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腰を痛めてしまいました。

先日の朝、目覚めて早々、僕は腰に違和感を感じた。

マットレスを敷かずに煎餅布団の上で眠り続けていたが、体によくなかったのかしら。

そんなことを思いながら僕は無理矢理上体を起こしてみた。

その瞬間、僕の体の中を稲妻のような速さで痛みが通り過ぎていった。痛みは去り際にセイハローと言っていた。僕は痛さのあまり、うめき声を上げてそのまま布団に倒れ込んだ。

腰、いてえ!!!いてえー!!!腰がめちゃくちゃいてえ!!!死ぬ!!!死ぬ!!!ぎっくり腰か!!!ついに!!!ついにぎっくり腰が僕の背中にも来たのか!!!来なくていいのに!!!来たのかー!!!くんなー!!!帰れー!!!けえれー!!!!

状態を確かめる必要があった。僕はとりあえずもう一度体を起こして背中を触ってみた。ピリピリと痺れた。立ち上がってみるとどうだろう? 真っ直ぐに立ち、お尻の上の骨のあたりを押してみると痛む箇所が見つかった。ここが原因か、と思いながら僕は痛む場所を何度か触った。

小さく「ウッ」と声が漏れたが、何回か触った。

痛いけど、痛い場所を触るのってなんか嫌いじゃないんだよなーとめちゃくちゃきめえことを考えながら(クサイものも嫌いじゃない。キンタマの裏とか)、

僕は自分が当たり前のように立っていることに気がついて、全然ぎっくり腰じゃないことにも気がついた。



「腰を痛めたら、マッサージではなく整体に行ったほうがいい」

先日、友達と飲んでいるときに友達に言われた言葉を思い出した。

僕は今年で29歳、2021年には30歳になるのだが、気がつけば少しずつ、ほんの少しずつ、友達との会話の中で「健康」という言葉が頭を出すようになった気がする。

卒煙を試みる人も増えたように思う。ダイエットする人も増えた気がする。その一方で僕はタバコをスパスパ吸いまくり、夜中にコーラとポテチを抱えながらアメリカのめちゃくちゃバカなコメディをみている。

これが今の人生で一番「ああ、生きているなあ」と思える瞬間なのだ。

タバコは2日で1箱、下手したら1日に1箱のペースで喫煙している。数年前までは1週間で1箱だったのに、増えている。肺は多分めちゃくちゃ真っ黒になっているだろう。


タバコを吸っていると、「癌が怖くないんですか?」と聞かれたことがよくある。

その際、僕は「めちゃくちゃ怖いです」と答えるように心がけている。現代を生きる人間の中に癌が怖くない人間など、いるのだろうか。

タバコを吸っているからと言って癌を恐れていないと考えるのは短絡的である。癌とガン(銃)とガンを飛ばされる(ヤンキーに)のは怖い。

それでも、僕はタバコを吸ってしまう。なぜなら、癌が発覚する前にトラックが家に突っ込んで来て僕は死んでしまうかもしれないからだ。

ミスチルのシーソーゲームの歌詞で言うところの、「運命ってやつも考慮して」、僕はタバコを吸う。病気は怖い。怖いけど、だからと言ってタバコをやめようとは今は思えない。


それにしても、5年前の僕たちは酒を飲みながら健康について語ったことはあっただろうか? 飲み会中、テーブルよりもトイレにいる方が長かった僕たちが、ゲロを吐きながら健康について話をしたことなどあっただろうか。

無論、ない。

ああ、こうして僕たちは知らぬうちに「健康」に侵されていくのだろうか。こうして、僕たちの会話は健康ばかりになり、僕たちは健康のことを考えながら死んでいくのか。

仮にもし長生きに成功してしまい、自分が100歳になったらどうだろう。周りも絶対「あの人健康だよな」という視点で自分のことを見始めるだろう。つまり、長生きしても健康法を聞いてくる輩が増えるわけで、結局僕たちは健康についてばかり話さないといけない。

