ダイアリー24/07/18

あれから4年。想いは変わらない。


魂、というものが存在するのかわからないけど、今このnoteは、あなたの魂に向けてしたためています。

せめて舞台に立っていた時だけでも、あなたは幸せだったでしょうか。
あなたはあまりに美しすぎて、この憂き世に苦しんだのかもしれない。

あなたを喪った世界は、あまりにつらい。
でも、そちらの世界で羽を広げて、悠々と駆けることができているのなら。

あの日のカーテンコールで、3階席から見えたあなたの笑顔は、あなたがあなたらしく、偽りなく輝かせたものだと信じています。だから、こうして思い出すなら、あなたが感じたかもしれない苦しみに目を向けるよりも、あなたが魅せてくれた素晴らしい姿を、と思っている。

どうか、あなた、安らかに。これでやっと、休めるわ。
苦しい日々は、終わり───。


無性に姿を観たくなって、声を聴きたくなって、あなたが演じたローラを観続ける。

改めて、偉大な存在を喪ったなと思う。あなたのローラは、もといあなたは、「美しい」。

それはもちろん見た目の美しさもあるけれども、魂の美しさ、そして魂が美しくあらんとするがゆえに肉体も美しく、内も外も、すべてが美しい。ルッキズム的な美しさではない、崇高で、気高くて、情熱的で、繊細で、敬意に溢れていて、それでいて親しみもあって、簡単には言い尽くすことのできない美しさ。

僕が美しさに囚われているのは、間違いなくあなたの姿に影響されているからです。もちろん現実はそうはいかず、舞台上のあなたのように、美しくあり続けるために努力し続けることは中々困難なことでもある。

それでも美しさを求めたい。

あなたのように、美しく。

僕にとって世界は、人間の営みは、あまりにも汚く醜いと思ってしまう時がある。あなたにももしかしたら、そう思った一瞬があったのかもしれない。
一方であなたは、この世界の素敵な部分に心を寄せて生きていたはず。そして僕もまた、あなたが愛した舞台の世界に、エンタメの世界に、世界の素敵な部分を感じているのも事実。

世界は絶望に満ちていると思いつつも、あなたが観ていたはずの、ほしいモノにあふれている世界も愛したいとも思っています。

だから、許されるなら、その笑顔を記憶に刻ませてほしい。あなたは今も、僕にとって美しさのシンボルなのだから。


今年観たミュージカルのひとつ、東宝「ベートーヴェン」を観たとき、不意にあなたの姿が過った。
作品には全く関係ないはずのあなたを思い出したのは、第1幕冒頭の一曲目「消え去りしもの」。主役ベートーヴェンの葬儀のシーンで、ベートーヴェンの「不滅の恋人」であるヒロイン・トニが彼を悼むというシーン。

曲はベートーヴェン作曲・交響曲第7番第2楽章から作られています。参列者がベートーヴェンを讃える中、トニがベートーヴェンの苦労の多い人生に思いを馳せ、死によってようやく安らぎを得てほしいとの願いと、彼への想いは10数年経とうと変わらないこと、来世でまた逢いたいという気持ち、そして死してようやくベートーヴェンは自由になれたのだと悲しい歓びを歌うナンバー。

全てがベートーヴェンと重なるわけではもちろんないですが、その才能と努力を讃えるとともに、せめてこの世界から解放されて、今自由になっていることを願うトニの気持ちが、あなたを想う僕とおこがましくも重なる部分を感じずにはいられないのです。

あなたがいない世界はあまりにも寂しくて、なぜあなたがこの世を去らないといけないのか、未だに理解ができません。
でもせめてあちらの世界で、あなたが苦しみから解き放たれ、自由を得ているのなら。変えようのない事実を前に打ちひしがれるのではなく、今そちらにいるあなたの幸せを願うことが許されるのなら。

鎖はもうない。次の世界でまた会える日を信じてる。


彼の年齢はが更新されることはないけど、僕の年齢は毎年一つずつ更新される。

もうすぐ、あなたの年齢に近づきます。

「30」というのは、多くの人にとっても区切りに感じられることも多く、殊に女性は意識されている方が多いのかもしれない。
僕は男性(シスジェンダーのヘテロ)だが、「30」という数字を強く意識してしまっている。あなたのように美しく駆け抜けていければいいのに、矮小な自分が邪魔をする。

あなたが世を去って以降、なおさら強く意識するように成った「30」という区切り。あなたがこの世界にいないように、僕があなたの享年と同じ齢30を超えてこの世界に立っている姿がイメージできない。時々、そちらに行ってしまいたくもなる。

でも、あれから4年が経ち、少しずつ変わってきました。あなたが見尽くせ無かったであろう世界のステキを見てみたいとも思うのです。

あなたの分まで、なんておこがましいことは言えない。あなたはあなたなりに、30年を駆け抜けたはずだから。でも時々、少しだけ、消えてしまわずに、僕の人生に力を与えてほしい。

この苦しみに、悲しみに、別れを告げるために。
どうぞ与えて、力を。


来春、ミュージカル「イリュージョニスト」が再演されます。
この作品は日本初演として、あなたが主演として上演される予定でした。ですが、あなたがこの世を去り、またコロナ禍であったこともあり、困難をあまりに多く抱えた公演でした。皇太子役の海宝くんを主役に、皇太子役には新たに成河さんを迎えたものの、フルバージョンではなくコンサートバージョンとして、しかも相次ぐ中止でわずか5公演の公演でした。

そんな作品がついにフルバージョンとして上演。コンサート版は観に行けなかったですが、今回こそぜひ観に行きたい。

さらに同じく来春、「キンキーブーツ」の4度目の再演も決まりました。キャストはほとんど入れ替わってはしまいましたが、あなたが愛した作品を上演し続けてもらえることが、何よりもうれしい。

出演したかったでしょう?客席で見たかったでしょう?

あなたは、本場ブロードウェイの舞台にも立てたはずの俳優だと思っています。ミュージカルでも、ストプレでも。

正直に言うと、ドラマや映画で見た若い頃の姿には、特に何も思わなかった。あの頃あなたがよく出演していたような、流行っていたヤンキーものや、ケータイ小説の類は好きでなかったから、なおさら。イケメン俳優として押し出される一人くらいの感覚でした。

でも、特に20代終盤のあなたは、ひと味もふた味も違う、表現者に進化していました。世界に誇れる、唯一無二の表現者。

もしあなたが今も、舞台に立ち続けているのなら。

「ジキル&ハイド」のジキル/ハイド役、「ミス・サイゴン」のクリス役とか観てみたいな。あとはまだ日本で上演されていない初演もの(「MJ」とか)、日英/日米合作ものとか。もちろん、何回だってあなたのローラも観てみたい。

ソロコンサートとかやるとしたら、自身の曲はもちろん、ミュージカル曲なら「ゲッセマネの園」とか「陽射しの中へ」とか歌ってみてほしい。

全部もう叶わないけど、それくらい今でもあなたの姿を、生き様を、魂を、美しさを、心に抱いて生きています。

Hold Me In Your Heart.
Hold You In My Heart.


これは、彼に向かう言葉が成す巡礼の列。
あるいは、彼の名を借りたただの自己満足。
それでも、僕は毎年7月18日にあなたを想う。

2024年7月18日。今は亡き、稀代の美しき表現者へ。

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