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ヒッチハイカー・イタリア人のマルコとの出会い

あれは、今から5年ちょっと前。
2015年の、12月のことです。

当時39歳だった私は、車で仕事に向かっていました。
その日の朝は、ちょっと寄り道をしたので、いつもとは違う道を走っていました。

ふと、国道の歩道にたつ人が目に入りました。
外国人らしき男性です。

男性は、親指を立てて道路側に腕を伸ばしていました。
どうやらヒッチハイカーのようです。

気になりましたが、私は無視して仕事に向かうことにしました。
いつもの道を、いつものように…

しかし、彼の姿が頭から離れませんでした。
無性に、ワクワクした気分になったのです。

「戻ろう。もし彼がまだ立っていたら、乗せてあげよう」

私は心に決め、国道へと向かいました。

彼は、まだ同じ場所に立っていました。

道路の端に車を寄せ、停めました。

「ヒッチハイク、OK?」

と、男性は言いました。

「OK。どこまで?」

私は日本語でしたが、彼は理解しました。

「隣の県まで」

「OK!OK!」

私は当時、隣の県で仕事をしていました。
ちょうどいい。

私は、男性を車に乗せて、再び車を走らせました。

男性は、名をマルコといいました。
イタリア人で、当時28歳。
ヒッチハイクで世界を旅していたんだそうです。

マルコを車に乗せるにあたり、「怖い」といった感情はありませんでした。
恐怖心より、好奇心が勝ったのです。

私とマルコは、車の中でたくさん話しました。
マルコは日本のラーメンがとにかくおいしい、ということを熱く語っていました。

マルコとの会話は、英語と日本語が混在していました。
私は英語は得意ではありませんでした。

しかし、英語は気合いと根性で、どうにかなるものです。
中学程度の英単語を覚えていたので、それをつなげて会話を成立させました。

1時間弱のドライブでしたが、本当に楽しい時間でした。

マルコを隣県の駅で降ろす時、Facebookのアカウントを交換しました。

「もう会うこともないんだろうなぁ」

と思ったのですが。

マルコを駅で降ろした日から、2日後。
Facebookのメッセンジャーに、マルコからメッセージが届きました。

もちろん、英語です。
グーグル翻訳アプリを駆使しながら、内容を確認しました。

「南の方を周ってきた。前降ろしてくれた駅に今いる。できたらもう一度大阪に行きたい」

こんな感じの内容でした。
もちろん、OKしました。

「午後に仕事が終わるから、迎えに行く」

そして私は、再びマルコを車に乗せたのです。

マルコは、その日の宿を決めていませんでした。
まぁテントがあるからどうにかなる、と彼は言いましたが…

「私の実家に空いてる部屋があるから、そこ使ったら?」

と提案すると、マルコは喜んで承諾しました。

当時私の実家では、中学3年生になる息子が暮らしていました。
実家といっても、私が夫と住む家からはすぐ近くです。

私はマルコを、実家に案内しました。
実家の両親は、戸惑いながらも快く受け入れてくれました。

マルコはいったん荷物を置き、その日は私の家で晩ご飯を食べることになりました。
私と夫、マルコ、息子。

帰宅した夫は、家に外国人がいるのを見て、びっくり仰天。

「どないしたん」

「いや、こないだヒッチハイカー乗せた話、したやん?それがこの、マルコやねん」

その日の夕食は、とても楽しかったです。

マルコは、本国では石工をやっていること、これまで旅をしてきた国々のことを話してくれました。
最初はなかなか会話に入ってこなかった夫も、次第に話すようになりました。

当時は中学生だった息子も、マルコに興味を覚えたようでした。
翻訳アプリを片手に、学校でのこと、友達のことなどを話していたのです。

そして、翌日。
学校から帰宅した息子は、友人たちを呼びました。
もちろん、マルコと交流するためです。

息子の友人たちは、すぐにマルコに懐きました。

「あかん、俺英語わからへん」

などと言いながら、それでも何とか喋ろうと、がんばっていました。

夕方、早くも日が傾きかける頃…
私と息子、息子の友人、それにマルコの6人で、散歩に出かけました。
実家の近くにはちょっとした池があり、その周囲を歩いたのです。

言葉は通じたり、通じなかったり。
それでも、たくさん笑いながら歩きました。
「楽しい」に「言葉」はいらないのだな、と思いました。

夕日をバックに、全員で写真を撮りました。
空に向かって、指を立てて。

実家にもう一泊して、翌朝マルコは旅立ちました。
白ワインをひと瓶、そして…

「thank you」

と書かれた、猫柄のメッセージカードを残して。

もしあの時、マルコを車に乗せていなかったら。
あんなに楽しい時間を過ごすことは、できなかったでしょう。

これも何かの、ご縁。
一期一会の出会いを楽しんだ、冬の日々でした。

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中岡 はじめ
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