青森県|公立高校入試確率問題2023
今回のこの記事は,勉強しようと思っている中学生向け、受験生向けではありません。他の問題を解くのをお勧めします。(このシリーズのほかの記事は、中学生向けにも書いているつもりです)
今回取り上げるのは公立入試としては悪問、ダメ問題です。まずは学習指導要領に沿った(教科書的な)解き方と解答を示しますが,力をつけたい人は【研究】だけ読んでください。会話やアの問題は解かないでください。
今回の記事の中心は、教える側,問題を作る側に向けて、なぜ悪問・ダメ問題かを説明する辛口の内容です。
分類 24 取り出して、戻さず何回も(※)
(本題)樹形図で
あ
まずは、起こりうるすべての場合を求めるために、樹形図をかきます。最初にひいたカードが百の位、つぎのカードが十の位、3番目のカードが一の位ですから、つぎのような図をかくことができます。
これらを数えると、3けたの整数は全部で60通りできることがわかります。
X
百の位に着目すればよいのですが、答えを最初に言ってしまいました。3択ではあるのですが、なぜ一の位や十の位じゃないのでしょう?
それは条件が「350以上になる確率」だからです。たとえばあなたが350円しか持っていなかったら、425円(税込み)とか542円(税込み)とかのものは買えないですよね。なんで? 百の位が3よりも大きいからです。だから、ある数よりも大きいか小さいかを判断をするときには、いちばん左にある位から判断をすればよい、この場合はまずは百の位から着目しようというわけです。
い
というわけで、上でかいた樹形図の百の位が3のところを見てみると
「350以上になる」という条件に合うのは、3通りあることがわかります。
う・え
上のア-Xの項目で説明したように、432とか514などのように百の位が4や5のときは、「350以上になる」という条件をすべて満たします。
イ
それでは確率です。すべての場合が求めた通り60通り。そのうち条件に合う場合の数は、樹形図につけた〇印を数えて、あわせて27通りですので、確率は$${\dfrac{27}{60}=\bm{\dfrac{9}{20}}}$$となります。
答
【辛口】これは公立入試としてはアウト
繰り返しますが、この問題は、少なくとも公立入試としては悪問、ダメ問題です。出題者が準備をせずにこねくり回すと悪い問題になる、という典型です。
そもそも中学校範囲を押さえていない出題
その根拠の1つは、このシリーズでは何度も主張しているところで、現行学習指導要領で中学校で取り扱うのは「簡単な場合について確率を求めること」であり、指導要領の解説で「樹形図や二次元の表などを利用して,起こり得る全ての場合を簡単に求めることができる程度の事象を取り上げる」とされている点にあります。
少なくとも公立入試においては、この前提で問題を制作し出題しなければなりません。
では、この青森県の問題はどうでしょう? 偶然は3回起こるので、愚直に樹形図をかいてみます。
この樹形図を利用すれば,起こり得る全ての場合を簡単に求めることができると青森県の出題者は考えている、と考えてよいわけです。・・・簡単? この樹形図を全部書いて数えるためにはどのくらいの時間が必要? 全体の時間配分を考えると、明らかに高校範囲の積の法則を使用することを前提に出題しているのでは、と勘繰ります。(これは毎年の兵庫県でも同じ傾向にあります)
高校の知識を使って解くことを多くの受験生に求めるのは明確な間違いであり、高校の知識を使うと格段に速く解けるような問題を出題することは、あってはなりません。少なくとも標準レベルの受験生にこのレベルの問題が積の法則で解けるように解説することもやってはならない、と私は考えます。
「樹形図を簡単に書いて、簡単にすべての場合の数を求めることができる能力を青森県民は身に着ける教育ができている」という反論もあり得ます。ならば、その前提で、少なくともここではアーあは60と解答できる、ということにしておきます。しかし、もう一つダメ問題である理由があります。
わからない人には結局わからない穴埋め問題
それは、穴埋め形式の問題点です。
