マーケティングの遠近両用レンズ:短期視点と長期視点
こんにちは、Takです。今回はマーケティングにおける長期視点と短期視点について纏めておきたいと思います。
結論は両方大事で、双方をリンクさせながら全体をプランする必要があるということになります。
短期と長期、両方を見るための『遠近両用レンズ』を装着してマーケティングを行うことが出来れば、もっと事業を強くすることが出来ると考えています。
• 短期視点になりやすい経営視点
スタートアップ企業や新規事業では『とにかく売れそうなことをすぐに何でもやってほしい』という経営層のニーズが強くなります。
四の五の言わずに、今日明日の売り上げを上げるための近視眼的なプランニングとアクションが中心になっていきます。
もちろん、自分自身がスタートアップの経営者だったとしても、そうなるでしょう。
大手企業においても、経営環境が厳しい状況であれば、短期的な売上を重視するため、中長期計画のアクションアイテムが遅れやすくなってしまいます。
そのため、経営層がマーケッターに期待するのも短期的な売上に貢献するところであり、新規事業でもロケットスタートで推進することを求め、プレッシャーがきつくなったりします。
• 新規製品のロケットスタートは幻想
しかし、世の中のイノベーティブな製品の多くは、ロケットスタートになっていません。飛行機のように助走期間があり、離陸し、徐々に最高高度まで達します。今では誰もが保有しているパソコンについても、最初からロケットスタートで市場が広がったわけではなく、PCメーカー各社は低空飛行が続いていました。
2023年度になって初めて国内トップシェアを獲ったとされる富士通についても同様です。同社は、1981年5月20日、同社初のパーソナルコンピュータ「FM-8」を発売し、2021年5月20日に40年の節目を迎えています。40年の間に出荷したパソコンは、累計で1億4,000万台の規模に達していますが、過去の出荷台数を見ると、1995年のWindows95が登場するまで14年間は、低空飛行が続いていました。一部の「マニア向け」で始まったパソコンは、今や「生活の必需品」となり、同社の粘り強い製品開発力によって、事業用パソコン、家庭用パソコンの歴史を作っていったのです。
<富士通のPC出荷台数推移:国内外合計>
※1981年~1992年までは筆者想定
他にも近年のイノベーションも見てみましょう。
Apple社のiPodについては一気に拡大したように感じられますが、それでも4年間の低空飛行期間があり、5年目から拡大期に入ったような販売実績となっています。
尚、この低空飛行の期間で『iTunes』という電子的に音楽を外へ持ち出す仕組みを構築し、登録楽曲数を圧倒的なスピードで増やし、他社の追随を許さないポジショニングを確立させました。ピーク時には、5,483万台の出荷実績となっています。
この後、iPhoneへiPodの機能を内蔵させ、更なる成長に繋げています。米国アナリストは、『AppleがiPhoneを作ったとき、それが最終的にiPodの終わりの始まりを意味することは分かっていた。』と振り返っています。いわゆる自らカニバリゼーションを引き起こしたのです。従来製品がピークのうちに、新製品を投入し、新製品が低空飛行で推移する期間を従来製品でファイナンス的に支えることが出来るのがこのやり方でした。
2007年に発売されたiPhoneは、今や2億台(2023年実績)を超える生産台数となっているわけですが、2001年に販売開始となったiPodがその踏み台として、プロダクトライフサイクルを上手くつなぎ合わせ、同社の成長に繋がっているとも言えます。
<iPodの出荷台数推移>
上記の通り、大手企業であっても、新規ビジネスのロケットスタートは、難しいということが見て取れると思います。もちろん中にはロケットスタートの製品もあるかと思いますが、私が携わってきた新規事業はやはりいずれも低空飛行期間があり、その後トップシェアとなった製品ばかりです。
• 経営層のジレンマ
新規ビジネスの立ち上がりに時間が掛かるほど、社内リソースを使ってしまうため、経営的視点では、既存ビジネスで足元を固めながら、中長期的なビジネスに向けて投資していく必要が現実問題として出てきてしまいます。誰もが長期プランが大事なのは分かっていても台所事情を考えるとそうも言っていられないという状況もあり、手が回りません。
•これを踏まえて、マーケッターとしてどうあるべきか
経営層のニーズとして短期的な結果に重きを置いている場合、マーケッターも短期的アクションにプライオリティを置いたプランにフォーカスしていくことが重要になります。これを無視して中長期プランばかりを話していては経営層の信頼を得ることが難しくなります。
従って新規事業よりも既存事業に焦点を当てる必要があります。プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)を用いて言えば、キャッシュカウ製品の売上・利益上昇を検討することや、スター製品のシェア拡大を狙うなどのマーケティングアクションをプランニングします。
しかし同時に、中長期的な視点をなおざりにしないのがマーケッターの仕事です。
短期的なマーケティングプランをリードしながら、中長期計画に繋げていきます。5か年計画などの中期計画からバックキャストした短期計画をプランニングし、短期と長期の視点をリンクさせながら、経営層と合意していくのです。
•短期的売上に貢献するマーケッターは信頼を得る
もし、役割の多くが中長期の新規事業マーケティングだったとしても短期的な取り組みにも貢献することが見えるマーケッターの評価は高くなります。
なぜならば、そもそもの認識として、経営層は中長期のマーケティングプランについて大して信頼を置いていないからです。特に新任のマーケティングマネージャーが描く中長期プランへの信頼を得ることのハードルは高いです。どんなに解像度を上げて分析しても、未来は予想できないため全幅の信頼を得ることが難しいと言えます。
しかし5年後の未来は予測できなくとも、5年後の目標を立て、そこからバックキャストした年内の目標を立てることは可能です。それが短期計画と長期計画をつなぎ合わせたプランニングです。
BtoB の場合、顧客の開発期間に数年かかるものがザラにありますので短期のパイプラインと長期のパイプラインが十分にあるかどうかマネジメントしていき、それらの進捗を報告していくのがアカウンタビリティとなっていきます。
この計画に対するアカウンタビリティを発揮し、実際に、1年目、2年目と計画通りに事業が推進されれば、周囲からの信頼を積み上げていくことができるでしょう。仮に計画通りでなくても、どのような理由で計画通りにならなかったのか、それを踏まえてどのように軌道修正していくのかということを示していけば問題ありません。つまり、予想屋ではないアプローチでなくてはなりません。
このように、マーケティングの遠近両用レンズを身に着け、長期と短期両方に対するアカウンタビリティを持つことが経営層との信頼関係を構築していくポイントになります。
お読みいただきましてありがとうございました!