僕は小学生のころ、金さん銀さんが飯を食っているシーンをめざましテレビで何回見たかわからない。僕はずっと疑問だった。どうして老人の飯を食うシーンを見ながら朝飯を食べないといけないのだろうか、と。

健康について語ることは大事だと思う。でも、不健康について語ることも辞めないようにしたい。やっぱりコーラは一番美味しい水である。その次に美味しい水はドクターペッパーだ。三ツ矢サイダーも美味しい水である。



話がめちゃくちゃ逸れたので、元に戻す。

それで僕は腰痛の治療のために、自宅から徒歩1分の整体院に予約の電話をかけた。電話に出たのは若い男性で、僕は結構重症のアピールをしたのだが、明日の夜しか空いていないと言われた。枠が空いていないのであれば仕方がない。

ということで、約2日、僕はこの腰痛と生活を共にすることになった。

自転車に乗ると腰が痺れる。椅子に座ると腰が痺れる。何をしても腰が痺れる。自慰行為をしたら足が攣った。これだけちょっと違う怪我なような気がするが、なにをしてもどこかしらが痺れるのでひどくくたびれた。

その二日間は、マジでテンションが低かった。




それから僕は「整体っていくらぐらいかかるんだろうか」とふと考えた。

僕は金欠だ。もし誤って高い金を請求されたら1発アウトだ。整体の会計をなかったことにするために自己破産するしかなくなってしまう。それはまずい。

そこで料金をネットで調べてみたが、料金体系に関する情報は一切出てこない。接骨院や病院や歯医者は、料金設定が曖昧なことの方が多いようだ。ごめんなさい、また脱線します。



僕は4年ほど前、歯が痛過ぎて日本橋の歯医者に駆け込んだことがあった。前職時代に勤めていた会社のビルの前に歯医者があったのだ。

絶対親知らずだとわかっていた。すぐにでもハンマーでかち割って欲しかった。だが、いざ席に通されると先生は弟子のような男性四人を従えてゆっくり登場すると、椅子に深く腰を下ろし、ゆっくりと自己紹介を始めた。

それから僕は右下の歯を指差し、「親知らずでして」と言ったが、その先生は随分と慎重に物事を考える人で、スプーンのような鏡で僕の歯を見てから、うーんと唸るように考え、念のため、手始めにレントゲンを撮ることになった。

まず、僕はレントゲンを撮るためにA部屋に通された。先生は助手を引き連れて、別室から僕のことを見ていた。

放射線と共に彼らの視線を浴びながらレントゲンを撮り、次にB部屋に通された。また同じように放射線と視線を浴びながらレントゲンを撮った。

歯のレントゲンを撮るためだけに2つ部屋を移動させる歯医者がこの世にあったんだ。僕は不思議に思いながら、元の施術用の椅子に通された。

治療が始まると思った矢先、その椅子が反転させられた。なんだ、と思って見てみると、カメラを構える助手たちが目の前に現れた。カシャカシャと写真を撮られながら、助手の1人が僕の歯をスプーンのような鏡で診ては謎の暗号を言い出した。それを他の3人が復唱した。怖かった。

「よく歯磨きできてます。素晴らしい」

彼らが何をしているのかはわからなかった。だが、歯を褒められると、なんだか悪い気はしなかった。

それから僕の椅子はまた反転し、先程の先生が現れた。

うーん、とこれまた少し考えてから、「これは……おやしらず……ですね」と先生は言った。

いや、知ってますって!僕は心の中で叫んだ。ソウルスクリームだ。

「できればすぐに抜いて欲しいんですけど」

「あはは……あの……うちはね……ダメなんです……大学病院を紹介しますよ……」

ここは一体何屋だったんだろう?

