【#毎週ショートショートnote】心お弁当
ある昼下がりの午後、僕はある町の弁当屋の前にいた。
僕は仕事にも人間関係にも疲れ、どこか遠くに行きたかった。ただ、そんな時でもお腹は空く。そして、いい匂いに釣られて、今並んでいる。
「お兄ちゃん、何にする」
店のおばちゃんに声をかけられ、僕はぼうっとしていたことに気づく。
「あ、すみません。ええっと…」
レジの前にあるメニューを見る。たくさんありすぎるのと、緊張してすぐに決められない。
「お勧めは『心お弁当』だよ」
結局、おばちゃんの言う通りにする。しかし、後でメニューを確認してもそれはなかった。
「はいよ。近くに海が見える公園があるから、そこで食べな」
おばちゃんに言われるがままに公園へ行き、弁当の蓋を開ける。中は、亡くなった母が作ってくれた弁当によく似ていた。ウィンナーに齧り付くと、急に頭の中に母の声が響く。
『大丈夫よ。自分のペースでいいから』
おにぎりを頬張る。
『無理しなくていいから。自分の好きなことやりなさい』
無我夢中で食べながら僕は泣いた。心お弁当は、僕の心が欲しかった言葉をたくさんくれた。
「ごちそうさまでした」
僕は帰りにおばちゃんに会いに行ったが、そこには弁当屋はなかった。(500字)
久しぶりに参戦です!
字数制限かなりオーバーですが、お許しください。