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『三体』の第三部に突入
二部を読み終えた時点でもう十分かと思っていた『三体』だが、とうとう三部にも突入してしまった。現在、三部の文庫本にして下巻を読み始めたところ。ますます面白くなっていく。
数百年に及ぶ人類の歴史をここまで壮大に描き切り、読ませ切るという筆者の頭脳に圧倒される。歴史学、政治学、物理学等に関する広範な知識がなければ生み出せない物語。この風呂敷の広げ方、トルストイにもちょっとだけ似ている気がする。
ネットフリックスが、かなり内容を改変した上でドラマ化している本作品、第一部はまだいいにしても、第二部以降、果たしてこれを映像化することなど可能なのだろうか。水滴による攻撃のシーンなどは、SF超大作ばりの予算を組まないとビジュアライズできないだろう。また、物語の骨子となる物理学の理論的な説明などは、ドラマというメディア形態でどれだけ理解されうるのだろうか。
クリストファー・ノーランあたりが、「インターステラー」のような手触りで映像化してくれたらかなり面白くなりそうだが、それでも数十時間に及ぶ超長編ドラマになるだろう。原作の空気感を保つためにも、登場人物は中国人のままにしておいてほしい。ネットフリックス版は、人種構成がかなり変わっていたので。
中国の文化大革命のシーンから始まった物語が、ここまで展開するとは当然ながら全く予想しなかった。これまでもSFの古典的名作は読んできたが、多くの作品が一人の主人公を中心とした一世代の物語に終始している。フランス語文法に、未来のある時点から過去を振り返る前未来という時制がある。『三体』は、読者を前未来の視点に立たせる。この小説は、遥か未来にいる自分が二十一世紀以降の人類を記した詳細な歴史書を読んでいるような気にさせる。人が歴史から多くのものを学ぶのと同じ強度で、『三体』は読者にさまざまな問いを投げかける。