僕は先生の言葉を聞きながら不安な気持ちになった。結局違う歯医者に飛び込んでハンマーでかち割ってもらった。

そのことを上司に話すと、上司は「ああ、お前、あそこは行っちゃダメだよ」と僕に言った。曰く、その歯医者は「中央区に住むセレブが行くための歯医者」だったらしい。たしかに会計で歯を見せて写真を撮られただけで5000円もかかった。写真を撮られて5000円も払ったのだ。


それ以来、僕は料金設定が不明瞭な場所にいくのが億劫になった。

もし整骨院で10000円を請求されたら、それはトゥーバッドだ。だが、あり得なくもない話でもある。あり得なくもないこともないこともないこともない話だ。いや、それはもしかするとあり得なくもないこともないこともないこともないこともないことも……

いくらかかるのかわからないので念のため10000円を1枚、財布に入れ、僕は整体院へと向かった。



結果的には3000円だった。よくわからないが僕はめちゃくちゃ得した気分になった。10000円、最悪12000円だと考えていた自分にとって3000円という料金は破格だった。2回目はもっと安かった。なんじゃこりゃ!めちゃくちゃマッサージしてもらえるしめちゃくちゃええやん!

僕は軽度のヘルニアだった。だが、マッサージをしてもらうとかなり腰が軽くなった。なので、腰に不安のある方は、ぜひお近くの整体に行かれることを強くオススメしたいと思った。



それで、僕は1週間のうちに2回も整体に行ったのだが、整体師さんは

「小林さんは筋肉量が多いので、小林さんをマッサージするのはラーメンを食ってから焼肉を食わさせられているような感じがするんですよね」

と、とてもわかりやすい例えで僕のマッサージがいかに大変かということを教えてくださった。

それで、整体師さんは僕の筋肉をマッサージしながら、「僕ね、その人の筋肉を触ればその人が何のスポーツをしているのか、大体分かるんですよ」と言った。

へー!面白い!わかるんだ!そこで僕は「何部の筋肉をしてますか?」と聞いた。

整体師さんは僕の足腰を入念にマッサージしながら、爽やかな笑顔で

「アメフトのクォーターバックですね」

と言った。

「え?」

と聞き返すと、お兄さんはもう一度言った。

「いや、この体は完全にアメフトのクォーターバックですね」

僕はバレーボールのリベロだった。

アメフト部の友達はいるが、僕はアメフトをそんなに知らない。ラグビーの、ボールを前に投げても怒られないバージョンという認識だ。あと、アメフト部は女子風呂を覗くのが好きだというイメージがある。

というか、僕はアメフトのクォーターバックの筋肉をしていたのか。バレーボール部だったのに、アメフトの筋肉になっていたのか。

なんだかわからないが、悪い気持ちにはならなかった。むしろ嬉しかった。アメフトのクォーターバックって、めちゃくちゃかっこいい。筋トレの仕方めっちゃ間違えてるけど、アメフトのクォーターバックの筋肉って、かっこいいな。

でも、僕はバレーボールのリベロだったんだよな……結構筋トレの仕方間違えてたのかもな……



そのあと、僕、バレーボール部のリベロなんですよ、と言うと、整体師さんは僕の想像以上に笑っていた。信じられないらしい。

たしかに、最近僕はよくリーチマイケルと言われる。(前のラグビーワールドカップの時は五郎丸とよく呼ばれた)確かに僕の体は、アメフト部やラグビー部、柔道部などによくいるタイプなのかもしれない。

だが、この世の中は広いのだ。

世界のどこかでは、リーチマイケルがバレーボールをしているかもしれないのだ。リーチマイケルがテニスをしているかもしれないのだ。リーチマイケルが野球の審判かもしれないのだ。

世界は広い。だからこそ、僕みたいな人間がバレーボールをやっていることもあるんだ、ということをわかっていて欲しい。

めちゃくちゃマッチョな化学部員がいるかもしれないし、僕は絶対にいると思っている。

なぜなら、僕がバレーボール部だったからだ。

とにかく、腰を痛めた時は、整体に行かれることを強くオススメしたい。

あと、ミスチルのシーソーゲームの歌詞で言うところの、「運命ってやつを考慮して」、健康なことばかり考えず、たまには不健康なこともやっていいと思う。健康的すぎる体は、逆に不健康だ。

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小林泰輔
生きます。

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