【本を詠む】第4回「腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境-桐村里紗」
「人は森であり、腸に『土』を内包している――」
人にとって最も身近な自然環境は「腸内環境」であり、そこは人が根を下ろす「土」にあたる。土壌に暮らす微生物が、食べ物と共に腸内に移住したものが腸内細菌の起源であり、人は今でも「食べる」ことを通して、外的な環境と接続しているのだ。
日々の食べ物が腸内の土作りの材料になり、消化や腸内細菌による発酵を通じ栄養豊かな土となる。それはまるで、森の落ち葉や動物の死骸から腐植土が作られるシステムと同じである。本書では近年明らかになっている腸内環境と心身の不調との関連について、最新情報を伝えつつ、人と地球の土を同時に改良する食べ物の選択の重要性と具体的方法を「プラネタリーヘルス」の観点から説く。近代農法や畜産が環境に与える甚大な影響と、それを解決する農業や食の未来も伝える。
第4回は小説ではなく、新書からのレビューになります。(小説はただのマイブームで本来的にはこのような学術的な書のレビューがメインになると思います)
薄々肌で感じ取っていた体の健康と地球の健康というのがまさにプラネタリーヘルスという概念を持ち出して繋がっているということを明快に示し、その具体的な行動まで示している。
本書が言うように、食べると言う行為が地球と私たち自身をつなぐ行為の代表格で、土や微生物と言うのはまさに自分たちの体にも宿していると言うわけである。
私たちは菌や微生物というと何だかとても悪いものに感じてしまいがちで、それは特にコロナウイルスの影響でより深刻になった。しかし、腸内も土も組織だって多様性というのが非常に重要で、そういった微妙なバランスの上で健康というものが成り立っている。
著書は医学に精通した方で、そういった予防医学的な観点からも食という大切さを説いている。それをプラネタリーに拡張したところが本著の偉いなと思うところである。
体の健康を整えることと地球の健康を整えることは、両立できる、むしろ不可分な関係にあるというのが本著で一番示したかったことだろう。確かに地球を想って作られたご飯というのは美味しい。
一度オーガニックな地元の食材を使ったビーガン料理を頂いたことがあった。旅先で外食ばかりしていて野菜が不足していたこともあったのだろうが、ふっくらと発酵した玄米の美味しさ、漬物、豆の旨味、丁寧に作られた愛のある味。こういう料理こそ地球に優しく、体にも優しいというのだろう。
オーガニックだから全てが地球に優しいという訳ではないが、地球を思うことは大事なのだ。本著でも紹介されているが、食の選択肢というのは、気候変動に対して、エネルギー問題の解決や自動車の整備など以上に有効な選択肢として紹介されている。それくらい食というのは身近な選択肢であり、地球にも大きな影響を与えるものなのだ。
ファストフードは気軽で、美味しく、安い。しかしその裏側では、工業化された畜産だったり、大量の塩分や甘味料、機械的な労働こうしたものが埋めいていることを忘れてはいけない。購買は投票なのだ。こういうことに投票し続けるようではなかなか地球環境問題の解決は進んでこない。
マクドナルドは偉い。多くのSDGs認証をとって、ファストフードながらも企業努力を怠っていない。しかし、本来的なエシカルでサステナブルな選択肢とは何だろうか。
サステナブルな選択肢は増えている。オーガニックな食材、ファーマーズマーケットも増えているし、ビーガンレストランや大豆ミートのような、地球への負荷を軽減するようなものも増えている。
課題を言うならば、こうしたボトムアップ的なアプローチに対し、構造的な食糧供給問題、フードロスなどをどのように対処していくかと言うことだろうか。システム的なつまり法律やビジネスなどを通してエシカルな選択肢をどのように進めていくか。ここら辺はビジネスマンや官僚の腕の見せ所といったところか。
体が健康になると心も健康になっていく。wellfareがwellnessになっていく。それがglobalにplanetaryに繋がっていく。ミクロな人の健康がマクロな地球環境にも繋がってくるのだから、今日食べるファストフードをちょっとしたオーガニックな発酵食品に切り替えてみるのはいかがだろうか。