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(5) お目出度ラッシュに伴う諸変更 (2023.12改)

前内閣で補佐官であった新井崇は、石場政権でも再任された。

金森富山県知事とモリ都議の分析を最も行った人物として、与党内では評価されていたようだ。
モリと近いと言われている梅下外相が内閣に居るので、今度こそモリとの接点が持てるのではないか と期待しており、新井は補佐官就任を受け入れた。就任したとは言え、与党に対する風当りは未だ強い。
前政権の大失策は根強い批判として払拭出来ずに残っており、その一方で金森陣営は社会党入りし、政党というより卸問屋のようになっている。近い内に麦やトウモロコシ、大豆の供給を始めるので商社のようになると推察している。
つまり、物資や穀物飼料の利益が政党の財源となる。政府が担っていた役割を社会党に取って代わられた格好だ。東南アジア、オセアニア各国の政府や王族と、また米国とも交渉した上での事業なので、反論のしようがない。
社会党だけではない。
両輪となっているプルシアンブルー社はシンガポール市場で上場し、日々株価が上昇している状況にある。同社の事業も順調に展開され、日本経済から見ても無視できない存在になりつつある。

以上により、年内の国内政治情勢予測は与党に甚大な被害を齎すと見られている。
年内の選挙は2県3県庁所在都市の知事・市長選があるが、社会党の擁立した候補に惨敗するのが、ほぼ確定している状況にある。候補者も学者を擁立して、前政権が蔑ろにしてきた大学、研究施設への批判票を獲得している。

日本経済の再興を党の方針に掲げていないのが逆に疑問なのだが、コロナで世界経済が失速している中で、コロナ対策関連以外の企業が業績を上げ、挙句の果てに上場までしてみせる。しかも東京市場ではなく、国際市場で優良銘柄になってしまった。
北米、中南米で同社が活動するようになればNY市場での上場もあり得る。更なる資金を獲得するやもしれない・・

低迷していた社会党が「経済を牽引する政党」として生まれ変わろうとしている。
恐らくモリは国内など見ていない。国際政治を俯瞰しても見当たらない新・社会党は、各国の政治研究者の格好の題材となるだろう。

「3度目の政権交代を視野に入れているようだな・・」
数々のデータを分析しながら、新井は自分の中で結論づけようとしていた。
「もしコロナが無かったら、彼らは立ち上がっただろうか?」と、もしモリに会う機会があれば問い質したい内容だった。

「経団連が機能していたら」「米国企業が世界経済の覇者として権勢を誇っていたら」「世界の工場として中国が生産体制を維持し、更に成長しようとしていたなら・・・
「モリさん、あなたはプルシアンブルー社を創業しようと思われましたか?」と。

一方で新首相は春先の衆院解散を検討している。
コロナを克服する術を未だ持たない人類は、この冬で再打撃を受けるのは確実視されている。感染の冬を乗り切ることが出来た場合、夏のオリンピック開催前に選挙を行えるか否かで与党の命運が決まる。
単独与党は、もはや有り得ない。
大失態を犯した元首相・元副首相・元幹事長・元官房長官周辺議員の派閥や関連議員の選挙区を野党が狙って来るのは間違いないので、その選挙区を野党に明け渡し、大連立内閣、救国内閣を組閣する道が日本にとって最良なのではないかと新井は考えていた。イメージとしては社会党の斑山首相を連立与党が擁立した状態に近い。
今度は対等な連立内閣か、弱い立場となった自民党が参画するかの何れかとなる。

モリは間違いなく国政に転じてくるだろう。
そうとしか思えない活動を繰り返し、国内はおろか、海外でも知名度を高めてるのだから。
カンボジアに再び舞い降りた一行を報じる映像を見ながら、新井は苦笑いしていた。

ーーーー
金森鮎知事は志水由紀子、平泉理美と共に新幹線で東京駅に到着した。

社会党党首との面談があるので鮎は永田町へ向かうので別れた。鮎が側に居るだけで圧を感じていた由紀子は、開放されてホッとする。

大森駅に到着して、理美をお茶に誘う。
大森の家には女子大生しか居ない時間帯だが、自分の家ではないので完全には寛げない。
理美には源家の特異体質を知らせてはいないが、同じ年の同郷同士が肩肘張らずに会話が出来る。

