一銭けれ 一銭けれ
力まかせに叩く太鼓、哀調をおびた笛、汗だくになった祭り半纏(はんてん)を脱ぎすてた若者が山車のうえで狂ったように飛びはねる。
そばで見ていて、背筋にぞくぞくっと興奮が走った。
夜もふけた10時すぎ、祭りはクライマックス。
13台の山車がずらりと並び、祭りばやしの競演が始まった。
江差・姥神大神宮渡御祭(うばがみだいじんぐうとぎょさい)。
370年ほどまえ、
鰊(にしん)の大漁を神に報告、感謝したのが祭りのはじまりで、
「江差の五月は江戸にもない」と鰊漁と北前船でにぎわった昔の栄華を
今にしのばせる。
毎年8月、祭りのころ、人口7000人ほどの街が、観光客や里帰りの人がおしよせ数倍にもふくれあがる。
まわりでは、一升瓶をまわし飲み、声をからし汗まみれで踊りまくっている。
そのそばで、少女がひとり、もの悲しく横笛吹く。
まさに静と動がいっしょくた。
「一銭けれ、一銭けれ。一銭もらって何するの……」
町内へもどっていく山車の祭りばやし「帰り山」が遠のいていく。
宿の床のなかで、その音色を耳にし華やかなころの江差に思いをはせ、
深い眠りに落ちていった。