(9) 我が世の春(?)に、落とし穴を探し続ける(2023.11改)
2020年10月2週目の金曜、プルシアンブルー社が Singapore Exchange,( SGX・シンガポール証券取引所)にて上場した。
東証での日本法人の上場も同日で予定していたが、1日に発生し、終日株取引を停止した東証のシステム障害のお粗末さにブチ切れたサミア社長が、東証上場の中止を即決し、シンガポール親会社だけの上場となった。
日本で資金集めせずとも十分にカネが集まると言う算段も働いたのだろう。同社にとっては都合良くトラブルを起こしてくれて、ラッキーな状況となる。不信が募って上場出来なかったと賠償責任を問えるからだ。
結果的に「コロナ期間中の上場」という世界を見回しても見当たらない、稀有な銘柄となった。世界中の企業がアイドリング状態となり、準じて地球上の経済が停滞している中で唯一成長した会社と形容されれば自ずと買いが集まり、市場関係者の予想を超える高値が付いた。
「もし、モリ都議が創業時に所有していた同社の株を持っていたなら、ビリオネアになっていただろう」と雑誌が面白可笑しく書きなぐっていたが、妻と同居の4人のママ友の5人に対して株を均等に形見分けしているので、家としてはビリオネアになっていた。
一応地方議員なのでモリ本人の資産は公開されている。横浜の家は空襲を免れた骨董品なので上物の資産価値はゼロとなる。公開された資産は横浜の土地と、政府賠償金で購入したグアムのコンドミニアムと、数百万の定期預金で、本人名義の借入金や所有株式などはない。
地方議員の資産公開の意味が無いと言われるのは、本人以外の家族名義の資産は明らかにしない点だろう。もし国会議員になったなら家族名義の資産も公開されるので、蛍の資産の巨額なものはママ友たちに預かって頂くようになるだろう。
因みに富山県知事殿も娘を活用して、資産は五箇山と東京・大森の家屋と田畑だけとなっていた。
プルシアンブルー本社の新会長ゴードン・サムスナーは、妻のサミア社長と共にビリオネアの仲間入りを果たしたとして数多くのメディアで取り上げられたが、サンプルの映像や写真がそれしかなかったのか、胸元に「ぷるしあんぶるう」と平仮名で刺繍された町工場の作業服の着用姿が拡散していた。
創業からSGXでの上場までに社員となった方々にも「社員持ち株」の恩恵が齎される。
日本に居る社員564名は数千万円相当の株と、タイ、ベトナム、台湾、シンガポールの281名の各国雇用駐在社員も1千万円近くとなった株式を所有している状態となった。
プルシアンブルー社が日本企業として日本で創業していたなら、このようにはならなかっただろう。米国企業経験者がスピンアウトして起業した会社なので「社員全員で分かち合う」という発想でスタートしたが、まさかコロナ蔓延中で短期間で上場し、世界にまで展開するとは誰も思っていなかった。
ゴードン会長と総務人事担当副社長の中山智恵でさえ、「ボス」とサミアが居るから成功は間違いないと確信はしてはいても、「まさかこうなるとは」と想像は出来なかった。
発行した株の7割を会社と社員で所有し、3割を市場に流した初値だけでこの成果が得られたので社員は誰も株を売却しようとは思わなかった。
東南アジア圏、南北アメリカ圏内でのプロジェクト案件が動き出そうとしている中で、更なる株式高騰が目に見えていると判断したからだ。
同社のメインバンクで、株式発行幹事会社でもあるシンガポールの金融機関はプルシアンブルー社幹部と協議して、モリの10月の海外出張後の11月で新株を発行の方向で意見が纏まった。金融会社はコロナ期間中に新株を発行してボロ儲けしようと企み、プルシアンブルー社幹部は更に資金を手にして開発に投じよう、会社を大きくしようと夢想していた。
