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煙草と航空障害灯

深夜2時。翔平は部屋で煙草を吸っていた。

秋めいてきたこの時期、窓を開け放しにすると寒い。
けれど、煙草の臭いを翌朝に残したくなかったし、なにより、翔平はこの寒さや冷たさが好きだった。

――ああ、また秋になったのか。
この寒さと冷たさに、季節の一巡を実感する。

この部屋に引っ越して、もう何年になるだろうか。
越してきたころも、同じような秋だった。
当時はこの寒さに心細さも感じたものだが、今となってはむしろ風物詩だ。
ああ、また一年経ったのだな、と。

――今年、契約更新の年じゃないよな。
一瞬考えるが、今年は確か……越してきて奇数年。2年契約だから違うはず。
翔平は寒さを感じながら、安心する。

――まだ、大丈夫だ。
煙草を吸いながら、目の前の景色を眺め、改めてそう思う。

目の前の景色には、超高層オフィスビルのわずかな明かりと、航空障害灯の赤いランプが見えていた。


翔平がこの部屋を選んだのには、理由があった。
とにかく、見晴らしのいいところに住みたかったのだ。

当時、転職して間もない頃。
給料だって下がっているのに、この街一番の高層マンション(15階建て)に住むなんて、思ってもいなかった。

しかしそれでも翔平は、見晴らしのいい部屋を選びたかったのだ。
深く垂れ込める雲のような限界を、どうにかして突き破りたかったから。

以前の住処は、下町の北向きのアパート、1階。
とにかくジメジメとして、暗かった。
そんな中で始まったテレワークは、最初こそ「通勤撲滅」で快適に思えたけれど、ほどなくして限界を迎えた。

――俺はここで、何をしているのだろう。


翔平がテレワークを辞め、転職し、この部屋に越したのはそんな頃だった。

今夜もこの部屋からは、少し遠くに航空障害灯が見える。
その明滅を見ながら、翔平は煙草を吸っていた。
自分の呼吸とともに明滅する煙草の先端と、航空障害灯。

――俺はまだ、大丈夫だ。

煙草と航空障害灯の明滅は、呼応しているかのように思えた。

――希望の灯り、かもしれない。

翔平はそう思い、遠くを眺めながら、煙草をさらに深く吸う。

大丈夫だ。きっと。
今夜も灯りは消えない。

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尾崎 太祐
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