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気がつくと、宙を舞っていた。 「わっしょい、わっしょい」と胴上げをする連中の掛け声には、男だけでなく女も混ざっている。無数の手の平が、私の全身を投げ上げて、受け止めて、また投げ上げる。 胴上げの一行は間違いなく少しずつ移動している。体が高く上がった瞬間、進行方向の先に水平線が見えた。群青色の海が日の光にきらきら輝いている。彼らが一歩一歩向かっている先が断崖絶壁であることに気づくまでに時間はかからなかった。嫌な予感しかしない。 両手両足をバタバ
「・・・早ければ、あと36時間で、人類初の民間宇宙旅客機RETTURA号は月に到着するそうです。かつて人類初の月面着陸を果たしたニール・アームストロングは、月旅行を想像できたでしょうか・・・」 携帯ラジオからニュースが流れてくる。世間は宇宙旅行関連の話題で持ちきりだ。私はふぅ〜と溜息をついてから、ラジオのスイッチをOFFにした。 ここは「宇宙ベーカリー」。かつて宇宙飛行士に憧れた少年が大人になり、夢のかけらを引きずったままオープンさせたちっぽけなパン屋だ。言う
やっぱりそうだった。空に浮かんでいた白色のそれはピューだった。その謎の物体は、ここのところ毎日のように私の前に姿を見せる。いつだってドローンみたいに空にぷかぷか浮かんでいる。 マンションのベランダで洗濯物を干している途中、私はピューの優雅な空中浮遊に目を奪われてしまった。ひょっとしたらピューは生きているのかもしれない、なんて思いながらしばらく見とれていたら、空に溶けるように消えた。 私はたまに一点の何かをじっと見つめたくなることがある。なぜかはわからない
「なんだ、この奇妙な絵は」 「見ていると頭がおかしくなりそうだ」 街の美術館には、評判の悪い一枚の絵があった。数百年前に描かれたとされるその絵は「嘘の絵」と罵られ、街の誰からも忌み嫌われていた。というのも、その絵には存在しないはずのものが描かれていたのだ。 それは、夜空に浮かぶ無数の光だった。大陸の最果てにあるこの街の空は一年を通して万年雲に覆われている。空に光が浮いているはずがない。街の人間にはその光が不吉なものにしか見えなかった。 ただ一人、その絵