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アガサ・クリスティー関連図書7

アガサ・クリスティーの大英帝国 著者:東 秀紀

「ミステリ」と「観光」から見る大英帝国盛衰史

ミステリとは、その時代の表現であり、観光とはその時代に生きた人々の夢や憧憬なのだから、アガサ・クリスティーのミステリを観光の視点から考えることは、彼女の生きた時代の英国 ― 20世紀に世界的帝国から一島国へと変貌するまでの英国 ― を明らかにしなければならないという気が、わたしにはしているのである。

本文より(帯)

タイトルを見て、世界史には詳しくないからなぁ…でも、クリスティーの関連本として気になる…というので、手にとってみた本書。

筆者はクリスティーの長編66作品をしっかりと読みこまれ、作品だけではなく、自伝や関連本も読まれた上で、この本のテーマである「観光」の観点から分類し、クリスティーが作品を書いた時代と摺り合わせて解説と考察をしていくというスタイルです。

イギリスの時代背景の中で、クリスティーの生涯も作家活動も、2つの大きな世界大戦に影響されているが、戦時中であっても筆を休むことなく書き続け、作品は発表されていた。当然戦争の影響は作品にも反映されていて、私も読んでいて感じることはあったが、この本はそういったこともよく研究されていてとても読みやすく解説している。
これが日本ならば、戦時中に娯楽の本を出版するなんてとんでもない!という文化的な弾圧や言論の自由もなかった。
本書によれば、

同じころ日本では、江戸川乱歩や横溝正史などの作品が厳しく作品を検閲され、太平洋戦争が始まると、少年向けの探偵小説や捕物帳さえ発表できなかった。国策に従うべく日本文学報国会が設立され、ミステリだけでなく、ほとんどの作家、文学者が参加した時代である。これに参加しなかったのは趣旨に納得せず、筆を折ったものか、余程の変わり者しかいない。

ということだ。

筆者作成の「クリスティーの長編ミステリのグループ分類」という表が掲載されていて、ミステリのグループを大きく3つに分けている。
「観光ミステリ」26作品、「田園ミステリ」31作品、「都市ミステリ」9作品といった具合だ。
さらに観光は「交通機関」「中東」「観光リゾート、ホテルなど」
田園は「ロンドン近郊」「田舎」、都市は「都心」となっていてそれぞれに該当する作品名が載っている。

興味深いのは、「田園ミステリ」で思い浮かぶミス・マープルものが、後期になると「観光リゾート、ホテルなど」へと活動が広がっていく。
その理由のひとつに、戦後になると、地域にもっていた地代と、海外植民地への投資で賄われていたジェントリ(大地主)層達の家計が成り立たなくなり、事件の主要なメンバーであるジェントリ達が、「村」から姿を消していくという、時代の移り変わりを作品が如実に表しており、かくして『鏡は横にひび割れて』以降のミス・マープルは旅に出る…というのだ。

この表を元に、大英帝国を縦糸、観光を横糸にしながら、時系列的に作品をたどるという内容で、観光論とか大英帝国の歴史の面に重きを置くのではなく、あくまでもクリスティー作品を中心としているので、本当に面白いです!
今まで自分が読んできた読み方にこの「観光」を当てはめると、よりクリスティーの登場人物を通して言いたかったことが理解できるような気にさせてくれます。

この観光を通した視点もとても納得できるし、新たな視点を手に入れて、更なるクリスティー沼へ…ずぶずぶ…。

ということで、今度は長編を中心に再読しているところです。
たまに、過去記事に追記しているかもしれません(●´ω`●)ゞ

私と同じマニアの方にはお薦めします🎵

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