発刊順:15 愛の旋律
発刊順:15(1930年) 愛の旋律/中村妙子訳
メアリ・ウエストマコット名義の「愛の小説シリーズ」の最初に書かれた作品。
ミステリと違って、「愛」をテーマにしたドラマが展開。
かなり長い間、クリスティーが書いたことを隠しており、今でいう「裏アカ」的な小説。
『愛の旋律』は、裕福な生まれだがお金に苦労しているヴァーノンが、ネルとジェーンという2人の女性と関わり、天才音楽家へと変容していく物語。
(ざっくり)
物語は時系列に進んでいき、5章に分かれているが、章のタイトルになっている人物が語るというわけでもない。
文庫本にして523ページもあり、相当長編です。
今回、時間があったので集中して読めたので割と一気読みでしたが、ブツブツと読んでいたら先に進まない…気分になるかも。
とにかく長いです。
書きたいことを思いっきり詰め込み、ページのことなど気にしなくていいという環境で書かれたのでしょうか。
ミステリでは書けない、クリスティーの思想や体験がふんだんに表出されており、クリスティーの幼少期のような子供時代の話や、戦争が始まって、看護婦として働いていた時期のこと(この部分がなかなか面白い)が、登場人物の行動に反映されていて、自伝とリンクするような趣がある。
ヴァーノンの母であるマイラの独りよがりな愛情…いつまで続くのかと飽きた頃に、時代が移り、また違う人を主題にして物語が続く。
『ジョージ・グリーン』の登場はさすがクリスティー。
戦争が起こす悲劇や代償も描かれており、すべてを読み終えた後にプロローグに戻ると、原題のGian’ Bread〈巨人の糧〉の方が『愛の旋律』よりしっくりくる。
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