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台湾台北 日本の高校教科書にも出てくる、魔術師のいる(?)歩道橋
台北の渋谷とも呼ばれる西門町に、魔術師がいると言われる歩道橋がある。
日本の高校現代文の教科書にも登場するようになったが、なぜかほとんど紹介されていない。
今回は、魔術師に会いに、この謎めいた歩道橋へ行ってみようと思う。
歩道橋のすぐ近くに横断歩道がある。
ここに、わざわざ歩道橋を渡る必要はない。
魔術師のために造ったのか?
謎はますます深まるばかりだ。
不気味なほど大きく立派なエスカレーターがあるが、完全に止まっている。
所どころに錆があり、手すりの塗装も剥げていて、風が吹くとすきまにたまったゴミが舞い上がる。
まるで廃墟にあるエスカレーターのようだ。
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壊れていて動かないだろうと思いながらも、恐る恐る乗ってみた。
すると、急にガアーと音をたてて動き出した。
魔術師は、私が歩道橋に来たことに気が付き、廃墟のエスカレーターを魔法で動かしたのだろうか?
(本当は、センターで自動的に動くようになっているだけです)
エスカレーターは、私を未知の世界へ導くかのように、
どんどん上がっていく。
魔術師に会えるかもしれないという期待と恐怖で、
息を殺して一歩ずつ前に進んでみる。
魔術師がいない。
それだけではない。人もほとんどいない。
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大きく立派な歩道橋だが、あまりにも無駄ではないか?
税金の無駄遣いではないのか?
私は心の中で、魔術師に文句を言った。
(もちろん日本語で。中国語はそんなに上手に話せません)
すると、歩道橋に書いてある「中華商場」と「孝」という文字が突然目に飛び込んできた。
そういえば、以前ここに中華商場があった。
私の心の叫びが魔術師に伝わったのだろう。
魔術師は日本語も通じるようだ。
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中華商場とは、1961年に完成したアパートを兼ねたショッピングセンターのことで、忠・孝・仁・愛・信・義・和・平の8棟あり、2階は歩道橋で結ばれていた。
この場所は孝の建物が建っていた場所だ。
中華商場の記録を報道(中国語のみ)
台視新聞
老台北人的記憶!中華商場見證繁華【熱線追蹤】
https://www.youtube.com/watch?v=D8Gn97LqUZ4
目の前に急に中華商場の情景が浮かんできた。
約30年前の私が中華商場を歩いているのが見える。
中国の北方をイメージさせる内装の食堂で、
鍋貼(焼きギョーザ)をおいしそうに食べている。
台湾のアイドルグループのカセットテープを手に取り、
「ジャケットはカラーコピーしたようだな」
とブツブツ独り言を言いながらも、レジに向かっている。
人通りの少ない3階に行き、線香の煙が漂う薄暗い狭い部屋で、
将来を占ってもらっている。
台湾で就職できるのか、それとも日本に帰るべきか・・
自宅に戻るバス停でバスを待っていたが、
寝袋を買いに来たことを思い出し、また中華商場に戻っている。
ふと我に返ると、目の前から中華商場が消えていた。
歩道橋の下は、人や車が東へ西へ、北へ南へと途切れずに動いている。
しかし、歩道橋の上は相変わらず人がいなく、物寂しさが漂っている。
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きっと、魔術師が私に過去に戻る魔法をかけてくれたのだ。
魔術師には会えなかったが、青春の思い出に浸ることができた。
魔術師、ありがとう!
この中華商場は、吳明益の小説『天橋上的魔術師』の舞台となり、台湾ではドラマ版も放映された。
小説は、小学生だった主人公の思い出をノスタルジックに表現しているが、ドラマ版は、戒厳令、兵役、白色テロなど、重苦しい空気が漂う当時の様子も描きこんで、より一層リアル感を出している。
ドラマ版『天橋上的魔術師』予告編
日本語翻訳版は『歩道橋の魔術師』との題名で、高校の現代文の教科書にも採用されている。
『歩道橋の魔術師』が掲載されている高校現代文の教科書
翻訳したとは思えないような自然な日本語で書かれており、内容も日本の商店街で育った人の思い出と間違えてしまうほど共感できる部分も多いので、吸い込まれるようにストーリーの中にのめり込んでしまう。
台北の西門町を訪れる前に、ぜひ『歩道橋の魔術師』を読んでほしい。
読んだ後この歩道橋を渡ると、魔術師に会えるかもしれない。
会えなくても、魔法がかかり楽しかった青春の思い出に浸ることができるかもしれない。
歩道橋の魔術師 日本語翻訳版
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参考にした資料
國家圖書館
重現天橋下的記憶—國家圖書館徵集中華商場及西門町老照片
https://www.ncl.edu.tw/information_237_12073.htm