プルシアンブルー株の世界市場での狂乱騒ぎから取り残された格好となった東京証券取引所には、致命的なダメージとなった。1日のシステム障害で株式売買が停止し、9日現在未だに原因の報告書を提示していないお粗末な状況だった。(実際、金融庁への報告が19日となる)
日本の投資家は海外企業の株式購入を敬遠しがちだ。スタートアップ企業なら尚更様子見する。GAFAの創業時をイメージすると分かりやすいかもしれない。
それでも、同社の日本法人の売上が主力となっているのでSGX程の活況にはならないものの、海外の機関投資家はゴッソリ購入しただろう。
一方のSGXは近年での最高値を叩き出したので、プルシアンブルー社日本法人に株式公開の中止(延期ではない)宣告を受けたのが再び問題視されて、東京株式市場は午後になって大暴落する。
同じ金曜日は新首相が国会で指名された日でもあり、本来ならご祝儀相場になるはずだったのだが今年の最安値を叩き出した。
東証側の完全な落ち度と見做されて、社長とシステム担当の役員は辞任を表明する。
このオチを予見していたプルシアンブルー社幹部たちとその関係者達は、暴落するであろう日本株を予め決めて置き、株価下落と同時に買い捲くっていた。
金森知事もモリ都議も同じ様に買っていた。次回の資産公開の前のタイミングを狙って購入した株を全て売却してしまえば、「所有株式はゼロ」となる。
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「そうは言っても、プルシアンブルー株を買った方が断然儲かると思うんです」
富山県庁の知事室で、知事の株のアドバイス受けていた村井幸乃副知事が笑う。
「でもね、一株2万円近い株を100株単位で購入するのは主婦感覚から逸脱してると思うの。もし同じ200万円を投じるなら、1000株以上買える日本企業株も悪くないでしょ?株主優待もあるし」
ホワイトボードに書き込みながら金森鮎 知事が言う。
「そうなんですけど、上がったって東証トラブル以前の株価に戻る程度ですよね?企業自体が停滞してるんですから 」
「まぁ、そうね。
でも、こうやってあの子は資産を増やして来た。株式の暴落時に買い漁って、復活したら売り捌く。次はその余剰益だけで株を買って、元本は隠し口座で定期預金にする。
円安になるのは間違いないって言ってるから、外貨預金にしてるんでしょうね。
その証拠に資産公開の金融資産が数百万円って、絶対にありえない。プルシアンブルー社の起業で5億円投じたのよ。その5億だって何百倍以上に化けちゃったけど」
「ホント、幾ら持ってるんでしょうね・・蛍も知らないんですか?」
「そうなの。日本の銀行の通帳と印鑑をあの子が持ってたんだけど、彼が議員になる前に蛍の口座に全額移したのよね。それが1億ちょいあったから、それが全てなんだと私も思い込んでいた。そしたら・・」
「5億の出資金どころでは済まず、推定額ですが更に18億円は投じています・・」
「でしょ、そんな男が金融資産数百万円な訳ないじゃない。でも、高校教師の給与で5人の子持ちって考えると「そんなもんよね」って誰もが思っちゃうのよ」
「そうですね。知事もですけど私も娘もプルシアンブルー株を持っている以上、隠し口座が必要になります。どこがオススメなのか先生に教えて貰わねばなりません」
「そこは後ろめたい部分でもあるんだけど・・」
「許容していただかないと。株価上昇はこんなもんじゃ済まないでしょうから」
「株欲しさに社員もわんさか集まってくる。翔子さんのお母様に引続き、里子さんのお母様も社員になるとか」
「私も妹と美帆が加わってご迷惑を掛けたので、心苦しいのですが」
「ま、創業者利益でこんなに儲かるとは思わなかったし、結果的に良かったんじゃない?
