クラフトミルクの魅力
いま酪農業界が変わろうとしている
これから流行りだす酪農重要ワード
クラフトミルク
ミルクスタンド
放牧酪農
昨今の酪農情勢とその背景
国内の酪農業界ではスーパーに日用品として並ぶ牛乳を生産するためにアメリカに習い大量の穀物と輸入乾牧草を使用した酪農形態で都市近郊部でも可能な大量大規模生産を推進してきた。作業機械は大型化し、省力化を図るためにロボットやAIを導入し生産の効率化を目指してきた。
現場の酪農家も農場の規模拡大化、多頭飼育を迫られてきた。政府もクラスター事業として各種補助事業で酪農産業の拡大を後押ししてきた経緯がある。
長期的な問題として農家の高齢化による廃業、離農が相次ぎ深刻な後継者不足、担い手不足、新規就農者の育成ができずに、既存農家に生乳出荷量のしわ寄せが来ているという現状がある。
近年では流行り病による学乳の受け入れ停止、外食産業や観光産業での消費低迷が見られ戦争や円安為替による影響から原油価格高騰、肥料などの酪農資材、家畜飼料の価格高騰が長期間続き経営状態がひっ迫している酪農家が激増した。規模が大きければ維持費、固定費ともに莫大な支出になるため食を支える第一次産業が瀕死状態となっている。数年前はバターが値上がりしバター不足が叫ばれていたが、いまではバターの大量在庫を抱える事態となっている。先月、生乳販連とメーカー、生産者団体間で取引乳価の価格改定が行われたがキロ単価10円程度の値上げでは焼け石に水である。なぜなら飼料価格や資材費はそれ以上に値上がりしているからだ。しかもこの物価高は先が見えない。高齢化に限らず離農を選択する農家は秋から冬にかけて増えていくだろうと個人的には睨んでいる。
クラフトミルクってなに?
クラフトミルクとは造語である。クラフトビールやクラフト焼酎クラフトジン、クラフトチョコレートなどと同様にメーカー製造の既製品、市販品との差別化をはかるために「手作り」や「製造の手法にこだわりをもった」という意味のものである。
生産から製造までこだわり高付加価値化をした牛乳は少ロットで製造でき、流通、販売まで生産者や牧場の顔が見えるのが強みである。
低脂肪牛乳、高脂肪牛乳、オーガニック牛乳や低温殺菌牛乳、ノンホモ牛乳、A2ミルクなど一概に牛乳と言ってもたくさんの種類がある。
いまのところクラフトミルクの定義は自然放牧された乳牛から生産された牛乳を指す。
なによりクラフトミルクの魅力は生産者の哲学や考え方がストレートに味や風味につながることが最大の魅力のような気がする。直接牛から搾った牛乳が生産者を通じて顔の見えるお客さんに手渡しできることが売り手としても嬉しいのではないか。ビジネスとしては非常にわかりやすい。
食の安心・安全の究極ではないか。
毎日飲む牛乳も美味しいがクラフトミルクは完全に嗜好品という認識だ。牛乳が好きな人に買ってもらう、飲んでもらう。薄利多売はしない。ちゃんと価値を消費者に認識してもらうことも魅力の1つ。
最近ではジェラートやヨーグルト、チーズなどの乳製品を6次化経営で製造販売したり、観光地や観光牧場をめざして教育ファームなどで子どもたちに搾乳体験を実施している牧場も少なくない。
また、乳業メーカーも飲用乳、加工乳の消費低迷から飲むヨーグルトや乳酸菌を使用した乳加工製品を主力商品に切り替えて販売してきた。
筋トレやフィットネスジムに通う人が増加し、カラダづくりや栄養補給のために乳清を加工したホエイプロテインを摂取している人も増えたのではないか?
クラフトミルクは余計な加工を施さないために生産者が商品化しやすく販売できるメリットがある反面、味や風味のごまかしが効かないために飼育方法や生乳の品質面での苦労は計り知れない難しさがある。
放牧酪農とは
放牧酪農は広大な放牧地を必要とし、自生した青草のみを食べるため牛たちは購入飼料を食べさせている牛たちよりも個体乳量が少ない。また冬などの厳冬期や天候によっては放牧出来ないときもあり季節放牧や昼夜放牧など放牧にもやり方がたくさんある。
生産者と農協と乳業メーカー
酪農家は生産者団体や農協に所属し、生産者団体や専門農協に出荷していれば乳業メーカーがちゃんと生産分の牛乳をすべて買い取ってくれるため、生産者の収入が保証されている。農協や生産者団体と乳業メーカーは密接に繋がっている。乳業メーカーに製造流通をお願いしなければ牛乳が売れないからだ。乳業メーカーが望まないことは原則できないし、厳しい出荷基準をクリアして酪農家は収入を得る。乳牛は1日に30キロから50キロ程の生乳を出す。1日に数百キロから数トン出荷する牛乳を個人ですべて加工販売することは生産者にはできないのが現状だ。
放牧酪農がなぜ今注目されるのか
放牧酪農が注目される底には循環型農業とSDGsが関係していると思われる。放牧酪農の実施は頭数や土地の確保、気候、圃場管理など厳しい条件となるため国内でも少数の酪農家しか実施できていない。また少頭数の牛しか飼えないため温室効果ガスの削減に効果があるが少ない牛たちの管理は多頭飼育よりもシビアになるため収入の安定化がむずかしい。
害虫や害獣対策なども必要となり理想ではあるが現状は厳しいという声がある。
乳牛も1頭からたくさんの牛乳を生産できるように北米のホルスタイン種の精液を交配し大型化、高泌乳化の品種改良が長年行われてきた。放牧に向いているといわれるホルスタイン種は放牧が主流のニュージーランドの血統である。ニュージーランドのホルスタイン種は小柄で飼料効率がよく、泌乳量も高泌乳ではないが安定して生乳生産量は確保できる。
つまり国内の経営形態では効率的な高泌乳の牛群を育てて来たために急に放牧ができないのだ。
放牧は経営の低コスト化と作業の省力化を図れるが、牛たちの健康を害してしまうのは本末転倒である。
苦しい酪農情勢のなかで放牧酪農に踏み切りたい生産者はたくさんいることだろう。
慎重に検討していきたい。
また消費者の健康志向が以前にも増して強くなってきている。より高品質な牛乳を求めるニーズが高まってきているのが要因のひとつではないか。。
ミルクスタンドが描く未来。
ミルクスタンドでは主に特徴のある飲用乳や乳製品を商品として販売している個人商店や小売業のようなものだ。おしゃれな店舗も多い。
ジェラートやアイスクリームの個人販売とは一線を画する。
生産者からすればスーパーや乳業メーカーのいいなりにならず、小規模酪農で付加価値の高い牛乳を売れるため。面白みがある。
しかし、資金力、店舗購入、ビジネス経験や食品を販売するスキルや資格がないと失敗してしまうリスクもあることを覚えておこう。
これからミルクスタンドが全国に増えていくだろう。田舎にもできればミルクスタンドを中心に観光産業が盛り上がる。道の駅の中にもでき、全国様々な牛乳や乳製品を楽しめるかもしれない。保存の効かない牛乳だからこそ季節が変わるその時々の牛乳の色や味や風味を瞬間的に楽しめるのも嬉しい。ミルクスタンドの普及や可能性は未知数だがあたらしい酪農産業の発展を楽しみにしたい。