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【内部監査Tips】研究者に学ぶ:定期監査に「探究」の視点を取り入れる

はじめに

皆さんの部門では、定期監査を以下のような流れで実施されていませんか?

  1. 前回監査の資料依頼リストを更新

  2. 依頼リストに基づいて監査対象部門に証跡の提出を依頼

  3. 入手した資料を前回の手続に沿って確認

  4. 気になる点があれば、追加で確認

このような「チェックリスト型(従来型)」のアプローチは確かに効率的ですが、新たな課題の洗い出しや問題の根本的な原因の解明につながりにくい場合があります。

これらの課題を解決するために参考になるのが、研究者が実践する「探究型アプローチ」です。研究者は、「なぜ、このような事象が起きているのか?」という「問い」を起点に、「仮説」を立てた上で多角的に「検証」を進めます。

本稿では、定期監査における「定点観測」の重要性をおさらいした上で、「問い」と「仮説」に基づく「検証」のステップを追加することで得られる効果について考察します。




1.定期監査の本質:定点観測の重要性

定期監査の役割の一つは、組織の健全性を維持するために定点観測を行い、基礎データを継続的に収集することです。

この定点観測によって、前回からの変化や傾向を把握したり、異常な兆候を早期に発見することが可能になります。

定点観測では、組織の安定性や課題などが可視化できますが、新たな課題の洗い出しや問題の背景にある根本原因までを深掘りするには限界があるでしょう。

ここで「探究型アプローチ」を補完的に活用すれば、監査は単なるモニタリングにとどまらず、事象の本質をより深く理解できる可能性が広がります。


2.二つのアプローチの対比

2.1. 従来型アプローチ

一般的な定期監査のアプローチでは、以下のようなステップが用いられます。(ここでは「在庫管理」を対象とした定期監査を例に挙げます)

  1. データ収集

    • 前回監査と同様に在庫データを入手

    • 棚卸記録の確認

    • 評価減算定資料の確認

    • 保管状況の観察

  2. 監査手続の実施

    • 在庫データの正確性検証

    • 棚卸差異の集計

    • 評価減の再計算

    • 在庫の保管基準との整合性確認

  3. 監査結果

    • 「在庫データは正確に記録されているが、3ヶ月以上の滞留在庫が存在している。この滞留在庫の保管により、年間●●百万円の保管コストが発生している。」

従来型アプローチは、主に正確性や整合性の確認に焦点を当てたチェックリスト型の手法です。しかし、このアプローチのみでは「なぜ滞留在庫が発生しているのか?」といった根本的な問いに答えるのが難しい場合があります。ここで探究型アプローチを取り入れることで、表面的な数値を超えた原因の究明が可能になります。


2.2. 探究型アプローチ

探究型アプローチでは、「問い」と「仮説」に基づく「検証」のステップを取り入れ、より深い分析を目指します。以下は、探究型アプローチに基づく具体的な進め方の例です。

  1. 定点観測データの確認

    • 在庫水準の推移

    • 棚卸差異の発生状況

    • 評価減の傾向

    • 保管状況の変化

  2. データに基づく問いと仮説

    • 問い:「なぜ、特定品目の在庫水準が継続的に上昇しているのか?」

    • 仮説:「事業環境の変化に対してサプライヤーとの取引条件(最低発注量、納期など)が実態に即していないため、需要変動に適時に対応できていないのではないか」

  3. 仮説検証のための分析

    • サプライヤー別の在庫推移を分析

    • サプライヤーとの取引条件(最低発注量、リードタイム等)が在庫水準に与える影響を検討

    • 需要変動と発注サイクルの相関を分析

  4. 監査結果

    • 「サプライヤーとの取引条件(最低発注量、リードタイム等)の見直しにより、在庫水準を20%削減できる可能性がある。これにより保管コストの削減だけでなく、キャッシュフローも改善することが期待される。」

探究型アプローチを活用することで、表層的なチェックに留まらず、問題の根本原因に迫ることが可能となります。また、このような効果的な改善案を提示することで、監査部門の価値を一層高めることにもつながります。


3.二つのアプローチの組み合わせ効果

従来型の定期監査における定点観測を起点にしつつ、探究型アプローチを組み合わせることで、監査部門は次のような効果を得られるでしょう。

  • 定点観測による継続的なモニタリング
    日常的な変化を捉えるべく、モニタリングを継続します。

  • 変化や異常の早期発見
    データに基づいた疑問や仮説を設定することで、異常の発見や新たなリスクの洗い出しが容易になります。

  • 問題に対する根本原因の究明
    問題の根本原因を特定し、組織全体の改善に寄与する分析が可能になります。

  • より効果的な改善策の提言
    問題の根本原因を踏まえた効果的なアクションプランを提案し、実行可能な改善方法を示すことで、監査が経営に貢献できる可能性が高まります。


まとめ

探究型アプローチの追加的な導入は、内部監査の価値を向上させる有効な手段となります。監査部門は単なる「チェック機能」にとどまらず、経営陣から頼られるパートナーとして重要な役割を果たせるでしょう。


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