「あなたに勝てる60代女性って居ないかと思ってたけど、まさか居るとはね・・」
理美はそういって紅茶を啜った。

「理美に言われると嫌味にしか聞こえないな。
あなたが4人も産んだとは誰も思わないよ。胸なんて、若い頃と変わらないじゃないの」

元々豊かな方ではなかったが、小さくなった?と実感していた由紀子は自分の胸に手を当てる。あの人は「形がいい」と揉み、キレイな乳首だと何度も吸ってくれたが・・

「これ以降の年になるとね、鮎先生やあなたみたいに脂肪の少ない方がいいのよ。母を間近で見ていたからよく分かる。今が良くても後は垂れてく一方なんだよ。70過ぎたら、今の状態である筈がない・・でも鮎先生のカラダはキレイだったな」理美が宙を見ている。昨夜ホテルの展望風呂で遭遇したと言っていた。

「やっぱさ、若い男のエキスは大事だよね」
思いついたように理美が言うので、飲んでいたコーヒーで噎せてしまう。

由紀子は話を変えようと思った。
「安定期までお互い黙っていましょう」という鮎の提案に従わざるを得ない。それに、里子も恐らく妊娠している。年末年初には診断結果が出ているだろう・・

「年下より、年上の男性の方が需要あるでしょう?先生がいいケースじゃない。普通なら、怒って孫娘を取り戻してる場面でしょ?ところがあなたも私も、娘まで添えて差し出しちゃってるんだから・・」

「彼は例外中の例外、光源氏の再来だよ。ユキは考えない?私達じゃ相手にならないのかなって?もの凄く上手らしいよ。アレも太くて、堅くて大きいって里子が言ってた。
夫が外人だったあの子がボロっと言う位だから、相当なんだと思うのよね」

「そ、そうなんだ」

「アメリカ行ったらさ、抱いて欲しいってお願いしてみてよ。里子も細い所まで教えてくれないのよね」

「そんなの無理だって・・」

「じゃあ、私がアメリカまでついて行くしかないかぁ」理美がシャツの袖を捲り始めた。

「イヤイヤ駄目だよ、危ないって。クマ並みに大きいんだってば、あっちのイノシシは・・」 由紀子は急に必死になった。

ーーー

私はもう子供を産めない。
年が明けて61となるという由紀子は、月によってはやや乱れるものの、まだ閉経していないのだと明かしてくれた。しかし、二人と離れてから冷静に考えると、本人が妊娠を狙っていたと思えなくもない。元よりあの美貌だ、モリを誘惑できる自信も少なからずあったのだろう。
例え意図的な犯行であったとしても、同世代がモリの子を宿したという点で喜びを共有したのか、思わず「おめでとうございます」と口にしながら、頭を下げている由紀子の背に手を当てた。

あの化粧が崩れた泣き顔を見た時、本人にも妊娠は想定外だったのだと思った。
とは言え、安定期どころか出産までは予断を許さない。若く見えても年齢を見れば、流産の可能性も高い。本人は北米に行ってモリを支えたいと言っているが、帯同するだけで流れてしまうかもしれない。

それでも羨ましいのは変わらない。
火垂と海斗の出産は感動した。「あの人の子」という爆発しそうなまでの愛おしい感情が身体全体を支配していた。蛍を出産する時は何故か冷静だった記憶があるので、本人には言えないのだが。

県庁まで戻って来て、自室に入ると副知事がノックして入って来た。あれ?泣いている?

