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受賞する、メディアに出る、その条件

ショーレースでの、選考基準を気にするアーティストは多い。戦略的な創作活動を非難するむきも少なくはないが、それはそれ。名をあげたい、儲けたい、影響力を持ちたい、それを望むアーティストと、目的の創造に到達すべく人生を捧ぐ達観層が並べられる、それがショーレースだと割り切る考え方もある。知っておくのは、悪くないだろう。


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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 ショーレースの特性 』

世界では無数の祭典が開催されており、受賞者を輩出し続けている。その全てを把握している人類は、いない。また当然ながら、統括している組織も存在しない。ショーレースの多くは独立しており、大手のメジャーですらも連携はすれども、基準は異なる。また、開催年の選考委員と実行委員によって大きく風潮を変える祭典もある。当然、世相や風潮も大きく、影響する。

では、アーティストが望む受賞へのショーレース参加は、ターゲティングできない偶発性に委ねざるを得ないのか。また、時代に迎合せねば受賞は望めないのか。

そんなことは無い。選考委員も実行委員各位もそれぞれに懸命であり、アーティストの創造世界を推察し、相応しい、最良の作品を選ぼうとしてくれている。

“相応しい” 作品を。


『 作品を創っているのは、誰だ 』

勘の良い読者はすでに、本記事がなにやらトンデモない意味を内包していることに気付いている。そして、その通りなのだが表現には、躊躇いがある。

日和ったか! と言われればそうかも知れない。知っている、ということと公表してみる、ということには全く異なる意義が発生するためだ。

では、

隠すのか! と言われれば、そうではない。

一瞬、雑談をさせていただくとしよう。この記事を読んでいる貴方なら多かれ少なかれ、映像寄り、のアーティストだろう。ならば、プロデューサーと監督、という呼称は耳馴染みがあるはず。別業界のアーティストでも、恐らく。

では、クリエイターなのは、どちらだろうか?

正解は当然、「どちらとも。」だ。プロデューサーは時に、撮影現場にいないことすらある。監督は地を這い、作品に密着しているように見える。しかし、“映画”という創作作品ひとつを眺めてみても、“撮影→完成”までのプロセスは、映画製作という一大事業の中のおよそ1/4作業量。撮影だけに関して言えば、全体の1/6。むしろ、もっとも派手やかで楽しめる、“ご褒美パート”なのだ。監督は映画全体の内、およそ半分に参加する職業だつまり、実際に映画という作品を誕生から船出までを手がけているのはプロデューサーであり、間違いなく両者ともに、クリエイターなのだ。

話を戻そう。


ショーレースへの戦略を立てたいアーティストへ

選考委員と実行委員の労を認め、応援と感謝のこころで接するべきだ。彼らは必然、大多数の作品を却下し、受賞作品を生み出さねばならない立場である。彼らもまた同じく、映画祭主催者という立場からの「受賞作品を生み出すクリエイター」なのだ。敵でもなく、神でも無い。恐ろしい巨匠たちばかりではなくむしろその多くは驚くほど一般的な感性を持つ、常識的な社会人なのだ。たとえば、カンヌ国際映画祭。選考委員たちに著名な映画人が居並ぶわけだがその前に、実行委員たちが選考対象作品を決め、上映のための契約を完了させる。その候補作品を選ぶメンバーの中には、“女子大生”も入っている。映画人ですら無い、パリの学生が、だ。彼女たちもまた、受賞作品を生み出すクリエイターとしての意識を持ち、開催期間内に驚くべき成長を遂げるそうだ。観客目線に、また集客層のターゲットに相応しい、驚愕の人選力である。ショーレースの事務局、スタッフ、委員、皆さんへの感謝を忘れず、正しい振る舞いと配慮を心がけることは、実はもっとも重要なことなのである。

ところで、

なぜわたしが知っているのか、お判りだろうか。彼ら、彼女たちは身分を隠すことなく会場を闊歩しており、会食にも同席してくれるのだ。


『 具体的なアプローチと、ロビー活動 』

彼らも人間であり、他意無く、作品のアピールにも耳を傾けてくれる。トレーラー(映画予告編)に見入り、留意点にアドバイスもくれる。名刺の連絡先にキットを送れば、受領の連絡もくれる。国際俳優の大スターも同じだ。隠れ家の名店情報を交換しながら、再会を誓うそして彼らは必ず、約束を守るのだ。自身の信用に関わるからこそ、親友とのアポイントメントよりも確実だ。

ショーレースにただオンラインからエントリーするだけのアーティストは、ロビー活動の意義を知らねばならない。

想い出して欲しい。ロビー活動を行っているのは、プロデューサーだ。作品は、大勢の労を経て、受賞のスポットにたどり着く。偶然は無いが、必然でも無い。流動的な美しいプロセスである。とかく“監督”や“クリエイター”が増え続けている昨今、みなさん、関係者すべてへの感謝を忘れないように。

続いて、

『 作品力で圧倒したいアーティストへ 』

どんな傑作も、山の中の貴方のアトリエに閉じ込めておいたなら受賞する可能性は無い。当然、発表することに異論はないことだろう。発表することが重要なのだ。そして、発表すること、その全方位に、徹底的な留意と覚悟が必要になる。

