🔴いつも大安吉日243　〜広くなった空に全体をみる〜

【広くなった空に全体をみる】

新作の「蒸しパンパンケーキだ」
ハマっていた蒸しパンにアレンジを加え、朝からストーブの前が騒がしい

「学校から歩ける距離」に家を選んだ理由は、登下校でともだちとあそぶ時間がぼく自身いちばんたのしかったからで、仲間と四人でまだ陽のあたる前の道を歩いて学校に行った
そうげんはじめての歩いての登校だった

時間的に遅刻ぎりぎりだったから、帰ってきてから「どうだった？」と聞くと、「行ったことない道行って探検したよ」と、たのしかったことを話してくれた

やつぱり近くに仲間が欲しいな
それか毎日こどもに泊まりにきてほしいな

🔴うちだけが曇ってた

だんだんと冬になるにつれて陽はかたむく
陽がかたむくと室内に光が射し込むようになるのが、古民家のいいところだと思っていた
そんなふうに作られているのだ

昨日は午前中に学校で作業をしていると、空はものすごくきれいな青空だった

軽トラの窓も開けて走れるほど、うちへの帰り道もぽっかぽかだったんだ

が、しかし⋯
うちに着く手前三十メートル、太陽のあったかな光はいきなりなくなった
空気は急にヒンヤリして、外にいたすにちゃんは半纏を着込んでいた

「この三十メートルに何があったんだ？」
光が届かないうちは寒すぎた

文章ではなかなか伝わらないと思うからもう一度言うね、うちだけ季節がちがってた
トンネルを抜けてないのに別世界だった

太陽が霞んで見えるその原因は、家の目の前で大きくなり過ぎた唐松だったんだ

陽が傾いてきて唐松の中に入ってしまった
最近晴れても洗濯物が乾かないのはこれだ
そんななか、それでも乾かない洗濯物を干すすにちゃんに、申し訳ない気持ちになった

「いますぐ伐ろう」
ぼくは地主に許可もらいに行き、すぐに木を伐るために山に入った

🔴空が広くなった

太く立派に育った唐松
むかしはこの町を潤わせた産業のひとつ
それがいまではただのデクノボウだ
個人で伐るには金もかかるし、もう山から木を出すこともできないだろう
育てて木を出すまで手間をかけたところで、圧倒的に安い外国材に市場は取られている
だから山の木はもう動かないんだ

それでも木それぞれには寿命がある
この木が台風なんかで倒れるようなことがあれば、うちにだって余裕で届く距離だ
さっぱりすべて伐らせてもらうことにした

絶対に家側に倒れないように、専用の機械で引っ張りながらチェンソーで切っていく
四十五センチのチェンソーが届かない太さ
高さは二十メートルを超えている
木の傾き加減や枝の重さ、まわりの木と絡まない場所を慎重に考えて倒す場所を決める
少し切ってはクサビを叩き込み、傾いて倒れる寸前に専用引っ張りマシーン（チルホール）で少しづつ引っ張っていく

「ギギギっギー」とゆっくり倒れはじめる
まわりの細かい枝を折りながら、最後は一気にものすごい地響きと共に「ズゴーン」と

この迫力はやはりたまらない
すっぽりと空いた空がまた気持ちいい
倒れた場所も狙い通りにいってくれた

枝をきれいに払って、またその上に重なるようにつぎの唐松を倒していく
全部で四本の唐松を倒してうちに戻ってみると、ぽっかりと広くなった空が見えた

つづきはまた今日の午前中にやってみよう
そしてこの唐松で何か作ってみよう

🔴木から森から全体を見る

倒した唐松の向こうには、そのつぎの世代の唐松がまたしても控えている

でもそのまわりには広葉樹も生えている
やっぱり木も人と同じで、いろんなパターンがある方がたのしくなる
大きさも太さも紅葉のタイミングも
考え方やクセやそれぞれの個性も

ひとつひとつを見るとそれぞれに木だけど、少し離れて見るとすてきな森になる
紅葉なんてほんとに全体のハーモニーだ

目の前の現象はほんの一部で、そこだけで物事を判断するのはもったいない
一歩下がって少し広く見てみる
もっと下がって全体を広く深く見てみる

ぼくは目の前のことにピントが合って、それがすぐに気になっちゃうから、いつもぼんやりと遠くを見るようにしようかな
まず全体をはっきりと捉えて、そこから戻って「いまここ」を見ておこう

大事なポイントを腑に落としてブレなくして、それから軽く酒でも呑んてるくらいがぼくはちょうどいいかもな

夜に外に出てみると、ちょうど木を倒して空いた空にあかるい月が見えたんだ
「いやー⋯ いいねえ」

ぼくは久しぶりに一杯飲んだんだ

ではみなさん今日もすてきないちにちを

五穀豊穣　子孫繁栄　
大安吉日や　さかいひろし
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