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【閑話】全集を読むこと

 作家の全集を読むことは、大変時間もかかるし、骨も折れることだ。そのあいだは他の本を読めなくなるほどに精力を使う。ではなぜそうまでして、全集を読むのか。

それは歴史の衝突のためである。結果としての充ちた時間のためである。

全集の熟読は歴史の衝突だ。作者の歴史と私の歴史との衝突である。それゆえに、対話は濃密なものとなり、相手が腹を割ってくれただけ、こちらも腹を割って応える必要がある。その繰り返しが、充ちた時間となる。

濫読や流し読みには歴史の衝突がない。そのぶん、時間の濃度は稀薄になる。もちろんそれぞれに利点はあるだろうが。

とにかく、私はいま、充ちた時間を求めている。むしろ知識は出来るかぎり減らしていきたい。

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