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【観劇レポ】100分間の音楽旅 ミュージカル「カムフロムアウェイ」その3

観劇レポ、驚異の分割3本目。引き続きミュージカル「カムフロムアウェイ」です。

今回は各シーンごとに振り返り。主に楽曲ですが、シーン間のところも覚えている限り書き留めます(細かいシーンが多すぎるので網羅できていないかも&タイミングを勘違いしてるシーンがあるかも)。

オリジナル(英語)版の音源を毎日のように聞いていますが、思い出すだけで涙が出そうになるようなシーンもたくさんあって、しっかりロスに陥っております。そしてホンマに日本初演版はぜひ音源に残しましょう(映像化の予定はないと明言されているのでせめて…!)

その1(全体編)とその2(キャスト編)はこちら。

曲目はパンフレットの表記に準拠しています(大ナンバーは採番されていますが、それ以外にも細かいシーンに曲タイトルあり。目次としては一部割愛しています)。


M1 Welcome to the Rock

作品を象徴するタイプの一曲目。好き。「ラグタイム」の「Ragtime」とかもそう。一曲目でカンパニーの力とか世界観を感じる作品は僕に刺さる。
そしてこの曲に限らない話ですが、訳詞が秀逸、素晴らしい。英語→日本語はどう訳しても情報量が減りますが、コアを維持しつつ日本語としての聞き取りやすさもある。

心臓の鼓動のように、静かにかつ力強くイントロか始まり、ガンダーの住民たちが集まってきます。その真ん中で町長のクロードが物語を語り始めます。心地よいリズムと足踏みをバックに、ニューファンドランドの環境や人の性質を端的に語りつつ、あの日、2001年の9月11日がどのように始まったのか。この1曲でニューファンドランドの土地柄や、あの日の人々の様子が頭の中に流れてくる。

中盤で、ボニー、ビューラ、アネットがラジオをつけると空気が一変。作品を通して重要なメッセージとなる「ここにあなたはいます」のフレーズとともに音は奏で続けられているのに、静けさを感じます。
そして「そう、我らこの島の民」と他のキャストがバックコーラスしている中、オズとボニーが出会うところから曲の力強さが増加。一気に楽曲フィナーレまで連れていかれ、12人が客席側に順に駆け寄り、一列になったところで「Welcome To The Rock!」と締めくくる。

はあーーーーー好き!!!!

リハーサルではありますが、この曲は公開されています。僕が色々言うたところでなんで、まずは全人類観て
もちろん生で、かつ公演を重ねて熟したものを観た時の感動は大きいですが、この映像だけでも心震える。毎日観てる。もう暗唱できる(だからなんやねん)。

M2 Diverted

クロードの、そしてガンダーの日常が描かれます。
いつも通りクロードに飲み物はペプシでいいかを聞くクリスタル、いつも通り空港の取り壊し予定を聞くドワイト、いつも通りストライキ中のガース、いつも通りご近所さんの話で盛り上がるダグ。
全てがいつも通りの日常に、新米リポーターとしてジャニスが登場。新米らしく肩に力が入ったような雰囲気もありますが、あっという間に町民たちに受け入れられるジャニス。クロードを筆頭にその場のみんなが一人ひとり「ジャニス」と名前を呼ぶのですが、ガンダーの人々はこうやって他人を受け入れていくのかも。

そこに(ラジオで911のことを聴いた)オズが走ってきて、そこから管制塔へ向かったダグのセリフをきっかけに空気が一変。管制塔と各飛行機のやりとりが暗転したステージで繰り広げられ、一気に緊迫感で劇場を包みます。照明の妙もすばらしく、徐々にスポットがダグに絞られ、管制官の顔だけが懐中電灯で照らされるここ、超かっこいいし引き込まれる演出。

12人全員が管制官、全員が各エアラインの機長を瞬時に演じます。管制官側では万里生くんと和樹くんの指示がかっこいい。機長側では、和樹くん(彼はブリストル?)の淡々とした案内と、光夫さんの言い訳っぽい乗客への案内が対照的で、そして我らがビバリーは「乗客にはなんと説明しますか?」と冷静かつ的確な指示要請を出す。

ビバリー便では、訳が分からないなりに仕事を果たすゆうみちゃんのCA、不安を隠せないボブ、焦るニックやこの旅行に送り出した息子への文句を言うハンナなど、突然進路変更した飛行機の乗客たちの様子が、モノローグ的に客席に語られるシーンもありますが、ニューファンドランドの様子から飛行機の様子までのこの僅かな時間で、緊迫感と不安が凝縮されている、演劇の良さが現れているシーン。

