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鹿の王は難解医療ミステリー映画だった

2回の延期を経て満を持して公開された「鹿の王」しかしその観客動員数は伸び悩んでいるようだ。

ジブリ大好き人間としては「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」のキャラクターデザインを手掛けた安藤雅司さんの作品はぜひとも映画館で拝みたく、意気揚々と見に行った。んだけれど、なんかうん、そうね、ちょっと何とも言えない作品ではあった。映画を見た人は「もののけ姫の2番煎じ」「もののけ姫の劣化版」と酷評している人も多いらしい。

たしかにウィルスが蔓延していく様を表すアニメーションはもののけ姫のたたり神の描写にそっくりだし、物語のキーを担う「ピュイカ」という動物はヤックルそのもの。屋久島の森を彷仏とさせるようなシーンも多い。

ただ本編の主人公はウィルスの感染を免れてる一方でもののけ姫のアシタカは呪いがかかり死がせまっているという設定だし、ストーリーはだいぶ異なる。アニメーションの描写だけで似ていると言ってしまったら、わりとどんな作品も似ている者たちの作品群になってしまう。

評価があまり芳しくないのは他の要素が考えられると思う。本筋には触れない感じで多少ネタバレもありつつ、モヤモヤした部分をつづってみた。

鹿の王のざっくりあらすじ(公式HPより)

かつてツオル帝国は圧倒的な力でアカファ王国に侵攻したが、突如発生した謎の病・黒狼熱(ミッツァル)によって帝国軍は撤退を余儀なくされた。以降、二国は緩やかな併合関係を保っていたが、アカファ王国はウィルスを身体に宿す山犬を使ってミッツァルを再び大量発生させることで反乱を企てていた。ミッツァルが国中で猛威を振るう中、山犬の襲撃を生き延びたヴァンは身寄りのない少女ユナと旅に出るが、その身に病への抗体を持つ者として、治療薬開発を阻止したいアカファ王国が放った暗殺者サエから命を狙われることになる。一方、治療薬を作るためヴァンの血を求める医師のホッサルも懸命にヴァンを探していた―― 。
様々な思惑と陰謀が交錯した時、運命が動き始める。


ファンタジーの世界観が分かりにくすぎる

主人公は黒狼熱の抗体をもつ無口な激強おじさん「ヴァン」と、黒狼熱をなおそうとするイケメン貴公子「ホッサル」の2人いる。人々が黒狼熱は呪いだと騒ぐ中、ホッサルは病の原因を突き止めれば必ず治ると断言する。なるほど、呪いやまじない、神の怒りなど目に見えないもののせいにされてきたことを論理的に解決していくってことね!と理解した。ところが、ヴァンはハリーポッターの魔法やスター・ウォーズのフォースのような人知を超えたパワーを発揮する。かつヴァンが愛するユナは山犬に噛まれて血まみれになるのに次のシーンで超元気になっている。現実的に理解するべき世界線なのか、はたまた別次元の話なのか、ファンタジーの世界観に出だし10分程で置いてけぼりになった。そして最終的にファンタジーの世界観については言及されないので、結末後も「あれはなんだったんだろうか?」と首をひねるシーンが多かった。

アニメーションで察してね☆感が多すぎる

ユナがヴァンと仲良くなるために手渡しで食べ物を食べてもらうと言うシーンがある。ヴァンは最初ユナの手から直接食べないが、次第にヴァンがユナに心をひらき、ユナが出す食べ物を直接口に運ぶ。この映像自体は2人の絆が深まったことを示す象徴的なシーンでハートフルかつほっこりする素敵描写だ。しかし「鹿の王」には、こうした言葉ではなくアニメーションで表現している描写が多すぎる。きっとそれがこのアニメの美しさであり、素晴らしさでもあるのだけれど、小説を読んでない人間にとっては、アニメーションで察してね☆というのはわりと酷な話。(わたしの理解力の問題かもしれないけれど)物語の背景部分や心情部分はもう少しセリフやテキストで伝えてもいいんじゃないかという気がした。
(それこそ、もののけ姫におけるエボシの秘密の庭でのシーンが好きで。石火矢衆がエボシを殺さないでくれってアシタカにお願いするセリフは、一見身勝手そうに見えるエボシに逆転ホームランを打たせる言葉よなと。あれによってエボシの立場にぐぐーんと深みが出る。)

ラスボスのクセが強すぎる

RPGみたいにボスとその黒幕的なラスボスがいて、映画の佳境で「わたしがラスボスです」っていうキャラクターが姿を表すのだけれど、そのラスボスのクセが強すぎる。姿形がまあまあに意味わからん風貌なのと、烈火のごとく怒り狂うその理由もいまいちつかめない。そもそもラスボスって大抵「いやお前だったのかーーーまじかーーー」みたいな伏線回収的ポジションが多いじゃん?でもドーンって登場してきても
「いや、ぶっちゃけ、どなたですか?」という衝撃のほうが大きい。
必死にここまでのストーリーを理解しようと頭をフル回転してきたけれど、最終局面を前にして、物語に勘当を言い渡されてしまった。

ロード・オブ・ザ・リング顔負けの長編作品でみたかった!

全体的に物語が新幹線のように弾丸で進むので、一度置いてけぼりになるともう二度と追いつけない。

鹿の王のあらすじは現実世界のパンデミックと重なる状況だったように思うけれど、人々の葛藤だとか心情部分があんまり描かれてないので、共感したくてもしきれなかったところもちょっと残念だった。感動系作品の良し悪しは自分が共感できるかどうかという点が大きく影響すると思うけれど、「鹿の王」は共感を呼べるシーンが少ないことが評価が厳しい理由の一つのような気がする。

「鹿の王」の原作は文庫本だと4冊もあるらしい。そりゃ4冊を2時間にまとめるのはかなり難しいだろうなと納得。大人の事情だろうけれど3部作とかでゆっくり解説いっぱいで見てみたかったな〜!

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