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(2) 先行逃げ切り型選挙で、ブッチ切り優位(2023.9改)

富山湾を漁場とする漁業組合の収益が好転したのが、富山県の調査で分かった。
新湊、氷見、滑川等の漁港に所属する漁業関係者にアンケート調査を行い、集計した。
従来と大きく変わったのは、各漁船で「無駄」が解消された点だ。
ブルーインパクト社の広域魚群探知機で富山湾内の魚種ごとの生育数を把握できるようになったので、富山湾内の漁業組合で魚種別の水揚げ量を分配し、各漁業組合の漁船別に魚種と水揚げ量を分配する。

魚のいるポイントは新型の魚群探知機は特定できているので、現場海域に急行次第、分配された量だけ漁を行なう。
漁に出てもボウズで帰港する事が皆無になったのと、その日の漁場と水揚げ量が予め決められているので燃料が無駄にならない。漁船ごとの水揚げ量、漁業組合ごとの水揚げ量が決まっているので、セリ単価で魚の価格の変化は多少あれども、売上予測と燃料などの経費予測から収益予測が算出される。

漁師から見れば夢のような事態に転じた。 
従来はベテラン漁師の勘や経験や、秘密の漁場・網を投じるポイントといったものが一切無くなったので、ベテラン、新人の経験値の違いがあっても収入が変わる時代では無くなった。ある意味で賭けやギャンブル的な要素のあった漁業が、田畑の大きさで収穫量が予め予測できる農業と同じになった。
後継者不足に悩んでいた漁師も、農業従事者のように一縷の希望が見出だせるようになったと富山県がレポートを発表すると、レポートを待っていた石川県、福井県、新潟県の各漁連が一斉にブルーインパクト社に「広域魚群探知機」を発注した。

また、富山県のレポートは消費者にもメリットを与えたと記述されていた。昨年同時期の魚種別の小売価格比べて、全ての魚種で価格が下回った。漁船の「燃料の無駄」「時間の無駄」が解消されただけでなく、魚の種別ごと水揚げ量が事前に分かっているので、市場の買い取り者達もセリ前に、的確な計画を建てられるようになったので、セリ時の買い取り単価にも影響が出た。

プルシアンブルー社はこの漁業改革の結果を待ちわびていたとも言える。例えば、スーパーの鮮魚部門にも関係が及ぶからだ。

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提携スーパーの変革第2幕が始まった。
富山市と金沢市のスーパーはプルシアンブルー社の資本が入る前は相互に取引関係のない2社だった。スーパーに生鮮食品を卸しているそれぞれの業者もバッティングしている会社はない。

野菜果物の青果部門、精肉部門、水産部門の3部門の業者もそれぞれ異なる。
金沢のスーパーに納入している生鮮食品納入業者と、富山のスーパーに納入している業者に、新たに富山と金沢のスーパーに納入したら、御社はどんな商品を幾らで卸してもらえますか?という甚だ鬼畜の所業のような回答を求めた。予めお願いしているのは利益を度外視して価格提示しないでほしいという点だ。必要な利益をしっかりと確保いただいた上で、卸値を提示いただく。

店舗数もほぼ同数で、各生鮮食品の売上規模も似通っているので、どの品質の商品を幾らで提供出来るかが一つのポイントとなる。

その一方でスーパー側の生鮮食品担当者とそれぞれ面接し、卸売業者との交渉術、青果担当であれば野菜の見分け方、鮮魚担当も商品のチエックポイントをどこに置いているかヒアリングする。

青果精肉の卸業者とスーパー担当はモリが。鮮魚の卸業者とスーパー担当は鮎が映像を見て判定する。

最終的に総合点の高かった卸業者が3社に絞り込まれる。あぶれた3社は新たに契約を交わすスーパーとの卸業者とコンペを行う。
スーパー仕入れの担当者は2社のどちらかの人材に集約し、商品展示、陳列作業の優れた人をチーフとして2社のスーパーの教育と指導係となる。

あぶれた方は部門移動をしてもらうが、経営者は炙れた人材をリストラしてはならない。1年後に再度トライして頂く。

このようにスーパーを横断して人材育成と活用を行うと2社の経営者はどちらが優れているか?と言う話になる。株式と資本は所有したまま、新店舗の店長や経理などマネージメント職や専門職に転じてもらう。

