もはや”カスタマーサクセス”だけでは不十分 -持続可能な社会の構想と実装-

持続可能な社会に向き合う姿勢

 企業が社会に向き合う姿勢は、企業の業績や取引関係にも大きな影響を及ぼす。近年ではその影響が顕著に即座に表面化しやすくなっているようだ。

 例えば、H&Mは、2021年3月に新疆ウイグル自治区の人権問題に懸念を示し不買運動を招いたことで、2021年3月~5月期において中国市場で大きく業績を落とした(※1)。また、DHCは公式オンラインショップ上で在日コリアンへの差別的な文章を掲載していたことで、包括連携協定を解除する自治体やCM枠の販売を取りやめるテレビ局が出たほか、JR西日本やイオンなど主要取引先の複数社からも反発の声があがっていたことが明らかになっている(※2)。

 また、日本では2020年7月から全国でレジ袋の有料化がスタートしており、さらにコンビニや飲食店等でもプラスチックストローを廃止する動きが広がる(※3)など、環境面に配慮した取り組みも活発化している。

※1: FASHIONSNAP(2021年7月1日)「H&Mが中国で低迷 新疆綿問題をめぐる不買運動が影響か」(最終アクセス:2021年7月6日、URL:https://www.fashionsnap.com/article/2021-07-01/hm-21-2q/)

※2: Buzz Feed News(2021年4月9日)「DHC、差別文書を全削除もノーコメント。JR西やイオンなど取引先が批判、自治体対応も相次ぐ」(最終アクセス:2021年7月6日、URL:https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/dhc-jr-ieon/)

※3: HUFFPOST(2019年11月27日)「紙ストローに注目集まる理由は? セブンイレブンに続いてスタバも導入へ」(最終アクセス:2021年7月6日、URL:https://www.huffingtonpost.jp/entry/paper_jp_5dde4426e4b0913e6f7645fe)

空前のSDGsブーム・拡大し続けるESG投資

 もちろん、こういった人権・人種差別・環境など社会的問題に配慮した動きは今に始まったものではない。だが、以下グラフが示す通り、「SDGs」の検索数がここ最近で爆発的な増加を見せるなど、ある種のSDGsブームと呼べる社会現象が起きていることもまた事実である。

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※Google Trends 検索結果より(https://trends.google.co.jp/trends/、Google LLC、2021年7月6日)

 さらに、世界の投資行動に目を向けると、ESG運用資産残高は16年の22.8兆ドルから18年には30.6兆ドルに急増しており、25年末までに53兆ドルを超え世界の運用資産残高の3分の1を超えると予想されている(※4)。

 また、近年就活生が企業選びの軸として最も重視しているのは「社会貢献度が高い」ことであり(※5)、一般消費者の中で環境や社会に配慮した買い物に賛同する人は 6 割以上にのぼり(※6)、エシカル消費を実施している人は約4割いるとされている(※7)。今や「社会に貢献しているかどうか」は、人生や生活の基準にもなっている側面がある。

※4: Bloomberg(2021年2月23日)「ESG資産、2025年には53兆ドルに達する可能性ー世界全体の運用資産の3分の1」(最終アクセス:2021年7月6日、URL:https://about.bloomberg.co.jp/blog/esg-assets-may-hit-53-trillion-by-2025-a-third-of-global-aum/)

※5: 株式会社ディスコ(2020年8月)「就活生の企業選びとSDGsに関する調査」(最終アクセス:2021年7月6日、URL:https://www.disc.co.jp/press_release/7937/)

※6: 内閣府(2015年10月)「消費者行政の推進に関する世論調査」(最終アクセス:2021年7月6日、URL:https://survey.gov-online.go.jp/h27/h27-shouhisha/gairyaku.pdf)

※7: 日本インフォメーション株式会社(2021年5月10日)「SDGsって何? エシカルな消費活動の実態調査」(最終アクセス:2021年7月6日、URL:https://www.n-info.co.jp/report/0015)

地球や社会を含めたステークホルダー全員の成功

 日本政府はSociety5.0というコンセプトを掲げ、経済発展と社会的課題の解決を両立を提唱している。

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※出所:内閣府ホームページ(最終アクセス:2021年7月6日、URL:https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/)

 セールスフォース・ドットコムCEOのマーク・ベニオフ氏は著書「トレイルブレイザー: 企業が本気で社会を変える10の思考」の中で、事業成長と社会貢献は両立可能であるとして、各企業は地球の一員として持続可能社会に貢献すべきだと説いている。また、マーク・ベニオフ氏は、2000年初頭に「カスタマーサクセス」という理念をSaaS企業で先駆けて提唱した(※8)ことでも知られており、今回の持続可能社会を志向する提言には「カスタマーサクセス」にも重なる「共存共栄」という本質が拡張されたと感じる。

※8: Salesforce blog(2017年4月)「カスタマーサクセスとは何か?Vol.1 誕生の背景とコンセプト」(最終アクセス:2021年7月6日、URL:https://www.salesforce.com/jp/blog/2017/04/customer-success-01.html)

持続可能な社会を構想し実装する

 近江商人の経営哲学のひとつとして「三方よし」が広く知られている。「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方だ。

 「カスタマーサクセス」の理念それ自体には「売り手よし」と「買い手よし」の両立に重心がある。もちろん、これを実現すること自体が容易でなく尊いが、ここに留まってはいけない。

 気候変動による未曾有の自然災害など現実化している現代において、先に見てきた通り持続可能社会に向き合う姿勢はグローバルアジェンダとして焦燥感も高まっている。

 SaaSベンダーも顧客や社会と共にあるべき社会を構想し、実装していくことが求められる。すなわち、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の三方よしの実現が必要だ。SaaSベンダーは、自社の取り組みにおける配慮と対策は当然のこと、「顧客の成功」をデザインし提案する際にも、持続可能な社会への影響を熟慮して適切に対応するリーダーシップの必要性に無自覚であってはいけない。全員が影響の対象者であり、当事者でもある。

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