「先生・・ありがとうございます。私、妊娠してました・・」

「ええっ!いつの間に・・」
言ってから慌てて口を閉じた。幸乃は特殊体質ではないのだ。

「閉経したのかと思って落ち込んでいたのですが、つわりの症状が出まして・・3ヶ月でした。・・本当に・・ありがとうございましたぁ」幸乃がワンワンと泣きながら抱きついてきた。

私の方が驚いちゃって泣きたいくらいだよ、と思いながら、幸乃の背を撫でていた。

ーーー

母に受胎を報告した、ここ数日は思い悩んでいるように見える。
一方、東南アジアに行っている姉は、どうやら覚醒したようだ。母の事だから母体優先と考えて、代わりに姉を送ると言うだろうが、アメリカ行きをやめるつもりは無かった。

母は全く別の話をしてきた。
月末の外相への報告にあなたは由真の代わりに先生に同行しなさいと言う。北米帰りなので相手も違和感を感じないだろう、と。
話を聞いて悪くない計画、いや、最良の報復プランだと真麻は思った。

ーーー

幸乃から感謝のメールが届いた。予定通りの結果となって安堵する。

夫の夜の手綱は全て蛍が握り采配している。妊娠対象者は「幸乃と里子、翔子のハトコのどちらか旦那に任せる」となっている。
渡航前に里子に尽力した筈だが結果がどうなるか?今はただ待つしかない。

モリの正妻である蛍は、まさかの相手、翔子の母・由紀子が妊娠の相談を鮎にしているとは この時点では知らなかった。

蛍にはもう一つ仕事があった。預かっている幸乃の次女、彩乃の進学問題だ。
モリ家の養女になるという話が中高一貫校の校内で広がり、周囲の生徒からのやっかみの対象になりつつある。蛍の長女のあゆみも彩乃の状況を見て、出来る事はやってきたのだが、2人の学年が違うので、全て目が通せない。
モリにとっては4男坊で、蛍にとっては次男に当たる圭吾も、姉同様に父親を追い出した学校への不信感も未だにあり、高校は別の学校に行きたいというようになった。

長女のあゆみは都内の高校を年明け受験して、彩乃と圭吾は母と祖母が居る富山の家に戻り、市内の公立の中学へ転校するプランを考えていた。幸乃の出産もあるし、富山の学力は日本一なのでその方が良いだろうと判断した。

夕飯後、彩乃を客間へ呼んだ。

「ママが妊娠したって」彩乃にメールを見せると泣き出したので、焦ってしまう。

「違うんです。凄く嬉しいんです。蛍ママ、教えてくれてありがとうございます」

「妹かな、弟かな、楽しみだねぇ」
彩乃の頭を撫でる。泣き止むと母親からも聞いているのか決心したようだ。

「私、五箇山に行きます。転校します」と彩乃ははっきり言った。

「そっかぁ。でね、圭吾も転校したいって言ってるんだけど、一緒だったら迷惑かな?駄目でもいいんだよ。あの子は今の学校が嫌なだけで、都内の中学でも構わないんだから」

「えと・・圭吾くんはよく助けてくれるから嫌じゃないんですけど、周りがそれを見てカップルだ、同じ家に住んでるって誂われてました。それで圭吾くんも学校が嫌になってる部分もあると思うんです。富山でもそうなっちゃうかなって思うんです」

「同じ五箇山の村だけど、住むのは別の家になるよ。流石に思春期の男女が2人だけで同じ屋根の下って言う状況はマズイからね。でも、通学は同じバスになっちゃうけど」

「あ、それなら私は大丈夫です。圭吾くんが宜しければ」

「そっかぁ。母親としては嬉しい展開なんだけど、そうなると新たな問題が起きるのよね」

「なんでしょう?」

「あゆみ。 ・・アイツも転校するって言いそうじゃない?」

「あー、そうですね。 アッ!」

彩乃が手で口を抑えて、蛍の後ろを見ている。蛍が振り返ると襖のスキマから子供達が覗いている。全員集合と相成った。襖がガラッと開いてあゆみが入ってくる。

「アタシも彩乃と一緒に転校しまーす。中学生活は数カ月だけどね」
あゆみが彩乃を抱きしめる。
「赤ちゃんは私達の弟、妹でもあるんだよ。良かったねぇ」と言うと、彩乃がまた泣き出した。

「泣くな彩乃、彩乃はオレが守ってやる、安心しろ!」
一人だけスポーツ刈りの圭吾が言うと、高校生の兄達がスリッパで圭吾の頭をパシパシとランダムにリズミカルに叩きまくった。ドリフみたいだなーと、母親は潤んだ目で子供達を見ていた。

(つづく)


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