サミアさんの判断なのかあの子の仕業なのか分からないけど、日本法人の上場見送りの賠償責任も東証に問える。創価瓦解じゃなくて、草加学会イジメするには絶好のタイミングになった」
笑いが止まらない知事が太っ腹な姿勢を取って許容してみせる。
息子であり夫の大奥記の執筆活動が勢いを増しているとは・・思いもしなかったのだろう。
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議会も閉会して束の間の休日。
五箇山では稲刈り作業をバギーが終わらせてしまい、老人達が竹で組んだ物干し台に、束になった稲藁を掛け終えて乾燥している写真を富山県知事殿が送って寄越した。
土曜で子供たちは学校で不在で物静かだった。秋の日差しが差し込むようになった居間でサッシ越しの陽を浴びて、ゴロゴロしていた。
女性陣がキッチンで昼食の準備をしているのを見て「どうしてこうなった?」と感慨深く想う。同時に議員になってからの不義理の数々を、仏壇を見ながら先祖に詫びていた。
それで許される訳でもないのだが。
昨夜、表参道の店舗でモリに接触していた2人の参議院議員は無所属になると言っていたが広明党に所属していた。
脱会と言うのか、棄教というのか知らないが、宗教を捨てる覚悟はあるし、党を辞めて社会党議員として草加学会を糾弾して行きたいと熱く語っていた。
そう言われても即断即決できる話でも無い。それに暫く日本に居ないので、年内で判断を下せないだろうとお伝えして別れた。
2人だけでは済まない話になるかもしれないだろうとも思ったし、学会を完全に敵に回すので、プランも組み立て直す必要がある。
新首相は広明党に大臣ポストを渡さない方針だと聞いているので、統一会派を組む以前に、連立を破棄する事態になりかねない。その騒ぎ次第では同調する広明党議員も増えるかもしれない。
それでも、思うのだ。
結党して30年が過ぎても、寄生虫のような政党でしかなったよな?と何度も頭の中で復唱する。「広明党単独で成し遂げた例はあっただろうか?」と。
草加学会も一時は900万人の信者数を誇った。人口で言えば、イスラエル並み、ニュージーランドの人口数よりも多い。
宗教国家イスラエルと比較した方がいいだろう。双方とも国民財産、教徒の財産をベースにし、アメリカと日本の政府の支援を受けている。
方や独自のITとテクノロジーを生み出す技術立国であるのに対して、草加学会といえば芸能人くらいしか思い浮かばない。要は布教する上での広告塔が必要なだけで、一国並みの人口数に匹敵する信者を抱えながら、著しく生産性の劣る宗教だと言える。
信教の自由の元で緩やかなマインドコントロールを実践して個々人の成長の芽を奪い、集金システムを確立して信徒の富を奪い続ける。
政党を作った理由は票の欲しい他党と組む為で、草加学会の保護と存続の確立を第一義として、自滅党を牽制しながら「政治ごっこ」をしているだけで、見返しても党単独では何も実現していない政治という隠れ蓑を最大限利用する寄生虫でしかない。
議員一人一人は学会員に頭を下げていればほぼ当選するので、選挙の厳しさを知らない。
つまり、実は一番使えない議員を抱えた政党なのかもしれない。あの参院の二人だって、宗徒を獲得するために最初にイロ仕掛けする係だったり、学会幹部の喜び組に属していたのかもしれない・・と夢想していた。
「そろそろ昼食だよぉ〜」シャモジを手にした蛍が上から覗き込んで来たので、我に返る。
「はい、分かりました・・」と起き上がる。
怠惰な時間を過ごしたので、午後は何か建設的な事をしなければと頭の中からリストを引っ張ろうとした。そこで玄関で声が聞こえたので、スックと立ち上がる。
翔子の母の由紀子さんと客人を出迎える。世の中は思う通りにはならないと改めて思い知る。2人は仲の良い友人だった。祖母、娘、孫と3世代に渡る交流関係を両家は構築してきたらしい。
宮城県石巻市からやって来た里子の母、理美さんと妹の理子さんを客間に誘い、昼食の準備が整うまで歓談する。