M3 38Planes

臨時着陸する飛行機の数は実に38機。ジャニスのリポート、そしてその取材に応じるボニーの後ろでは、どんどん着陸機が増えていく様が、力強くも不安や不穏さを感じさせる島民のコーラスで描かれます。このアベンジャーズキャストがアンサンブルとして発揮している地力を改めて感じる。

ジャンボ機の着陸、そして乗客の人数を概算したオズの「クソやべぇ(Holy Shit)」というセリフで場面は空港から町の様子へ。町長にあれどうする、これどうすると皆がてんやわんや。そんな中でクロードにより緊急事態が宣言されて次のシーンへ。

M4 Blankets and Bedding

火曜日!という全員セリフからスタート。

アメリカで起きた衝撃のニュースを知ってしまった島の人たちが、「それでも今できることは」と資材を集めるシーン。畳みかけるような歌詞と音符の波が、島民の不安、そしてその中でできることを必死に探す様をまさに表しています。
このシーンでの行動はニューファンドランドの住民の温かさだけでなく、テロの恐怖から気をそらすためでもあったのかもしれない。ジャニスがトイレットペッパーの寄付を訴えるシーンから、わずか数分で「もうトイレットペーパーは持ってこないで!」というセリフがありますが、それくらいみんながとにかく走り回ったのだと思う。

全体では少し緊迫感が残るシーンではありますが、ビューラ(ちえさん)の「すし詰めになるけど」のイントネーションや、オズがビューラとアネットにいいようにお使いさせられるところ、ビューラとアネットの掛け合い等、フフッとなるシーンも挟まれます。

「♪激しい嵐を越え(激しい嵐を越え)」と、女性キャストと男性キャストで順にコーラスしていくところはミュージカルらしい場面で好き。この曲全体としても、男声と女声がそれぞれ映えるように構成されている気がする。

M5 28hours/Whenever We Are

場面はガンダーに臨時着陸した飛行機の中へ。イスが並んでるだけで一気に飛行機の中と分かる舞台造形はすばらしいの一言。

ただでさえ長い時間のフライトに、更に長時間にわたり閉じ込められた人々の疲労感、何人かの乗客のおかげで家族や友人に電話をすることができた安心感、そして情報もやることもない中での混乱と恐怖と、人々の心の様子がこの一曲の中で語られていく。

曲調自体もかなり変動していて、中盤は曲調が少し明るくなり、やることのない乗客たちがお酒片手にはっちゃけ始めます。「♪28時間~(窓の外~)」のコーラスは振り付けも含めて力強い。
ケビンカップルVSヒステリック女性、輸送手段を巡ってバチバチするクロードとガース、突然のタイタニックカラオケ、ダイアンとニックのしっとりとした出会い、飛行機に流れるブッシュ大統領の演説、ストを中止するとクロードに告げるガース、なぜか耳に残る「めんぜーてーん(免税店)!!」など、1曲の中にたくさんの物語が詰め込まれています。

このシーンの終盤、ビバリーがテロに遭った飛行機の機長がチャールズだと知るところでは、劇中繰り返される夫への「私は、トム、大丈夫」というセリフはありますが、このとき彼女の中で、後に歌われるように「何かが死んだ」んだろうなと思わせる。

この辺りのシーンだったかやや記憶が朧げなのですが、ボニーが飛行機に動物が乗っていないか問い合わせるシーンもあったはず。こんなに飛行機があるのに動物が一匹も乗ってないわけないでしょう!と、電話越しのダグの制止を振り払って空港へ。M2の場面で、クロードがボニーの問い合わせを「人間が優先!」と受け流す一コマがありますが、この時動物のことを想ってるのはまさにボニーただ一人です。

M6 Darkness and Trees

曲調は楽曲名の通りやや暗く、暗闇の中を進み続けるイメージが見えてくるメロディ。

飛行機から降りる乗客、迎える島民、双方の不安を感じるシーン。安否を連絡するために電話機に列をなすカムフロムアウェイズ。宿泊施設へ移動させるため、わざと「故障中」という張り紙をして電話を使えなくします。
入国審査はどこか鈍く重い緊迫感があり、ムスリムのアリに対する厳しい目や噂でこの作品にチクッと針をさす。
ビバリーたち乗務員も島に降り立ち、宿泊施設へ向かいますが、真っ暗で何も見えない辺鄙な田舎で「大変だわ」と一言。

この曲から次の曲までのシーンはかなり盛りだくさん。

①色んな国から来たカムフロムアウェイズを前に、ビューラとアネットが、通訳を探しているシーンでは、万里生先生曰く日本だけの光景だそうですが、ビューラが「◯◯語できる人ー?」と言うセリフにあわせて客席で手が挙がる(※)。
そして体育教師のマイケルズ先生(光夫さん)がスペイン語で情熱的なギターとともに登場。いまにもフラメンコ踊りだしそうな様子ですが、これアネットの趣味(妄想)がだいぶ影響してませんでしょうかね。笛を吹き、体操選手のポーズとともに去っていきます。

