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発刊順:91 運命の裏木戸 ~最後の作品~

発刊順:91(1973年) 運命の裏木戸/中村能三訳

メアリの死は自然死ではない ― この奇妙な文が出てきたのは、タペンスが引っ越し先の旧家で見つけた古本からだった。彼女がとびとびに引かれた赤い線を見つけ、線の引かれた文字をつないでみたのだ。タペンスの持前の好奇心がむくむく頭をもたげた。おしどり探偵トミーとタペンスはさっそく調査を始め、本の持ち主が半世紀前に若死した少年であることを知る。メアリというのはその少年の育児係で、スパイの嫌疑を受け、後に食中毒で死んだらしい。少年は殺人を報せようとしたのか?
犯罪の生じた起点に向かって進行する女史後期の異色ミステリ!

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より

とうとうトミー&タペンスも75歳くらいになってしまった。
終の棲家として、ホロウキイというイギリスの小さな村の<月桂冠荘>を手に入れて、引っ越しの片付けものをしているタペンス。仕事は引退しているというが、時折ロンドンに出向くトミー。
 
新居のとある本に隠された謎の言葉が気になるタペンス。好奇心は決して衰えることがない。タペンスの行動力につられて、トミーもずるずると沼に落ちていく。

「メアリ・ジョーダンの死は自然死ではない。犯人はわたしたちのなかにいる。わたしには誰だがわかっている」

だがしかし、メアリが生きていた時代は60年もの昔のことだった。
 
村の人々の中でも、当時を知るのはすでに90代にもなっており、話を聞けるのはごくわずかな人々なのだが、タペンスは徐々にメアリとメアリが死ぬことになった事件へと迫っていく。
 
謎を追ううちにタペンスは危険な目にあうのだが、さすがに高齢なため、「頭をボカン」ではないが、当たり所によってはかなり危険ではあった。。
 
時折、トミーとタペンスの過去の事件簿に触れ、懐かしむ場面もある。2人の会話や雰囲気は、このシリーズを通して変わらずに、明るく冗談に満ちた楽しいものだ。
きっと、多くの読者から、「その後のトミーとタペンスを書いて」と熱望されていたのではないだろうか。
そして、トミーとタペンスにふさわしい終の棲家と穏やかな村人たちと賑やかに過ごせる老後を見事に書き上げて、読者を安心させてくれたのではないかと勝手に想像します。
 
本書の解説によると、クリスティーが83歳の時にこの長編小説を発表し、世界中の読者が女史の健在ぶりを驚嘆し祝福したそうです。
3年後、1976年に女史はついに永眠し、これが最後の作品になりました。 


HM1-59 昭和61年1月 第11刷版
2023年8月27日読了


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