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そのひとの才能について①
そのひとには反芻する才能があった。
同じ記憶を、同じ過去を、同じことばを。
そのたびに、
足の裏で、自分の立っている地面が頑丈になるのを感じ、手のひらで、触れる空気がなじみ深いものになるのを感じた。
そのひとには反芻する才能があった。
あの人にもらったことばを、丈夫な箱にしまい、布で包み、胸の内ポケットに隠した。
あの人に最後にかけたことばを、何度も小さくつぶやいては、たゆたう真っ白な雲の彼方に、果てしなく広大な銀河を想った。
そのひとには反芻する才能があった。
同じ記憶を、同じ過去を、同じことばを。
そして同じ魂を。
だが、そのひとはそのことに気がついていなかった。
あまりにも当たり前すぎることだから、
あまりにも自然のことだから。
そのひとには反芻する才能があった。