この作品はコンマ何秒単位の緻密な作りなので、僕はアフタートークで万里生くんが「推奨してるわけではないけど…」とボソッと仰っていたのが少し気にはなりますが、悪い意味でのショーストップにならない程度ならいいのかなと。単に目立ちたいだけのお客は困りますけどもね。

いちミュージカルファンの戯言

②光夫さんとモリクミさんが運転手として乗客を乗せて走るシーン。どこかカントリー調?ウエスタン調?な、軽快な雰囲気のある音楽。
多国籍な乗客に対して、二人が延々と田舎っぽいおしゃべりを披露していますが、乗客に伝わってるか(聞いてるか)は不明。二人なりの歓迎精神、安心してねというメッセージではあるんですが。
そしてほぼノンストップのおしゃべりの中、突然のヘラジカ登場による急ブレーキが記憶に残るところ。100分間ほぼノンストップのこの作品で、ほぼ唯一の「無音の間」があります。そのおおよそ15秒くらい?の間からのモリクミさんによる「退ーく準備ができたら退いてくれる」というセリフで、笑いとともに再び物語がスタートしますが、100分間ギッシリ詰め込まれた作品だからこそ、この間が緩急の緩の部分として、効果的な演出になっているんだろうなと思います。

③ニックとダイアンの再会。この時点でダイアンはニックのことを「面白い人だな」くらいには思ってそうな表情やけど、ニックが要らんこと(息子のことを分かれた夫と勘違いしてダイアンに心配ですねと言ってしまう)を言うところでは、息子(デイビット)の心配はまだ晴れてなくて、ちょっとしたきっかけで不安に押しつぶされそうにも感じる表情でした。

Darkness and Trees(Reprise)

この曲はリプライズ。バックコーラスでアフリカの言語(違ったらすみません)っぽい歌が流れています。

乗客をバスに乗せたガースが、宿泊所に着いたから降りろと言っても、乗客たちは言葉が通じないのもあり、そして迎える島民たちが救世軍の服を引っ張ってきていたこともあり、不安で降りることができない。

アフリカから来たムフムザ夫妻もそうでしたが、ガースがムフムザ夫人(モリクミさん)の持つ聖書をきっかけにして、乗客たちに安心してほしいというメッセージを伝えます。「思い煩うことなかれ」。
言葉は通じなくても、何か共通するものを通じて気持ちを伝え合うことができるという、小さくて大きな感動のシーン。この時のモリクミさんの安心してパァッとした表情がすべてを物語っています。

Lead Us Out of the Darkness

前の曲からの続きで、舞台の盆が回りながら場面転換。まるで夕暮れ時のような背景の中で、各々上着を羽織ったりして、各キャストがビバリーの便に乗っていた乗客へとさりげなく転換。

ビューラが明るく乗客たちを迎えますが、何が起こったのか知っているガンダーの人々(ビューラ、ジャニス)は、乗客たちが何の情報も持っていないことに驚きながらも、乗客をもてなし、そして「情報を得る場」を案内。

乗客たちは、ずっとあの映像を見ていた。あの瞬間に、全員が息を止め、息を呑み、そして全員が同じ瞬間に顔を背ける。
木を模した舞台美術と、佇む12人のキャストが哀しくもマッチしていて、多くを語らずともメッセージを体現するシーンでした。シンプルな音符も相まって哀しいんですが、演出としては美しさもある。

途中、ビバリーはテロに巻き込まれた機長・チャールズを思いながら、機長の矜持を語ります。

このあと(もしくは次の曲のあと?)くらいで、ジャニスがリポートミスをして、「ごめんなさい、新米なんです…」と恥ずかしがるシーンがあったはず。

Phoning Home

水曜日。電話機やインターネットができるパソコンが用意され、カムフロムアウェイズが家族や友人たちに電話をかける。このような非常事態で、人が求めるのは愛する人の声だというのがよく分かる。ましてや2001年当時は、まだまだ携帯電話の普及も今ほどではない。

ダイアンは息子の無事を知り安堵。ハンナは息子に中々電話が繋がらず。

M7 Costume Party

朝ご飯の匂いで目覚めるボブ(もしくは和樹くん演じる誰かかも)。ケビンカップルはベジタリアン(Jが教育した)で、他にも宗教上の関係で食事に制限がある人たちがいるということが語られる。またキッチンをうろつくアリをビューラが気にかけ始めます。

