フィガロの結婚序曲
音楽との出会いとはどんなものでしょう。
現代は町にも家の中にも音楽が溢れていて、好きな音楽に出会う機会はたくさんあります。
胎教というのもあって、母親のお腹の中にいる時から音楽を聴いているものかもしれません。
好きな曲とか、好きなミュージシャン、好きになったきっかけってなんでしょう。
たいていがなにかの思い出、エピソードとセットになっているように思います。
なんの、きっかけらしいきっかけもなく、その曲にまつわるエピソードも、だれかからの紹介でもなく、そこにあって耳にして好きになる、という経験はむしろ、しにくいように思います。
私の子どもの頃に、ホームクラシックライブラリーという、割とポピュラーなクラシック(日本語変?)音楽全集のレコードが家にありました。
当時、百科事典やら文学全集やら、買い揃えるのが流行っていたようで、教育熱心ではない母は、教育熱心ではない故にそれらを与えてくれたように感じます。
母がそれらのレコードを取り出してこの音楽を聴きなさいと薦めたり、この曲が好きだと話すなどということは、一度もありませんでした。
私は家にあるそれらを、家にあるからという理由だけで聴きました。
全集に収録されているのは、よく知られた人気のある、家庭で聴くのにふさわしい程度に易しく飽きない長さか、そのように監修された曲なのだろうと思います。
とにかくクラシック音楽をズラリと取り揃えました、というのとは違います。
なんの予備知識もなく聴いているうちに、好きな曲に出会っていきました。
好きになる要素が、純粋に耳から入る音だけという体験は今思えば貴重に思います。
フィガロの結婚序曲もその一曲です。
モーツァルトなんて知らなくても誰かに解説されなくても、曲の始まりにワクワクし、このファゴット(その時は名前なんて知らない)のところが好きだと涙ぐみ、めくるめく展開に心が躍りました。
非常に優れた有名な楽曲だから全集に収められていたのでしょうから、感動するのは当たり前かもしれませんが、ここまでプリミティブな情報だけで感動に導かれたのはその後ニ度とない体験に思います。