この手順で2社のスーパーを同じ会社のように扱い、強くそして均一な組織としてゆく。資本提携時に経営者に同意いただくのが前提となっている。

生鮮食品の売り場が刷新されると、大抵周辺のスーパーを上回る。「食品メーカーの商品が安い店」に加えて「生鮮食品が見事で安価な店」という看板が加わる。

今度は富山市、金沢市以外の市町村で複数店舗を持つスーパー2社を選定して、屋台販売と「食品メーカーの商品が安い店」の称号を提供する。最初の6店舗から12店舗近くに倍増するので、東南アジアからの食品メーカーの商品の輸入料も増えるので仕入れ価格が下がるので、ビールや清涼飲料水、菓子類の販売価格も下がる。マレーシアやシンガポールの日本メーカーの商品、ご当地ビールも新たに取り扱い、増えてゆく。

モリの個人的な好みで選ばれているビールで言えば、今仕入れているタイのシンハーやチャーンビールに対して、新たにシンガポールのタイガービール、ラオスのラオビールをぶつけて仕入れ値を競わせようとしている。おそらく、ラオビールが価格的には優位なのだろうが。

狙いは大手資本のスーパーに打ち勝つのが狙いだ。「安かろう、悪かろう」のプライベートブランドを持つ「いをん」が横浜の家の近所にある。安いから買い物に行くのだが、酷い品物も数多くあり、モリは決まったものしか買わない。
日本の食品会社の東南アジア工場で製造された商品で割安感で勝負し、生鮮食品の質で勝負する。さらに第3弾は「ご当地モノ」だ。富山と石川の醤油や味噌、お菓子や漬物などの食品メーカーの仕入れ量が店舗一体化で順次増えるので、仕入れ価格の交渉を店舗が増える度に交渉してゆく。

この第2弾のステップを毎年繰り返し、人材育成と強い卸業者の選定を繰り返して北陸流通業の牽引役となるスーパーを育ててゆく。
特に富山市を中心に3箇所に展開しているスーパーは第2弾が終了したので、客の入りが更に増す。その駐車場で知事の候補者が演説をする。

富山県民100万人の6割は富山市に住む。富山市の周辺を中心に音声を流さない選挙カーを複数台を、AIが示す時間帯別の渋滞ポイントの空いている車線を走らせて人目につくようにする。選挙カーの頭上にドローンを飛ばし周辺の道路状況をAIに集約するのと同時に、選挙スタッフが確認をする。

混んでいるロードサイド店舗があれば、駐車場に乗り入れてドライバーが食事をして選挙事務所名義の領収書をもらう。ホームセンターならばゴミ袋や軍手などの消耗品を購入して領収書をもらう。とにかく人口密度の高い場所を探しては、車両を向かわせる。

選挙事務所はテイクアウトメニューの販売を行い、飲食店のようにする。選挙スタッフの大半は徒歩3分のプルシアンブルー社の本社で電話番、選挙カーの現在地把握と走行ルートの指示を出す。
まだ、選挙期間中ではないので、選挙カーではない軽自動車を走らせて、ドローンを飛ばして実践テストを始めていた。

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与党本部はうなだれていた。
あらゆる面で富山県が突出しているので、メディアが取り上げない日は無いほど、富山の情報がそこかしこで見る事ができた。

富山県議連は北陸の周辺県の県議会と情報のシェアをし始めており、北陸、日本海側経済圏の変革を打ち出そうと県議会で熱く語るようになっている。その全てがプルシアンブルー社のテクノロジーや経営戦略によるもので、与党のオリジナリティは何一つとして無かった。
しかしメディアは活気に沸く富山県を取り上げる。国と中央政府が何ら策を打ち出さない中で、コロナの影響を殆ど受けずに、日々の生活と暮らし、そして経済が営まれている。

この好調な状況に何も携わっていないのに、「県議だから」と言うだけでメディアに出て、取材に応じ、したり顔で北陸経済を語る連中が出てきた。彼らは「金森支持」を公言すれば、許されると勝手に解釈したのだろう。御用メディアに登場する上っ面の議論と発言に終止するコメンテーター、評論家的な立場やポジションを確立しようとしているように、視聴者には見えた。

「今までの県のやり方は中央依存型で、党本部の方針や意見が全てでした。我々県会議員の声も実に小さなものでした。意見が何度も握りつぶされ陽を見ることはなかった。
しかし、独自色を打ち出した事で、富山ではブレイクスルーが起こり始めています。我々富山県はこの手法を更に磨いて、中央政府に何ら依存することなく歩んで参ります。
真の地方再生は、我が富山県から起こる、そう高らかに宣言したい」