この場面ではケビンカップル、ダイアン、ハンナによる四重唱。凄惨な事件を知り、それぞれが「今までの自分とは違う自分になってしまったようだ」と感じている曲。コスチュームパーティーという楽しそうなタイトルですが、中身は不安や茫然自失など、決してポジティブとは言えない感情が絡み合ってる曲。演出面では、メインの4人を含むキャストがバサッと上着を一斉に羽織るシーンが美しくて好き。

911テロによって、かなりネガティブなダメージを受けているケビンJとハンナ、戸惑いながらも適応していく様子が描かれるダイアンとケビンTとが、それぞれ対比的。各組のハーモニーが美しい。

ケビンJが妹と話すシーンでは、たぶん兄妹ともに皮肉っぽいところがあるんだろうと思わせるやりとりですが、最後にやさしく切ない顔で「お前の声が聞きたかっただけ…」というケビンJがとても辛い。
またビューラがハンナを、同じ消防士の息子を持つ人としてコンタクトを取り始めます。

そしてこの曲のあとも色んな場面がすし詰め。

①アネット(の妄想)のブリストル機長のシーン。マーチング曲のような力強い曲に似合うように、和樹くんの色気がムンムン。それをあしらうビューラとのアネットの関係性もほっこりする。

②一刻も早く帰りたいボブとケビンJがオズ(?)にアメリカへ帰れる方法を聞く。聞き出せたのは最短でも2〜3日はかかるであろう旅路。愕然とする二人に「んー、景色はいいはずだ」とさらっと言うところがニューファンドランドの良さだと思う。
時を同じくして、島民たちがカムフロムアウェイズを自宅に招待し始める。妊婦の乗客には、妊娠初期なのに子供部屋を作ってしまったという島民(シルビアさん)が、ニック(もしくは禅さん演じる乗客?)には、ウォルマートの若い店員(ゆうみちゃん)が声をかけます。ボブは疑心暗鬼ゆえに最後まで応じませんでしたが、町長の家に引っ張っていかれることに。

③食糧を保存するところがなくてパニックな島民たち。イベントやサークルも中止になるという報せを聞いて、クロードがホッケーリンクを冷蔵庫代わりにすると宣言。その名もウォークイン冷蔵庫。

④ニック、ダイアン、ケビンカップルの4人が散策へ。ニックが石油会社で働いていることと、堅物そうなイギリス人ということで、環境系の企業で働くLGBTQ(この時代はまだ浸透してないであろう言葉ですが)であるケビンカップルはニックにあまりいい印象ではなく、ニックもまたそれを感じている。
ケビンカップルは見つけたバーに、ニックは自分を嫌ってるカップルよりダイアンと一緒にいようとバーには入らず、ダイアンも見知らぬ男3人と一緒にお酒を飲む気分ではなく、結果的にニックと一緒にいることに。
ケビンカップルはバーでうっかり自分たちがゲイだと言ってしまうが、島民たちはあっさり受け止め、なんなら自分の周りにもいるよ〜という感じ。

⑤ボブとアップルトン町長によるコント(コントとか言うな)。ニューヨーカーゆえに疑心暗鬼なボブが、アップルトン町長や町民(禅さん)とのやりとりを通じて心をほぐしていく場面。ボブBBQで検索。

⑥トイレ掃除のボランティアを探しているアネットとビューラに救世主現る。清潔さの重要性をよくわかっている超一流の心臓外科医たちが、ボランティアを買って出てくれる。なぜかちょっとセクシーな一団に見える男性陣。これアネットの妄想癖が影響してませんかね…。浦井ドクターが最後に白衣をバサッとするところ好き。他の場面と異なるエレキな感じの音楽も好き。

⑦ボニーを心配するダグ。その心配をよそに、預入荷物の中に動物が紛れていないか探すボニー。ドワイトが飛行機から出るように注意しつつ、さらに「ここの飛行機は全部爆破の恐れがある」ということを告げ、ダグがより慌ててボニーを連れ戻そうとしますが、出てきたボニーが告げたのは「この飛行機、猿が乗ってる」。

そしてビューラが、ここ数日のルーティンを語りながら、ハンナのもとへ。

I Am Here

この作品の数少ないソロ曲。この曲の主なメロディは「Welcome to the Rock」の「ここにあなたはいます」の一節と同じ。
ハンナが息子の無事を祈る魂の叫び。息子の「ただいまママ」を聞かなくちゃ、ここは私がいる場所じゃない、と。ハンナを演じるモリクミさんは、このシーンで絶対に泣かないようにと言われているそうですが、泣いてるんじゃないかというくらいハンナの張り裂けそうな心を歌われていて、客席からすすり泣きが聞こえてくる曲。