宮城では嘗ては有名なバスガイドさんだったという理美さんの朗らかな雰囲気と、お嬢様モードの由紀子さんのやり取りに救われる。翔子と里子の関係にも似ている。
面食らったのは「願わくば、早く赤ちゃんの顔が見たいです」と言われて、里子が慌てて母親の口を抑えに掛かった時だった。
「誰もあんたの子だと思わんて。先生と理子の子に決まってるでしょうが」
ニヤニヤしながら言うので里子は呆れ、理子さんは下を向いてしまった。そんな話の流れでモリが発言できる筈もない。
「理美さんはですね、石巻漁連の総務部で裏の部長と呼ばれています。漁連に所属する船と漁師さん一人一人の健康状態まで把握しているんですよ。食事のアドバイスから始まって、漁師の極秘のポイントや季節ごとの穴場情報まで把握していて「鳳翔丸や瑞龍丸の今月の水上げ量はこの位」って当ててしまうんです」
由紀子さんの説明を受けて、理美さんが補足説明する
「バスガイドはスチュワーデスみたいに大勢で乗らんで 一人なもんですから、乗客一人一人の状態を絶えず確認していました。その延長線上で今も同じ事をやってるだけです。
里子なんかが社長だなんて信じられずに地銀の融資部に居る次女を連れて来たんです。本当に上手く行ってるのか、とにかく心配で」
母親の言い方に里子が遂に怒り出したので宥める。台所に居る樹里にメールしてから、「業績は好調です。なんの心配も要りません」と発言する。
「それは先生のアイディアのお陰と、先輩風吹かせて部下の元CA達をコキ使ってるだけです」と笑いながら言うので、里子の顔が引きつり キレ掛かっていた。由紀子さんが里子の背中を擦って落ち着かせようとしている中で、襖を開けて孫娘が登場する。
「おばあちゃん、いらっしゃい。そろそろごはんだよ〜」と言って抱きついてゆく。
場が明らかに大きく変化した。孫は偉大だ。
場にノーサイドの笛が高らかに響き渡ったような気がして、里子を客間から連れ出す。
「現場を見たら、きっと分かってくれますよ」
廊下を歩きながら、そうフォローした。
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富山県全域、石川県の一部で始まった無人バギーによる稲刈り作業は、高齢化が進み、後継者の居ない農家の助けとなった。
農協と提携している農家は五箇山の様に自然乾燥せずに、刈り取った稲穂のまま農協に提供し、この年の田んぼ作業を終えた。来年は田植え作業から雑草取りまでプルシアンブルー社に委託するので、米作りから開放される。野菜作りや畜産などへ労力をシフト出来る。
稲刈りを終えた農家は、田んぼでのソーラーパネルの導入を検討し始める。これから冬期になるので春先設置の作業となる。
富山湾内のソーラーパネル20ha分も85ha分の養殖用の生簀を残して、回収された。
今までのソーラーパネルは台湾製・中国製だったが、高岡市に建設していたパネル製造工場が完成して生産を始めている。従来機の1.3倍の発電量となる「富山パネル」を普及させようという思惑がプルシアンブルー社に働いた。
AIが設計し、エンジニアが一部修正したパネルは世界初のAI設計製造製品の誕生となる。
パネル製造工場の操業開始前に、バギー用エンジン工場、ペットフード工場、肥料製造工場の3工場が操業済みとなり、県内で2415名の雇用を創出した。
製造工程でAIロボットを多数導入した関係で重量を扱う工程が無く、年配の女性労働者の割合が高くなったのが特徴となった。
稼働している4工場共需要を満たす生産数には成っておらず第2工場の建設が始まっている。
また、工場労働者の評判なのが社員食堂となっていた。プルシアンブルー社新宿オフィスと大井ふ頭配送センターでの社食を模倣したものだった。
当然ながら、この2415名にも100株と少ないが社員持ち株制度として分配されており、富山県内の話題となっていた。
入社の5年後に新たに株が分配されるという。
(つづく)