メディアとしても扱いやすい存在だった。選挙前のタイミングで現職知事と新人候補者を取り上げる訳にはいかない。しかし、今の富山県の状況を、与党から金を貰っている評論家やコメンテーターは与党の敵対陣営による成果なので発言できない。そこで金森支持を掲げている与党所属の県会議員数名にマイクを向けたら、現職知事の批判、中央政府の批判を盛り込んで喋るではないか。

「金森さんが維新の会のような地方政党を立ち上げたら、議員はどうされますか?」

「それは私たちも提案して行こうと考えています。仮に与党に残ったとしても、同一会派を作って新知事と共に戦っていこうと思います」

と、カメラを前にして後先考えずに話す。さすが出任せトークに終止する政党だった。

党本部も立場上難しい状況にあった。メディアに露出慣れした県会議員達をここで罰してしまうと、今の富山県の状況を支持している富山県民の非難を浴びてしまう。「やはり与党は反金森の立場なのね。県議さん達は間違ったことは言っていないのに」と。
与党本部だけでなく政府にも非難が及ぶかもしれない。何よりも、前回のように米国からクレームを受けるかもしれない。
それに県議たちの意趣返しも分からないでもない。新知事の誕生はもはや確定と言ってもいい。

首相に当選して内閣を組閣してから政策をどうするか、具体的に何を始めるか協議するのが、G7を始め世界の主流を占めている。選挙中は絵に描いた餅を演説や記者会見で述べていれば、良かった。公約など守る方が少ない。
政治は支持者層に対して行うもので、一般大衆を相手にする必要が無い。日本は特に顕著で、投票率が低いので宗教票と少数の支持層を押さえておけば事足りてしまう。だからこそ、最初はぶち上げて言葉遊び「一億総活躍社会」「新経済」と後で総括もしないで、アドバルーンだけ上げていれば今までは良かった。

金森陣営は実際に手本を示して見せる。公約の実現方法を有権者が理解出来るよう具体的に資料に纏める。それも選挙前の段階で打ち出し、部分的に実現してみせる。
こんな候補者の登場は世界初と言ってもいいだろう。民衆は新知事に期待して投票するのではなく。華々しい成果の数々を目の前に並べられて「現職の知事よりも、断然有能だ」と判断して投票する、そんな選挙になろうとしている。

新知事の手腕と方針が既に分かっていて、県民が支持するのも確定的な状況で新知事に逆らう動きをすれば、次回の選挙時に落ちるかもしれない。自己防衛の為にも主流派となる知事陣営に立ち位置をシフトせざるを得ないのだ。
党本部に反しようが、仕方ない状況に県議たちが追い込まれている。党本部も前例のない今の状況を分からないでもなかった。

また、与党がどうあれ、省庁の官僚の中では変化が生まれた。
これまで2度野党政権が誕生したが、どちらも大失敗で終わった。新党も幾つも立ち上がったが、与党を含めて、絵に書いた餅を実現できた政治家や政党は一人も、一党も存在しなかった。
そんな政治の舞台に、しかもコロナという状況下で、100万人の県民しかいない小さな県が胎動している様は驚異的だった。

人口が少ないメリットを最大限に活用している。「直ぐに効果が現れる」のと、「少額の投資で済む」という点を活かしている。信長が尾張国の経済をまずは強化して、周辺を束ねていった手法に重ねてみてしまう。外務省が目を奪われたのが、他国との接点を独自に持った点だろう。各国の大使を味方につけると次々と実践していった。全ては日本のためではなく、富山県民100万人の為だった。外務省や農水省は1億の日本人を視野にしながら行動するが、100万人が対象となると肩の荷も軽くなる。

プルシアンブルー社が海外で調達した物資の量は一県向けとしては過剰すぎるものの、県内に迅速に行き渡りつつある。初期投資の部分で費用が嵩んだ可能性はあるが、この手法を横展開するのは県の予算で見ても安価で済む。

官僚たちの中では富山の分析を重ねて、「金森プラン」と呼んで語り合うようになっていた。日本の未来は地方から始まってもいいかもしれない、という発想が生まれていた。
何よりも金森候補者とその家族と賛同者たちは、県レベルの経済の立ち上げ方を実践している。周辺県に順次展開するのも間違いない。ならば、省庁レベルで支援する方法はないだろうか、このまま成長せずに失速しようものなら、日本は本当に終わるかもしれないと、省庁を横断してワーキングチームが立ち上がろうとしていた。
その一つが外務省の里中が立ち上げた、「東南アジア、南アジア稲作支援プロジェクト」だった。プルシアンブルー社の活動を支えて、アジア内での日本の立場を復権したいと構想を掲げた。