この歌の後、はやくアメリカへ帰らないとと呟くハンナに、ビューラが心を寄せることで打ち解けていくシーンごあります。息子も大好きだったジョークが、二人を繋げていると考えるとしんみりする。

このあと、ジャニスが頑張ってリポートを続けていますが、ハンナへのインタビューでもらい泣きしてしましてしまったと語り、リポーターとしてやっていけるか不安になったことが語られます。

Before Player

ケビンTがナレーション。アメリカ本土で黙祷が捧げられる時間に、ニューファンドランドでも皆が黙祷を捧げる。
ケビン曰く、「こんなことがアメリカの、混み合ったガソリンスタンドで起こるだろうか」「でも、ここ(ニューファンドランド)ではそれが起きる」と。

多様な国籍、多様な人種が集まっているこの島で、あの凄惨なテロに心を痛め、平和を、安らかな眠りを祈る人たち。浦井くん以外のキャストが客席に背を向けて静かに祈る光景は、呼吸が止まってしまうような何かを訴えかけてきます。

M8 Player

ハンナとビューラが教会で蝋燭を灯し、お祈りを捧げる傍ら、ケビンTは頭の中に流れていた賛美歌を口ずさみます。

そこにユダヤ教のラビ(光夫さん)、ユダヤ人であることを隠して生きてきた島民(さとしさん)、ヒンドゥー教徒(ゆうみちゃんとシルビアさん)と、信じる宗教は異なれど、「祈る」という行為を同じくする様々な人の歌が重なります。ヘブライ語、英語(日本語)、ヒンドゥー語と、複数の言語が重なり合う神秘的な曲。

歌はありませんが、ムスリムのアリもこのシーンに登場して、お祈りするときの他の人からの視線が痛いということを低音ボイスで淡々と語る。アリを心配しているビューラに頼まれたアネットによって、案内された図書室でお祈りをする。万里生くんを中心に、皆さん所作も美しく、息を呑む荘厳さを感じるシーンで、初見時に僕は心奪われました。

この空気感と楽曲の荘厳さは、生で味わうべき。特定の宗教を信じているわけではない僕でも、彼らの信じる神の存在を感じ取れるような錯覚にすら陥ります。

Bonnie in the Holds

場面はかわり、ボニーが飛行機で見つけたのは犬が8匹、猫が9匹(一匹はてんかんの持病持ち)、珍しいボノボチンパンジーが2匹の19匹の動物。ボノボのうんちを入れたバケツをダグに渡しながら、町長と連絡を取ろうとするボニーですが、うんちを渡されたダグに適当にあしらわれてしまいます。ボニーがダグとの会話をしながら役所に電話をしていて、それが絶妙に会話の行き違いになってしまいます。

ビバリーが「飛行機は飛び続けるように作られている(だからこれ以上とどまるのはまずい)」という説明をしてくれるのも、この辺だった気がする。

M9 On The Edge

島での生活の中で、少しずつ、でも確実に疲労と不安、そしてテロへの怒りで精神的に参ってきている人々の様子が描かれるシーン。日本語訳の「瀬戸際」という言葉がピッタリで、緊張感のあるリズムが胸に迫る。

それは顕著にムスリムへの態度に表れ、アラビア語(?)で誰かと話すアリに対して他の乗客が喧嘩を売る。他のムスリム(モリクミさん)にも波及して事態は混沌。オズとクロードがそんな状況に頭を悩ませ、「息抜き」のための策を講じます。

後半の場面は次の曲に向けての導入曲にもなっていて、その「息抜き」の報せを聞いたカムフロムアウェイズが順番に登場。テンポよく進むので追うのが大変。「瀬戸際」であるだけでなく、それぞれの人物にとっての「転換点」でもあるシーン。

ビバリーは「更に悪いニュース」としてハリケーンが迫っていることに焦りを感じる。ケビンカップルは息抜きの場に行きたがるTに、行きたくないJが「一杯だけ」と半ば連れて行かれるようにお祭りの場に。そろそろ休めと妻に声を掛けるダグをよそに、ボニーは妊娠していたボノボが出産しそうと急いで準備にとりかかる。
ダイアンはニューファンドランドではなりたい自分になれると思考が切り替わり、ニックはそんなダイアンと一緒にいたい。お祭りにいかず息子の電話を待ち続けるハンナと、一緒にいるわと寄り添うビューラ、さらにそのビューラに自分は国際ホテルチェーンのシェフだから料理を手伝いたいというアリ、アップルトン町長の家でしこたま飲んだボブ。

今に始まったことじゃあないけど、情報量が多い!

