科学は飲んでも科学に飲まれるな⑨ことばを覚えて、ことばから離れる
頭の中に理論や予感がなければ、外界を見ても何も見えないだろう。産まれたての赤ちゃんが見ている世界を想像してみる。それはきっと、カラフルな点の集合でしかないだろう。
理論や予感とは、要するに概念である。つまり、ことばである。ことばがなければ、我々は色と形以外の何も見ることができない。
一旦はそれでいい。しかしそのあとで、一度ことばから離れて事物や現象をよく見るということが必要になってくる。
たとえば「パソコン」ということばを忘れて、パソコンを見てみる。すると目の前に異様な黒い機械が浮かんでくるだろう。その次に「機械」ということばを忘れて、この異様な黒い塊を見てみる。また次に「異様な」ということばを忘れて、この黒い塊を見てみる。じっと見てみる。
おそらくさっきまで「パソコン」だとしか思っていなかった物体が、新しい何かに見えてくるだろう。
意識的に色と形だけの世界に戻っていくこと。赤ちゃんの方へ戻っていくこと。そこから文字通り、第二の生が始まる。