改訂版!ふいになつかしい曲を聞くと、なぜグッとくるのか③|なつかしさの仕組み
同タイトル②からの続きです!
この記事を書いている間にも、色々な疑問がわいてきました。そこで、ますます深掘していくと、たくさんの方々が様々な角度から研究をされていることが分かってきて、そうであったのか!などと目からうろこが落ちる思いで興奮しています。その楽しさが少しでも伝わるよう書けたらこの上なく嬉しいです。
言葉にできる記憶と、できない記憶
前回は、以下の文章で終わりました。
今日はまず、この二つの記憶の特性から。前回掲載した「長期記憶の種類」を見つつ、読み進めて下さい。
言葉にできる/意識される記憶(以下、顕在記憶)は、自分の特定の体験を思い出しているという意識を伴って想起する記憶です。エピソード記憶(自伝的記憶)と意味記憶(知識についての記憶)があります。
これに対して、言葉にできない/無意識の記憶(以下、潜在記憶)は、自分が経験したことではありますが、思い出しているという意識はありません。しかし、私たちは気づかないままに、それらの記憶を使用することで、日常生活を滞ることなく送ることができているのです。
例えば、日常的な動作が出来ること、ぼんやりしていても家に帰りつくことが出来ること、勘が働くこと、一度覚えたら久しぶりでも自転車に乗れることなど、様々です。
動作だけではありません。ほんの少しの快・不快な刺激や感情でも意識下では覚えていて、その対象への好き嫌いなど感情/感覚が、無意識に引き起こされることも分かっています。
また、通常「記憶」(顕在記憶のこと)と言われているものは(例えば数字を覚えるなど)は、忘却曲線によって時間の経過と共に急激に忘れてしまうものですが、潜在記憶は記憶の保持期間がとても長いのが特徴です。身体が覚えていると表現されたりもします。
プライミング効果と呼ばれるシステムも、潜在記憶のひとつです。刺激の意味処理がなされる以前に知覚レベルの処理が行われることで、意味が認知される前に反応が引き起こされる現象が起こります。仮想映像と頭で分かっているのに、思わず体が避けてしまうこともそれによるものです。
以上のことを踏まえて、いよいよ、「なぜグッとくるのか?」について説明します!
まずは、同タイトル②で定義した内容を思い出して下さい。
なつかしさ感情の仕組み
「なつかしい①」の仕組み|情動優先型
まず、当時のなつかしい曲など(手がかりとなる刺激)が、ふいに(注意が向いていない状況下で)聞こえます。
すると、その手がかり刺激が、潜在記憶(無意識)を呼び起こし急速に「なつかしさ感情」が高まります。認知より知覚が先に反応(身体が反応)した、つまり「グッときた」訳です。そして、数百ミリ遅れて自伝的記憶(エピソード記憶)が思い出されます。
この流れを「情動優先型」と言います。ポイントは、意味が分かる前に反応が出ていること。無意識である情動(なつかしさ)が先に起こり、記憶を想起する引き金となったということです。
恐らくその曲を聞いた時、その曲の記憶は意識の下にあった状態と思われます。逆に言えば、今でも意識の上にあれば認知が先にくるでしょう。
また、意図せず思い出すときは、感覚的なことが手がかりになっていることが多いと言われており、潜在記憶の言葉にできない感覚と共鳴するのかもしれません。その際、曲は言葉(意味)ではなく感覚のひとつとして手がかりとなったと言えます。
「なつかしい②」の仕組み|認知優先型
一方で、「認知優先型」は、なつかしい曲を聞いて、少しずつ詳細に当時の記憶が思い出されてきます。それから、なつかしさを感じます。記憶がなつかしさ感情の引き金となったということです。いわゆる通常のパターンかもしれません。
イメージできましたでしょうか?これで、一応、仕組みは説明できました。しかし、ここでまだ疑問が残ります。
聴いたことがある古い曲はたくさんあるのに、なぜその曲に反応したのか?
なぜ、思い出した記憶がその場面(シーン)であったのか?
なぜ、グッときた後、胸が締め付けられるような気持になるのか?
全て答えられるかは分かりませんが、考察してみます!
<本日の振り返り>
ふいになつかしい曲を聞くと、なぜグッとくるのか?
予期せずになつかしい曲を聞くと、無意識の領域の記憶が刺激され、理解よりも先に感覚的な反応が起こって、急激に情動感情が呼び起こされるため。
また次回!
<参考文献>
太田信夫 ,「潜在記憶ー意識下の情報処理」, 認知科学 2 (3), 3_3-3_11, 1995,日本認知科学会