ホラーショートショート『足』
これは私の友人が大学生の頃に体験した話です。
彼は当時大阪の郊外の、××台と名のつくような、高台の斜面に切り開かれた住宅街にある実家に住んでおり、そこから電車で大学に通っていました。
駅からは歩けば25分、バスで10分ほどの場所にある閑静な住宅街で、お店はその住宅街の一番下にあるスーパーマーケットのみでした。
ただ彼は、高校2年の時に家族でその地区に家を建てて引っ越し、普段の移動もバスや車で、買い物なども家族で車で市街地の方へ行っていたため、地区の他の場所、そのスーパーマーケットにも行ったことはありませんでした。
しかし、関西の大学に入学した後、高校の時と同じバスと電車での通学は変わらなかったのですが、大学生ということで帰りが遅くなることが増えました。
また最寄駅から彼の家のある高台までのバスは22:30発が最終だったため、飲み会の後などは深夜に30分弱登りの坂を歩いて家に帰ることもあったといいます。
もちろん家族に駅まで車で迎えに来てもらえばよかったのですが、もう大学生ということもあり、あえて頼まなかったそうです。なにより、酔いを醒ましながら知らない夜道を歩くのがはじめの頃は心地よかったのです。
ある日、サークルの飲み会の後いつものようにあるいて自宅に向かっていると、ふとスーパーマーケットの入り口とは反対側、変な位置に証明写真機が置いてあるのを見かけました。
すでに閉店時間を過ぎ消灯しているスーパーと、不自然に明るい証明写真機のコントラストになんとなく目が留まり彼は何となく近寄ってみました。近くで見ると証明写真機といっても古いタイプで、最近よくあるような美肌効果などの加工機能やスマホとの共有機能もなく、その代わりに500円で証明写真が撮れるというものでした。
中もよくあるタイプで、重そうな灰色のカーテンが閉まっており、そのカーテンの下に撮影用の小さい椅子の白い支柱が見えました。
何となく興味を失い、証明写真機から離れて家のほうに歩き始めたとき、ふと彼は証明写真機のカーテンって開いてるもんじゃなかったっけ?閉まってるのって変じゃないかな、と思ったそうです。
しかし、よく考えてみれば街中で他の証明写真機をまじまじと観察しているわけでもないので、普通はカーテンがどうなってるかなんて知っているわけでもありません。
他にも何か違和感があった気がしたそうですが、まだ酔いも残っていたのでその日はすぐに帰って眠りについたそうです。
翌週、友人と遅くまで遊んだ帰りに、またバスを逃して家まで歩くことになりました。もう慣れてきたいつもの登りの道を歩き、例の証明写真機のあるスーパーの近くまで差し掛かった時、ふと先週証明写真機を見たときの違和感に気づいたそうです。
証明写真機のカーテンの下から除く椅子が妙にしっかりとしたつくりをしていたような気がするのです。普通、証明写真機の椅子って一本の支柱の上に丸い板が乗っかってるけど、あそこは支柱が3本あるように見えた気がする。
証明写真機の近くを通り過ぎるとき、すでに嫌な予感はしていましたが、彼は好奇心からその証明写真機のカーテンの下を見ずにはいられませんでした。
やはり3本ありました。
そしてそのうち2本はまっしろな人の足でした。
人の足と言っても、支柱と見間違えているわけですから、
細くて白いはだしの足です。おそらく異様に細くて白い若い女性のものでしょう。
ここまで考えてしまったところで、かれは一目散に走って家の方に駆け出しました。細くて白すぎる裸足、これだけで普通の人間でないことはわかったそうです。
その夜、彼は不快な夢を見ました。
あの証明写真機のカーテンがうっすらひらいて女の片方の目がこちらを凝視しているのです。
無表情な目でした。