M10 Screech In

本作一番のお祭り曲。バンドメンバーもステージに出てきて、キャストと一緒に演奏します。彼らもまた演者である。ニューファンドランド伝統の楽器もたくさん登場します。

序盤は男性キャストと女性キャストが、島の物語のような歌詞の曲で対バン。ビューラがハンナに話したジョークの物語(若い水平と離れて暮らす新妻が夫の浮気を案ずる話)と一緒かな?ここの振り付け、皆それぞれの個性が出ていて目が足りない。

ケビンカップルがタイタニックごっこをしているのを背景に、ちえさんによる2回目のタイタニックカラオケを挟んで、ニューファンドランドの伝統の儀式に。

儀式の場面ではボブ、ケビンT、ダイアン、ニックが参加。ケビンJはTに「魚にキスするなら二度とキスしてやんない」と言いますが、「じゃあ試してみる」と意に介さないT。
Jはずっとテロに対する恐怖やホームシックに苦しんでいるので、比較的な楽観的(に見える)Tと少しずつ心の溝が深まる感があって、この曲の一連の場面でそれが決定的になります。

唯一Jだけが、この一連のシーンで一部を除いて終始つまらなさそうにしてるんですよね…そして静かに舞台から去る…。彼が求めているのは、鬱憤晴らしでも町に溶け込むことでもなく、「家族」と「家」、そして「安心」。町に溶け込むことで難局を乗り越えようとするケビンTと、心がすれ違ってしまっているんですね…。

ダイアンが酔ってだいぶはっちゃけてますが、ダイアンにとってもニックにとっても結果的に好機となり、魚とのキスは渋るダイアンが大胆にもニックには迷いなくキス。
二人のキスで会場の盛り上がりは最高潮。皆で円になって文字通りのお祭り騒ぎ。「これであなたも島の民」と歌われるのは、カムフロムアウェイズに対してだけでなく、観客にも言ってくれているような気になります。冒頭とフィナーレ以外で拍手のタイミングがない本作ですが、この曲の終わりでは大きな拍手に包まれ、まさに大団円。

そんなお祭り騒ぎのスクリーチを終え、ケビンTがいつの間にかいなくなったケビンJを探し呼ぶも応えはなく。ミュージカルとしてもストーリーとしても賑やかさが目立つスクリーチのシーン、唯一万里生くん(ケビンJ)だけ最後にいないんですよね(めぐさんも次の曲があるから早めに捌けてたかも)。

M11 Me And The Sky

スクリーチと打って変わって静かにアコースティックギターのイントロから始まるこの曲。この作品で珍しいソロ曲で、機長ビバリーの人生を歌う。ミュージカルファンならこういう曲絶対好き!という曲調と歌詞と演出。僕もいちミュージカルファンとしてこの曲大好きです。

4/13公演のアフタートークで光夫さんが仰っていたのですが、この曲が唐突に始まるのは「それだけ女性のキャリアや人生が突然にいろんなものに阻まれる」ということを表しているのだそうです。個人的にはあまり唐突感を感じなかったのですが、言われてみれば確かにスクリーチとのギャップはあるし、ストーリー上、ここでビバリーの人生を語る必要は本当はないのかもしれない。そして確かに英語のオリジナル版を聴くと、歌詞に「suddenly(突然)」が多用されています。

彼女が男性社会で戦ってきて(そして時に女性すらも同性ゆえに敵となる)、掴んだ成功と夢の中、愛する飛行機をテロに使われた怒りと悲しみが歌われる曲。数々の突然と戦ってきた彼女を、また「突然」の不可抗力が襲う。人生とは理不尽との戦いなのかもしれない。

この曲でのめぐさんの歌唱力は、観客どころか会場全てを空へと誘う、もう言わずもがな最高のものなんですが、さらに贅沢なのは2番ソロ前から入る女声アンサンブル。一人、二人と、ビバリーの味方になった女性が増えていくように、手拍子とともに加わる女性陣。こんな豪華なアンサンブルがあろうかというメンバーです。曲中、男性陣は静かに後ろで座っているのも象徴的。

曲の終わりに待ち続けた離陸についての連絡を受けて、次の場面へ。

Departures

いよいよ順に離陸しそうだというところで、カムフロムアウェイズが出発準備。二日酔いのダイアンをニックが介抱していたり、ボブが皆からお弁当をもらったり。

ボニーは動物たちに別れを告げます。そして、妊娠していたボノボが残念ながら赤ちゃんを亡くしてしまったことも語られる。ボニーは自分の3人の子供のことのことも語りながら、彼女を励まします。ダグには決して見せないようなボニーの真心とユーモアが見えるシーン。

