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#毎週ショートショートnote
【#毎週ショートショートnote】戦国時代の自動操縦
その日、家老が持ってきたのは棒の先に筆がついている変な箱だった。ボタンを押すと、筆先に墨をつけ、半紙に何やら書く。
「これは、儂の花押ではないか」
「殿の右手の骨折で花押が書けず、書状が溜まっており、どうにかするために皆で作った自動操縦花押製造機です」
それから製造機が花押を書き続け、皆、殿に確認もせず書状を出すようになってしまった。
時は戦乱、戦に関するやり取りで敵か味方か、心理作戦でパ
【#毎週ショートショートnote】親切な暗殺
「あのさ、話したいことがあるんだ」
高校からの帰り道、智也が話しかける。
「…なに?」
私は明るく返したつもりだったが、正直なところ自信はなかった。なぜならそれは私が聞きたくないことだったからだ。
「小夜子のこと?」
智也は幼稚園からの幼馴染だ。そして、よくある話で、私は智也にずっと片想いをしていた。しかし、高校に入学してから、小夜子のことを話す智也の表情は恋をしている者のそれだと気づくの
【#毎週ショートショートnote】心お弁当
ある昼下がりの午後、僕はある町の弁当屋の前にいた。
僕は仕事にも人間関係にも疲れ、どこか遠くに行きたかった。ただ、そんな時でもお腹は空く。そして、いい匂いに釣られて、今並んでいる。
「お兄ちゃん、何にする」
店のおばちゃんに声をかけられ、僕はぼうっとしていたことに気づく。
「あ、すみません。ええっと…」
レジの前にあるメニューを見る。たくさんありすぎるのと、緊張してすぐに決められない。
【#毎週ショートショートnote】男子宝石
「今日は誰にしようかな」
私は大事にしている宝石図鑑を開く。
二重人格っぽいA君はアレキサンドライト。
C君は楽しいことが大好きなカーネリアン。
人を寄せ付けない雰囲気を出しているG君はギベオン。
リーダー的存在のI君はインペリアルトパーズ。
みんなキラキラしている。ページを捲り続ける。
自分ファーストが上手なK君はクンツァイト。
L君は優しく包み込んでくれるラリマー。
【#毎週ショートショートnote】穴の中の君に贈る
「ねえ、ドーナツを穴だけ残して食べることできる?」
そういって彼女は目の前にあるドーナツを片手で持ち上げた。
ある休日の午後、僕たちはある喫茶店にいた。昔からある古びた店だが、ここの手作りドーナツが二人とも好きでよく食べに来るのだ。
「ん、どういうこと?」
いきなりの不思議な質問に僕は戸惑う。少し考えてから答える。
「ギリギリのところまでドーナツ生地を食べればいいの?」
「それじゃ完食じ
【#毎週ショートショートnote】バイリンガルギョウザ
「ようやく見つけたぞ」
H氏は長い年月をかけて、この骨董屋を探していたのだ。
ドアを開くとなぜかニンニクの匂いがした。
「いらっしゃいませ。何をお探しで」
出てきたのは清楚で気品のある婦人だった。
「バイリンガルになれる食べ物を探しています」
それを聞くと、「ああ、これを求めて世界中からお客様が来ますよ」と婦人は奥に入り、皿に乗った餃子を持ってきた。
「バイリンガルギョウザです。これを食べ
【#毎週ショートショートnote】全力で推したいダジャレ
「どうしてもこの企画を出したいのです」
そう言って若い学芸員が立ち上がった。
それは、来年開催する展示会の企画を出し合っている最中だった。なかなか良いアイデアが出ない中、彼は言った。
「こんな世の中だからこそ、見た人が明るくなる展示会が必要なのではないでしょうか」
彼の手には一枚の古い絵があった。
「それは…」
ベテラン学芸員が息を飲む。周りのスタッフたちに緊張が走る。少しして、ベテラン
【#毎週ショートショートnote】立方体の思い出
「これ、やる」
保育園でよく他の子にオモチャを取られて泣いていた私に彼がくれたのは、小さな四角い積み木だった。いつも近くにいて、私が泣くとすぐに来てくれた。赤く塗られたそれは、私の宝物になった。
「ほら、これ食べろよ」
学校でお腹を空かす私に彼がくれたのは、小さな四角いキャラメルだった。私がお腹空いたと言うとすぐに出してくれた。茶色いそれは、私の宝物になった。
「またなくしたのかよ、しょう
【#毎週ショートショートnote】音声燻製
「親父、レコードプレーヤー持っていたよな」
アルバムを見ながら僕は尋ねた。三歳くらいの僕が大きなヘッドホンを付けて立っている写真。後ろには父が若い時に奮発して買ったレコードプレーヤーがある。
大学に合格した僕は、この春、父と暮らした実家を離れる。そして引越のため、荷造りをしていた。
「物置にあるぞ。まだ使えるはずだ。持っていくか」
そう言って父はプレーヤーと何枚かレコードを持ってきた。
「
【#毎週ショートショートnote】しゃべる画像
今、巷ではしゃべる画像が流行っている。一番人気は写真だ。なんと写真の中の人物がしゃべる仕組みになっており、簡単な会話もできる。
このしゃべる画像、特に付き合っているカップルがよく利用している。恋人に自分の写真と声を送るのだ。でも、別れてしまったらどうするのだろう。私はずっと疑問に思っていた。
ある時、部屋を掃除していると、同棲している彼が隠していた歴代彼女の写真をたまたま見つけた。どの彼
【#毎週ショートショートnote】株式会社のおと
2×××年、日本では新しく株式会社を設立する際に「株式会社のおと」を提出することが国で決定された。
ある日、自分の会社を立ち上げるため準備していたS氏だが、「株式会社のおと」だけはいくら調べても分からない。そのため、いくつかの会社に問い合わせてみた。しかし返ってくる返事はみな似たようなものばかりだった。
「企業秘密なので」
「上層部のごく限られた人間しか知りません」
困ったS氏は国の担当
【#毎週ショートショートnote】タイムスリップコップ
「ねぇお父さん、電話作ったの」
3才の娘が見せてくれたのは紙コップで作った糸電話だった。カラフルな紙コップはやたらと長い白い糸で繋がっている。
「お父さん、電話してみて」
娘はそう言うと、台所へ走って行く。糸が伸び切ったところで紙コップを耳にあてる。
「もしもし、お父さんですか?」
狭いアパートで電話を通さなくても大きな娘の声は聞こえるため、必死で笑いを堪える。
「あのね、お母さんがお話した
【#毎週ショートショートnote】彼
「やっぱり暑いわね。午前中に来ればよかったわ」
花の茎を切りながら母が言う。
「しょうがないよ、夏だもん」
私は照りつける太陽を見上げて言った。
ふと振り返るとと、少し離れたところに若い男性が立っていた。いつからいたのだろう。
私は彼の服装が気になった。こんな暑い日に学生服で、しかもカーキ色なんて珍しい。
真夏の暑さにも関わらず、彼は汗をかく様子もなく、ただ、小高い丘の下に広がる街
【#毎週ショートショート】サラダバス
「こうやって会うのは高校卒業以来じゃない?」
メールなどでやり取りしていたが、Aに会うのは久しぶりだ。今回、偶然出張先がAの住む街だったので、会うことにしたのだ。
Aの案内のもと、我々は街中で昼食先を探していた。すると、後ろから音楽が聞こえてきた。
「あ、サラダバスだ」
Aが呟く。
「サラダバス?キッチンカーか何かか?」
そう尋ねると、Aはちょっと困った顔をした。
「違うのか?じゃあローカ