触れることの尺度──AAPA『からだの対話の場をひらく』 ステートメント
この文章は、2023年10月より行われているAAPA主催のプロジェクト『からだの対話の場をひらく』の活動として、2024年6月に北千住BUoY、仲町の家にて開催される成果発表(舞台公演、美術展示、対話型イベント)に寄せて書いたステートメントの全文です。
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AAPAのプロジェクト『からだの対話の場をひらく』は、「触れる/触れられる」というテーマを掲げ、2023年の10月から2024年の5月にかけて行われてきた。プロジェクトの中心だったのは、ダンスの Contact Improvisation (CI) を「ダンスではないもの」にも展開していくワークショップと、プロジェクトメンバーや外部のゲストが登壇するトーク・ミーティングである。プロジェクトは、ダンサー、俳優、美術家、哲学者などさまざまな分野で活動しているメンバーによって構成されている。そして6月に、ここまでの活動プロセスを踏まえた成果として、舞台公演、美術展示、対話型イベントを行う。三つの表現形式で行うのは、さまざまなジャンルで主題化されてきた「触れる/触れられる」というテーマについて、そのジャンル越境的なポテンシャルを損なわないまま、多視点的に深めることを目的としているからである。
上本竜平がメーテルリンクの戯曲『interior (室内)』を演出する舞台には、「触れる/触れられる」ということが身体的な交感として直接的に取り入れられている。8回に渡って行われてきたワークショップでは、参加者が実際にお互いに触れることを通して伝わってくるものについて、時間をかけて言葉にしてきた。そこで育まれた言葉や交流そのものは、今回の公演にとって欠かすことのできない源となっている。
美術家の小野愛は、「触れる/触れられる」のテーマを自身の文脈で引き受け、「触れられないもの」をモチーフとして制作する。小野の制作では「縫うこと」が大事にされている。それは目的に収束する行為ではなく、過去の記憶や時間の蓄積といった、手の届かないものと自己の距離を確かめようとする行為でもあり、からだで直接触れることが叶わないものの手触りを手繰り寄せようとする営みでもある。
対話型イベントでは、プロジェクトメンバーによる振り返りをはじめ、これまでの活動を通じてつながりを感じた方、今回の展示や公演を見にきてくれる方々とあらためて言葉を交換する場を開きたいと考えている。舞台公演や現代美術の作品発表の場において、作り手と観客が交流する回路をいかにして設計できるのか、ということは様々な試行錯誤が重ねられている。舞台作品ではアフタートークや舞台挨拶、美術展ではアーティストトークが形式としては多用されているが、作り手が制作背景やコンセプト・問題意識を説明することがメインになっている。『からだの対話の場をひらく』では、作り手と観客といった枠組みの制限から離れることで、いかにして有機的な交流を図ることができるのかを模索してきた。最終的な成果の場でも、質問の形にまとまりきらない言葉や想いに形を与える場を設けられたらと考えている。
コロナ禍をあらためて強調するまでもなく、日常生活における身体的接触や親密さが生成する交流にあたり、人との距離感や接触の程度に慎重になることや、きめ細やかな配慮を行き届かせることが益々求められるようになっている。
複雑な世界の複雑さに対して、楽観的になるのでもなく、諦めるのでもないしかたで人と関わることは、それぞれにとっての「触れることの尺度」を確かめながら時間を紡いでいく振る舞いとしてあらわれるだろう。
今回の場をきっかけとして、ひとりでも多くの方とのご縁があることを願っています。
長谷川祐輔(哲学のテーブル代表/本公演・展示 キュレーション)
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イベント情報は以下のリンクよりご覧いただけます。
AAPA『からだの対話の場をひらく』 6/14(金)〜23(日) @北千住BUoY+仲町の家