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國分功一郎著「手段からの解放」を読んで

先日の日経新聞に、國分功一郎さんの「手段からの解放ーシリーズ哲学講話ー」という本の広告が載っていました。


哲学の本は時々、そう、半年から1年おきくらいに、なぜだか読みたくなります。
読んでもなかなか理解できず、時間のムダだったような気がすることもあるのに、しばらく経つとまた、わかりやすそうな本を探してしまいます。

この本も、理解できないかもしれないなと思いつつ、kindle本で購入しました。



「閑」のある生き方


というのも、その前日、やはり日経新聞の「半歩遅れの読書術」というコラム欄に、森下典子さんの【中野孝次の「『閑』のある生き方」】という文章が載っていて、次の箇所が印象に残っていたからです。

・・・あるページには、「僕は今年七十八歳になった。(略)その長い一生を思い返してみて、本当にいま自分のものとして残っているのは、若い時から好きで、これに生涯をかけようと思ったものだけであることに気づく。他のことは全部消滅した」「僕に残ったのは、小説や思想書を読んで考えることと、考えたことを書くこと、その一筋だった。(略)僕にとっての幸福はその読んだり書いたりすることの中にある」

国分さんの本「手段からの解放」のカバーには、

「楽しむ」とはどういうことか。カントの哲学をヒントにして、現代の”病理”に迫るー。

とあり、ここでいう「楽しむ」ことと、中野孝次氏の「幸福」には、なにかしら共通するものがあるような気がしたのです。


手段からの解放


この本は2部構成になっていて、前半は論文、後半は学生に向けた講話を記録した内容になっています。

前半は哲学の論文であり、やはり難しかったのですが、後半は、前半の論文を学生向けに解説したもので、比較的わかりやすいと感じました。

本の内容を要約するのはとても難しいのですが、タイトルの「手段からの解放」というのは、「楽しみ」(カントの第4象限の「享受の快」)を、「手段」から解放すること、のようです。

それでは、「楽しみ」を手段から解放する、とはどういうことなのでしょうか?

「楽しみ(享受の快)」は、目的とは無関係に、それ自体が「快」であるべき。それがカントの第4象限の(享受の快)。ところが、何らかの目的のために「楽しむ」、すなわち「楽しみ」が目的の手段になってしまうことは危険。(第4象限の(享受の快)が第3象限に飲み込まれてしまうのではないか)

カントの第3象限というのは「間接的に善いもの:設定された目的にとって手段として有用なもの」であり、第1象限(美しいもの、崇高なもの)、第2象限(端的に善いもの)、第4象限(快適なもの「享受の快」)と違い、第3象限のみが「手段」にとらわれている、と書いています。

また、全体主義について考察したハンナ・アーレントの著書「人間の条件」を読み、その後カントを読んだ結果として、

ハンナ・アーレントは、「目的というものは、設定されるや否や、それを達成するためのいかなる手段をも正当化する」という理由で目的を徹底的に批判したが、今回カントを読み進めながら、最大の問題は目的よりも手段であり、手段化ではないか、と考えるようになった。

と書いています。

わかりやすい例としては、

ワインを飲んで単に楽しむのはいいが(享受の快)、酔うためにワインを飲めば依存症の危険がある。(酔うという目的のために享受の快が手段化される)

ということが挙げられています。

私自身のごく身近な例でいえば、

noteに投稿することを単に楽しむのはいいが、「スキ」の数を増やしたいがために投稿するようになると、本当に書きたいことが書くけなってしまう。

ということにでもなるのでしょうか?


なお、本書では

「現在の社会が、享受の快を剥奪する方向に進んでいるのではないか。第3象限による第4象限の飲み込みが着々と進行しているように思われる。」

と警鐘を鳴らしています。
その内容を要約する能力が足りずここには書けないので、興味がある方はぜひ読んでみてください。


ジャズ喫茶「イントロ」


数日後、日経新聞の最終面「文化」欄に、「一曲入魂!ジャズセッション」(茂串邦明さん)という記事が載っていました。

1975年、東京高田馬場でジャズ喫茶「イントロ」を開店して今年で50年。・・・まもなく74歳になるが、毎夜洗い場に山のようにたまったハイボールやレモンサワーのグラスを指の関節が痛くなるまで洗っている。でも楽しくて仕方がない。50年前はお客さんが少なくて、こんなに洗い物はなかったのだから。・・・


「イントロ」には学生時代に行ったことがあり、それが1975~76年頃だったので、あれから50年が経過したのだという感慨と同時に、茂串さんの「・・・でも楽しくて仕方がない」というところが、とてもいい感じでした。
この「楽しさ」は、第4象限の快(享受の快)かな?


日経新書ランキング1位

本書「手段からの解放」は、本日(2025/02/01)の日経新聞の「新書ランキング」(横浜・有隣堂伊勢佐木町本店)で1位にランクされていました。
とてもいい本だと思います。



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