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[SS]居場所

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デビュー当時、事務所の先輩の家で遊んでたら、お前にピッタリの役があるから出てみろって。僕は何も経験がないから怒られても知らないよと言ったら、演技なんて最初から期待してねえよ。お前が面白い奴だから、俺がTVで見たいだけだ。連れていかれたのが時代劇の現場で何も分からないから遊んでた。

今の嫁さんに逢うまでは、女遊びも色々したので、マスコミに叩かれた事もある。でもあの時も一方的に悪いのは俺のほうかと、局に文句を言ったら、役者を干されそうになったよ。その時は俺の文句を言っていた女もちょっと違うんじゃないのと話してた。仕事も女も俺的にいつもの自分を通しただけだから。

男は普段着の姿でTVに出続けた、役者として活動したが何か目立った評価がある訳ではない。男は最近亡くなったのだが近所の床屋に出掛けると言って、この場所から居なくなる雰囲気がありました。驚くなよ、人の死なんて年をとれば誰でも経験することだろ、珍しくもないと男は笑いながらカメラを見た。

スピードと高さと衝撃である。速度は早く最高速度に達して欲しい。風や重力の衝撃も感じながら、コースターが最高地点に達した時のスリルに娘は興奮したいのかもしれない。娘の性格からして身体の感じる衝撃より恐怖心の感情で緊張したいのだ。娘は先生にいつも退屈でハプニングに襲われたいと話した。

僕の頭にあるジェットコースターはとても昔のイメージである。コースター自体が大きくなくて乗っていて安心できない。コースターと線路の接続が気になってしょうがない。周りを見れば何十人も座っている。これだけの重さに線路とコースターの運用が本当に耐えられるのか心配だ。脆弱な音も怖いのです。

USJのジェットコースターに乗りたいと小学生に進級したばかりの娘が言うのでまだ無理だろうと思って調べてみたら6歳以上可になっている。僕は近所の遊園地のコースターでさえ汗をかいて乗れなかった記憶がある。恐らく奥さんの性格を受け継いだのだろう。奥さんは何事にも物怖じしない性格である。

山本さんがiPadと契約資料を持って声を掛ける。僕は彼女の歩く動きが早く切れているので若者だなと感じる。僕は動きが鈍くて御免なさいねと話しながら、山本さんの目を初めて見て有難うと伝えました。彼女は優しく微笑んでいた。僕はもう一度頭を下げると店を後にした。来月が待ち遠しいのである。

山本さんはどうしてスマホを持っていないんですかと尋ねた。僕は4年前体調を崩して精神科のデイケアに通院を始めた事を伝えた。彼女は別の事を考えている様だ、僕は続けた、他人との交流を断つ為に携帯を辞めたんですと答えた。山本さんは何も言わずに先輩社員と話して、サービス商品の説明を続けた。

山本さんは後ろにいる先輩社員の確認を取りながら作業を進める、確かに言葉の使い方が慣れていなので新人さんかなと見て取れる。研修で学んだ対話術を活かして営業を続けている。僕のプライベートな会話も上手く届いていない様だ。しかし僕も良い人だと分かるので無理に自分の考えを押し付けなかった。

体格がしっかりして身体のラインが綺麗な女性だな感じながら、お待たせいたしました、こちらにどうぞという声の後を追いかける。サービステーブルにある椅子をさっと動かす。僕は顔を見るのは苦手で頭を下げると座席に座る。山本さんはiPadの契約変更の手続きですねとタブレットに目を通して話す。

白雪姫と7人の小人の部屋があって、作業療法士の方が病室を周り、外に遊びに行きませんかと声をかける。僕は小学校の教室でカードゲームをして遊びました。昔から知っている不思議な感覚になって、翌週には病院の裏手にある畑で作業をしました。僕は体力が回復していたので、社会に早く戻りたかった。

私は病院を見てコムドットだなと思った。職員がリーダーとなり、患者さんに声かけして作られた世界は、精一杯の優しさに包まれていて、現実の社会の理不尽さも感じなかった。お互いにこの場所で楽しもうとしていました。Mさんもデイケアに居て下さいね、お母様が必ず戻られる美しい場所ですと答えた。

昼休みにリハビリ病院の畑で採れた野菜を利用者へ販売している。デイケア利用者もジャガイモや苺、加工食品である茄子の辛子漬けを購入した。とてもお買い得で家族も喜んでいる。私はMさんのカウンセリングで母を探す旅を始めようと思っている事を伝え、Mさんも当然協力して下さいますよねと尋ねた。

呉が盲腸で入院した。俺も隣町の病院までお見舞いに行く。呉はお土産に持参したメロンを上手に剥いて頬張った。俺は来月分の原稿を渡すと、相部屋に居る高校生が私も小説家を目指しているというので、辞めた方がいい10年後にはAIで無くなるかもしれないよ。帰りの船の上でタバコ吸いてえと叫んだ。