富山湾での漁業改革も朗報となる。第2弾は漁業で行こうとワーキングチームは狼煙を上げた。

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あゆみと彩乃の2人の中学生を前にして、玲子が説明をしていた。「玲子ちゃんの話し方って、お父さんそっくりだな」と思いながらあゆみは聞いていた。

「ようやく分かってきました。与党の県会議員が鮎先生の支持を表明するのが、どうしても分からなかったんです」彩乃が言う。

「そう、今までにない選挙の手法にみんな驚いた。私もすごく驚いた。
今の政権が立ち上がって暫くしてから「メインの政策は大規模な金融緩和政策です。これで日本経済を立て直します」って言ってた。最初は大騒ぎになった。もの凄い金額を投じる事に誰もが驚いていたから、失敗は許されないぞ、大丈夫なのかってみんな言ってた。先生は大失敗するからみてろって言ってた。金額ばかり先行してるけど、プランの制度自体はスカスカ過ぎで抜け穴がいくらでも見つかった。投じたお金が効果的に作用しないって見抜いていたのね。

確かに国の最重要プランとしては杜撰だった。ホンの一時的なものでしかなくて、全部借金になっちゃった。政府が勝手にやった事なのに、彼らを当選させたのは日本人だから、全部国民の借金になっちゃった」

「何度聞いても、腹が立つなぁ」あゆみが腕組をして怒っている。

「そうね、なんで失敗した首相は責任を負いもしないでノホホンとしていられるのか分からないわね。で、サミアさん達は、今の首相が大失敗に終わった責任をからかってやろうと思ったのよ」

「え?そんな事、誰も一言も言ってないですよね?」彩乃が一生懸命思い出そうとしている。

「さっきも少し触れたんだけど、首相になって組閣してから、詳細のプランを作ってゆくのが普通なの。だって、日本の政治家はうわべでモノを言うけど、細かな部分を決めるのは官僚任せだから、首相や財務大臣が決まって財務省側と日銀ののプロジェクト推進チームが揃わないと出来ないのよ。だから、政権が始まってからかなり後でプランが実行される。それだけ時間を掛けてみたけど、首相寄りの人員ばかりを集めたから、いい加減なプランになっちゃった。財務省と日銀の窓際族が作ったから、中身は酷いものだった。で、案の定、大失敗」

「そうか。ベトナムで田植えを始めて、タイに広がろうとしている。スーパーの売上は6月の中旬だけで去年の6月の3倍以上になっている。富山湾の漁業組合の経営は改善されたし、プルシアンブルー社は工場の建設を始めている。小麦を届けて価格を抑えて、スーパーは安くて大人気なのに、まだ富山は選挙していないんだよ、彩乃ちゃん!」

「あ!なるほど。プルシアンブルーだけでやっちゃったのか・・凄い、すごいです!」

「それでベトナムとタイだけじゃ勿体ない、もっと対象範囲を広げて日本としても協力しましょうって話になった。外務省と農水省に防衛省がタッグを組んで、資金援助しますってことになったの。全てはプルシアンブルー社のプロジェクト内容に賛同したから。与党というよりも、省庁の官僚たちがプロジェクトとして成功させようって立ち上がったんだって。
コロナですべてが止まって暇だったからっていうのもあるんだろうけど、それでも画期的なのは間違いない」

「バギーを考えたの、お父さんって本当?」

「そうよ。自動で動くようにしたのはサミアさん達だけど、30年前の先生が考えたアイディアなんだって。5年前に先生がエンジニアのみんなに紹介した説明資料を持ってる人がいて、サチが富山のオフィスで見せて貰ったんだけど、今のバギーそのままのスケッチが書かれてたんだって。ワタシも今度見せて貰おうと思ってるんだ」

「30年前っていうと何歳ぐらいだったんでしょう?」
「20か21歳の2月らしいから、31年前だね、厳密にいうと。丁度ワタシぐらいの時かな?」

「どんなだったんだろう、大学生の先生って・・」
彩乃の目に憧れの色を見て取った。やっぱり、そうなるのか・・と玲子は思った。

「あ、アルバム取ってくるよ。あんまり変わらないんだけどね・・」
あゆみが立ち上がって部屋を出ていった。

「先生の昔の写真って、私も見たことないよ。どんなんだろうねぇ」

「モテたんでしょうか?」

「どうだろうねぇ・・」

「カッコイイんだろうな、きっと・・」

中学時代のワタシもこんなんだったんだろうな、と思いながら、玲子は彩乃の頭を撫でた。

(つづく)


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