ボブはこの島で受けた恩に対して、お金を払おうとしますが島民は一切受け取りません。なぜなら「あなたたちも同じようにしたでしょう?」と。ビューラ、そしてオズから語られるこの言葉、セリフとしてはサラッと流れますが非常に重い。ちなみにボブがアップルトン町長の家のウイスキーを飲み干したのを、町長が「俺も同じことをしただろう」というシーンもあるんですが、二人の友情的なものが垣間見えて微笑ましい。

それでもなおボブはお金をということで、役場の投書箱に。同じ気持ちの人が多くいたのか、のちの場面で判明するその金額、実に6万ドル(たぶん…)。

ビバリー便では(というかおそらくどの便でも)自分たちの便が一番最初に離陸すると言われていましたが、結局中々離陸せず。ビバリーが状況を説明する中、最悪離陸できても着陸許可が降りなければ引き返すことになることも説明。乗客(さとしさん)は反発して投票で行き先を決めようと言い出しますが、ビバリーが「民主主義は通用しません!」と冷静に、かつ強く言い放ち、その場を収めます。冷酷にも思われかねないシーンですが、ビバリーの「機長としての責任とプライド」が一連のやりとりで感じられるシーンです。

途中、ある機体のタイヤのパンクで飛行機の離陸が難しくなります。島民たちは一度さよならしたカムフロムアウェイズを「おかえりなさーい!」と再度お迎え。さっきまで乗客に冷静に対応していたビバリー(めぐさん)から、明るくお帰りというアネット(めぐさん)の振れ幅がすごい。

そしてこの作品のスパイスになるアリの存在。ビバリーが機長として、彼に行われる尋問に同席。イスラム教では、妻以外の女性に胸から膝の間を見せることは禁じられている。でも、女性の機長がいる場所で、アリは全てを見せるように言われる。
我らが万里生先生の演技力はもう筆舌しがたいものがありますが、前段で「女性の機長」としての戦いと喜びを歌っていたこともあって、ビバリーの表情も中々辛い。自分が女性じゃなければ、アリを辱めることはなかったかもしれない、ということが一瞬よぎったかもしれませんが、それでも彼女は機長としての責務を果たす。

ケビンカップル、ダイアン&ニックは対比的。家に帰りたい、帰ろうと、「うちに」というセリフが4人4様で連続して紡がれるところはドキッとする。ケビンTだけが疑問形なのもポイント。

M12 Stop the World

離陸まで時間ができたため、ダイアンとニックは再びプチ観光へ。ドーバーフォルトでのダイアンとニックのデュエット。お互いなんとなく好意を感じつつも、眼の前に見えている別れを思い、関係を進めることもできずにいる二人。ゆえに互いに「世界を止めて」と。

大陸がかつてぶつかった場所で、二人の人物が別れを惜しむ。出会いと別れがうまく歌詞の中で対比されていて美しい構成。
帰りたくないと呟くニックに、ダイアンは嬉しそうに聞き返しますが、オドオドニックはなんでもないよと。ニック!はっきりせえ!ダイアンはだいぶはっきりと「サイン」を出してる気がします。ニックもカメラを景色ではなく彼女に向けたりはしてるんですが。
ミュージカルでは、若い男女の恋模様はよく描かれますが、そこそこの年齢の男女が織りなす恋模様は、一味違う温かさともどかしさがあります。

二人以外のキャストがイスを運びながら舞台を作っていくのが美しい演出で、ただイスが半円状に並んでるだけなのに、絶景に見える。二人を引き立たせるコーラスも美しい。最後にダイアンとニックが手を取り合ってイスから降りるのもキュン。

M13 38Planes(Reprise)/Somewhere in the Middle of Nowhere

遂に38機の飛行機が順に離陸。音楽にまさに離陸の瞬間のような疾走感があり、力強いキャストのコーラスとともに場面は飛行機へ。ビバリーの高らかな「US of Aーーー!!」を皮切りに、乗客やビバリーの喜びが大爆発。

ボブがニューファンドランドへの恩返しに寄付を募るところは彼の変化・成長を感じて感動。離陸はしたけど、歌詞にある通り彼らはニューファンドランドに心の一部を置いてきた。このお話では緊急事態としての来訪だったけど、旅行でも同じかも。訪れた地に、自分の心や思い出を残しながら人は生きていく。
この曲は澄み渡った空のようなメロディも特に美しくて、ここまでの一連の物語を、島民と乗客の心の内を走馬灯のように思い起こすことができて、涙が止まらないシーン。

喜びにあふれる飛行機で、熱いタオルを配るCAから「…冷たいタオル?」と聞かれるくらいに、ニックとダイアンは別れを惜しみながらも熱々の愛を確かめ合う一方、ケビンカップルは恋人としては完全に溝ができてしまっています。

着陸のシーンはビバリーが歌い、最後にはトム(夫)の元へ。そこでもまず第一声は「私は、トム、大丈夫」。作中で繰り返されていたこの言葉、聞くだけで涙が出るようにこの100分間で教育されています。

