱兎のごとく走り
僕ひとり青磁へ小走り
故宮特別展のキャッチコピーは
「一生難遇的看」―見逃せば一生見られない
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