[X]の位に着目・・・[X]の位が3のときは,条件を満たす整数がいくつかできる・・・[X]の位が3のときだけではなく,[?][?]のときも考えなければいけない・・・と書いてあるので、出題者の意図を汲むと、百の位に注目をさせたいということなんだと思います。
たぶん会話形式の中で「少しずつ条件を整理して考えると,確率を求めることができる」とまとめられていて、条件の整理のために誘導をしたいのかもしれないのだけれども、どうやったら条件が整理できるのかは、やはり置いてきぼりになってしまいます。 しかし、この会話では、あえて「3??」から着目を始めさせていて、余計にわかりづらい、迷わせる会話になっているとも言えます。わかる人にはわかるけどわからない人には、なんでそこに着目すべきかか、結局わからないのです。出題の意図が、この会話形式を見て、出題者の意図を読み取ることが趣旨になってしまいます。
別解でも答えられるのに正解と認められない穴埋め問題
ア-う・えに、それぞれ1・2と解答しても、間違いではありません。どうしてかわかりますか? 「じゃない方(余事象)」を考えれば、1・2をまず考えて,その可能性を消す、という考え方をしてよいはずであり、穴埋めの日本語は「・・・のときも考えなければいけない」という表現ですし、現行の学習指導要領では「余事象の考え方」を使って考えてよいことになっているわけですから、不自然かもしれませんが、これでも成り立ちます。このアプローチで1・2も正解である、という主張は数学的にも日本語的にも成り立ちます。
屁理屈だ、という方,問題が練られていない証拠を示しましょう。例えば、問題が420以上、というのであり、着目させる百の位があと一つ、というのであれば、余事象として当てはまる答えは1・2・3の3つとなるので、この理屈は成り立ちません。
穴埋め問題として出題するのであれば、それは数学に限らずその選択肢が選ばれるべき理由が明確に存在しなければいけません。その可能性を考えずに不用意に架空の会話分が提示されているのです。
というわけで、アの会話形式を穴埋めさせるという出題には、数々の問題点をはらんでいて、これは悪問です。これを今後問題演習として解かされるであろう中学生は不憫でなりません。
上級を目指す人への【研究】
しかし[問題]だけ見ると、上級を目指す人に向けてとても良い題材なのです。誰か担当の人が、最初に[問題]を提示した後に、会議かなんかでいろいろこねくり回されたのかもしれませんね。経緯はよくわかりませんが「どうしてこうなった?」です。
穴埋め問題がないイだけの「問題」だけ、解こうと考えると、上級向けのいい問題です。「同様に確からしいことがら」をうまく活用できると早く解ける問題で、研究のし甲斐があります。
そのポイントは3枚目。この問題で示されている状況においては、一の位に何をひこうとも、今回の問題において確率を求めるには関係がありません。そのことに気づくと、シンプルになります。
●一の位を?で表すことにして、百の位と十の位の組だけを考えた
〔12?〕〔13?〕〔14?〕〔15?〕〔21?〕〔23?〕〔24?〕〔25?〕〔31?〕〔32?〕〔34?〕〔35?〕〔41?〕〔42?〕〔43?〕〔45?〕〔51?〕〔52?〕〔53?〕〔54?〕
ということがらは、すべて同様に確からしいこと。
●「350以上」という条件を満たすのは、そのうち上の太字のところであること
という2点に気づくと、2つの偶然までで考えることができる問題として解くことができます。念のため(樹形図ではなく)表をかいておきましょう。
このように適切に処理ができると、「それぞれのことがらが同様に確からしい20通りのうちの9通りが条件を見満たしている」確率を求める問題に生まれ変わりますので、あまり時間をかけずに解くことができますね。
そういうわけで会話形式でいじらなければ、上級者向けのとってもいい問題だったのに、という点でも、出題にあたって練られていないことが悔やまれます。
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