ニックとダイアンが「必ず電話してね」と別れ。ケビンカップルはほとんど話さないまま別れ。

M14 Something's Missing

カムフロムアウェイズが去った島では、5日間全く降らなかった雨が。ここのボニー(シルビアさん)の「雨が〜♪」がめちゃくちゃきれい。雨音のようなピアノ(?)のメロディも美しい。

急ごしらえで作った段ボールベッドには、「Thank you」が至るところに書かれていた。それを役所の指示で消す島民たち。テレビをつけてなぜだか泣けてきたクロード。日常に戻りながら、完全に元通りではないことが示されるシーン。

カムフロムアウェイズ視点では、主にニューヨークに帰ったボブの語りで紡がれます。失われた命だけでなく、生き残った人々、そして直接あの光景を見ていない人にとっても、何かが変わってしまったこの事件。

ケビンカップルは別れ、Tが失ったものに気づく。テロの現場はまだ燃えている。イギリスの自宅に帰ったニックは、その空虚さの中でカメラを見返す。ニューヨークなんかよりニューファンドランドの方がいい場所だと言うボブ。ニックと毎日電話をするダイアンは、ニックとの出会いが凄惨なテロがあったからこそのものだということに苦しみも覚える。アリは恐怖から学校に行きたがらない娘に戸惑う。

スクリーチからしばらく明るめの曲が続いていた中、喪失感を感じる儚げなメロディで舞台がじんわりと締まる。その最たるはビューラがハンナから受けた電話での悲しい訃報。明るく電話に出たビューラが、ハンナの悲しみを神妙に受け止める。
ここからハンナが歌う「I am here」のリプライズメロディが本当につらい。

ビバリーが見たほとんど人のいない空港。教室、テレビ局、それぞれの場所に今いる各キャラクターが、言葉にならない「何か」を客席に訴えます。

Epilogue

M2と同じような、ガンダーの日常。最初と違うのはジャニスが町民に溶け込んでいることでしょうか。またもやオズが走ってくると、投書箱に大量の寄付金があることが判明。

島の唯一のリポーターとしての活躍から、名企業(名前失念…オペラなんちゃら)からのオファーを受けたジャニス。でも、大変な状況の人たちにマイクを向けるのは好きじゃなかったと振り返り、「今日も私はここにいる!」とニューファンドランドで今日もリポートをしているその場面は、10年後のニューファンドランドに。

家族をコックピットに乗せて引退したビバリー、ダグと肩を寄せて遠くの地で生まれた「ガンダー」という名のボノボについて話すボニー、結婚したニックとダイアン、ボブとアップルトン町長、ケビンTと新秘書ロビン、アリからの手紙を読むビューラ、交流を続けているハンナとビューラなどなど。ワールドトレードセンターの破片が唯一アメリカ以外の国に寄贈された町・ニューファンドランドにいる人たちの2011年。

わちゃわちゃしてるので、たぶん見逃している演出がいくつもある。最後まで目が足りない。

M15 Finale

キャストが横一列にならぶシーンは何度かありますが、完全に横一列になるのはここだけ(万里生先生情報)。

ここにあなたはいます」。

明確に客席に向けられたセリフと表情、そして地面を指さし一列に並ぶキャスト。今までわれわれが紡いできた物語を、ここにいるあなたはどう見たか。この物語の中に、あなたはいたか。

短いシーンではありますが、1曲目の「Welcome To The Rock」のメロディを使いながら、この作品をただのエンタメとして消費させないという意思すらも感じる。このFinaleを経て改めて1曲目を想うと、あの曲は「ようこそこの島へ」というただの紹介曲ではない、この作品の大きなメッセージが詰まった曲だったということも再認識します。

キャストの力強い「Welcome To The Rock!」のフレーズと足踏みで暗転し、割れんばかりの拍手で幕引き。

はあーーーーーーー好き!!!!

まとめ

またもやまとまっているのかは不明なレポ。なんせこの作品は短いシーンがたくさんあるので、網羅的に語るなんてほぼ不可能なんですが、頑張って記憶の限り書きました。各場面そのものもそうですが、ほぼ見えていないようなところでも、それぞれのキャストがその場にいる人物として舞台にいて、一回でずっと一人のキャストを追いかける×12回は観ないと観きれない。

だから円盤化・音源化してくれ頼む…僕の心が不時着なんだ…。

管制官「はい権利関係が厳しいのは承知しました…承知しましたがこれは最高傑作なんです直ちに音源化しなさい!!」
機長「了解」

脳内ガンダー

というわけで、まだ書きたらず、第4弾に続きます。

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