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海の向こう隣りはニューヨーク  

横なぐりの雨風が荒れ狂う
帽子のうえにフードをかぶる
パンツまでぬれはじめた
ヨーロッパの西の端アイルランド本島の
ゴールウエイから
さらに西の孤島アラン

風雨のアラン島                     1998

夫と5人の息子をつぎつぎ荒海にうばわれ
最後にのこった息子も風浪にのまれ
「みんなこの世を去ってしまった。
だから海はこれ以上、
私にどうすることも出来やしない……」
と年老いた母は十字を切った

シングの戯曲『海へ騎りゆく人々』の
忘れがたい科白だ

大柄のおばあちゃんにハローと声をかけられた                                      1998

石ころと岩だけの不毛の島は
海に生活の糧をもとめた
木組みに布をはり
コールタールをぬりつけた
カラハと呼ばれる
手こぎの小舟で海へのり出し
命がけで大ザメと格闘する

サメからランプ用の油がとれた

漁のないときは
肥料となる流れついた海草を
岩に敷き
風が運んできた土をかきあつめ
砂とまぜあわせて
馬鈴薯を植える
貴重な土と作物が
吹きとばされぬよう
まわりを石積みでかこむ

孤島の家                           1998

パリで失意にあった
アイルランドの文学青年シングは
同郷の先輩のイェイツのすすめで
百年ほどまえ
アラン島にわたった

近代文明からかけはなれ
純朴で剛健な気風とケルトの伝承に生きる
島民を題材に
不朽の名作、紀行文『アラン島』
戯曲『海へ騎りゆく人々』をのこし
30代で早世した

シングに刺激をうけた菊池寛は
鰹漁に生き海に消えた
四国の漁民の姿を
『海の勇者』に描いた
「また海奴が人間を欲しがっているわい」と
不吉な思いを老婆に語らせている

ポツンと一軒の家                      1998

風は止んだが
霧と雨で冷えこんできた
数頭の牛が体をよせあい
石積みの陰にうずくまっている
海辺の家のうらに一艘のカラハ

船底に大穴があき、木組みも朽ちている
苛酷な時代の証か

島に電気がついたのは50年ほど前
石ころと岩だらけの島に
今は観光客がおとずれ住民の生活は一変した
が、夏すぎれば
自然とのきびしい対決がまっている

ケルトの遺跡                    1998

古くは5世紀から
今も
最果ての島に何故に人は住むのか? 

海の向こう隣りはニューヨークさ
と島の人は笑う
 

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