『小林秀雄の「人生」論』 浜崎洋介
小林秀雄との出会いは高校生の頃。現代文の教科書に載っていた「無常といふ事」を読んだのが初めてだった。当時は小林の魅力をよく理解できず気にも留めなかったが、大学生の頃に何を思ったのか『小林秀雄全作品』を少しずつ読み始め、今ではもっとも尊敬している批評家だ。迷ったときは、必ず小林の文章に立ち返ることにしている。
本書はまさに、小林を「生きる指針を与えてくれる最高の知性」として描いている。そして、小林自身もまた、批評活動を通してみずからの生きる指針を求めた。浮ついた観念ではなく、「直観」を信じることで。
小林の魅力を説明するのはとても難しい。ここが良い、と言うことすら難しい。あえてあげるなら、「これは正しいがあれは間違っている」と安易に物事を断定しなければ、底なしの懐疑に溺れることもないところか。
何か引用しようかと思い本書をぱらぱらと見返してみても、これというところがない。あまりにも語り尽くせない。ただその一方で、ある一つの文章だけですべてがわかってしまうというか、この一文だけあれば他には何もいらないのではないかと思える側面が小林の文章にはある。
簡素に見える言葉のうちには、さまざまなものが詰まっている。そこに何を見出すかは人それぞれかもしれないが、それは決してただの主観ではない。それはみずから「見つける」ものではなく、小林から「教えられる」のでもない。小林の言葉に魅せられる者はみな「宿命」のようなものを感じずにはいられないのだ。