作品への注目を集めるにショーレースはひとつのチャンスではありつつも、方法は無数にある。その中でも、“メディアに取り上げて貰う”という方法がある。(※SNSでバズらせる、について多くを語らずにおこうと想うのは、後述するとおりの“リスク”があるためである。)メディアに取り上げられる方法と、ショーレースにエントリーする方法は、大きく違わない。実は、ほぼ同じである。プロセスはシンプルに2つだけ。「作品を知ってもらう」「作品を気に入って貰う」。あたりまえに聞こえるだろうか、実は、ここに大きな課題がある。


『 評価基準の正体 』

 「作品を知ってもらう」

 「作品を気に入って貰う」

この二つの前後に、アーティストの貴方はどんな行動をしていたか。それが決め手となる。立ち居振る舞いや言葉遣い、服装やマナーレベルの話では無いのだ。

そこまでに、

アーティストとしてどう生きてきたか。

どこに向かっているアーティストなのか。

その実力があるか。

どう、生きているか。

これが評価基準である。お叱りを承知で申し上げれば、

「作品の良さ」は二の次である。

正しく言い直そう。「作品が良いのは、あたりまえ」つまり、評価基準に達している、ということは既に世界を魅了する実力のある良質な作品だ、ということであり、その善し悪しだけでメディアが取り上げている訳では無い、という事実。ショーレースも、同じである。

「最高の作品」を創る、「魅力的な生き方のアーティスト」が、「大きなステージを目指しており」、「その実力があるように想えて」しかも、「圧倒的な努力を重ねて生きている」それが「見える」ので、選考対象、またはメディアでの起用、となる。


『 命運を別ける信用度 』

広告費を投じてバズらせても販売本数を稼いでも話題性で露出を増やしても、評価基準には達しない。金で買えるポジションを手に入れてしまうと、弊害があるのだ。先に伝えた、“SNSでバズらせることのリスク”として。

ショーレースやメディアの中でも、業界信用の高さに違いがある。その頂点を求めるアーティストに限って伝えていこう。

メジャー賞や、信用度の高いメディアでの地位を確立するためには、作品の良さの他に、圧倒的な生き様を見せつける必要があることをお伝えしてきた。その中で、“チャラさ”が、命取りになるのだ。特に“NETチャラ事案”はもう、二度と消せない。メジャー賞も、信用度の高いメディアも、最も重要なのは自身の存在、その信用度であり、目先の遊びや金に浮かれるいわゆるパリピを、危険視している。選考委員も事務局も必ず、徹底的な検索と聞き込みを経て、受賞対象、取材対象を決定しているのだ。

遊びたいなら、諦めるべき。

あぁ、ところで。

まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:オスカー2021、歴史の記録破りラッシュ

異例づくめのオスカー セレモニーが開催される。伝統的な会場であるハリウッドのドルビーシアターだけでなく、ロサンゼルスのダウンタウンにあるユニオンステーションとの共同開催が決定している。参加できるのは、プレゼンター、ノミネート者、最小限のゲストのみが直接出席するかたちとなり、授賞式後のガバナーズボール(祝賀会)をはじめとする対面式の祝祭はすべて中止される。アカデミー賞100年の歴史上、記録的なオスカーが始まる。「複数の女性監督が最優秀監督賞にノミネートされたのは初!」「イスラム教徒の俳優が主演男優賞にノミネートされたのは初!」「70人の女性が76のノミネートは最多記録!」「主演男優賞を故黒人俳優がノミネート獲得!」「助演男優賞と同時に歌唱賞で同時ノミネート!」「最優秀助演女優賞に韓国系アメリカ人が初ノミネート!」「白黒映画が合計10のノミネートを獲得!」「黒人女優が史上最多数のノミネート!」「全員黒人により製作された作品賞候補は初!」「最優秀俳優候補者最高齢をアンソニー ホプキンス!」「NETFLIXが35ノミネート獲得でハリウッドの全スタジオ作品中で最多!」オスカー2021は、04月25日の日曜日の午後5時PTにABCで放映される。(※C.A.時間)- MARCH 16, 2021 THE Hollywood REPORTER -

『 編集後記:』

他意無くそのままを伝えるとしよう。

アカデミー賞は、テレビ番組のプログラムであり、国際映画祭ではない。

ただし勿論、人生を賭す価値のある素晴らしいステージであり、映画業界、コンテンツ産業への貢献度は計り知れない。最上級のステイタスであることに疑いはない。しかし、三大国際映画祭である「カンヌ国際映画祭」「ベネチア国際映画祭」「ベルリン国際映画祭」においては、評価対象外とされている傾向がある。むしろ、“受賞への逆効果”だ。アカデミー賞はエンターテインメント傾向が強くつまるところ、“人気賞”の色を隠せない。一方の三大映画祭は真っ向、芸術志向、である。その中にも鮮やかな色の違いは存在するわけではあるが、間違いないことは、どの賞も映画祭も、いとおしい。確実に、命を賭す価値がある。

光をみつめて闇を行く、愛すべき映画製作の現場へ帰るとしよう。


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