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【老舗をゆく】昭和26年創業、73年の老舗酒場「川柳」で骨酒を満喫
北東北最大の歓楽街・盛岡の大通界隈。ここに73年もの歴史を刻む酒場があります。立地柄、観光客に大人気の店ですが、老舗中の老舗なので、地元客からの支持も多い酒場です。
⚪︎おひとり様でも安心の酒場
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昭和26年の老舗酒場「川柳」を訪れます。この日はほんの少しだけ残業し、軽く食事をしようとふらりと寄りました。
正直、前にお邪魔したのがいつのことが覚えておりませんが、元々は「熊ヶ井旅館食堂」の若旦那から「あそこ、何食べても美味しいから、行ってみて」と紹介されたのがきっかけだったと思います。
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入り口の看板にその日のおすすめメニューが並びます。この日は、「きく酢(真鱈の精巣の酢の物)」「揚ぎんなん」「牡蠣フライ」「山女」と短冊が貼り付けられています。
「おひとりさま お気軽にどうぞ」という店からメッセージが嬉しいです。入りづらい佇まいではありませんが、老舗らしい風格ある外観に、ちょっと気が引ける方もいるかもしれませんが、このひと言が背中を押してくれそうです。
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さて、店内へ進むとカウンターに先客が一人、一合徳利を傾け手酌されています。カウンター席を勧められ、わたしは瓶ビール「一番搾り」の中瓶を注文し、お店の方に一杯目を注いでもらいます。
そして、お通しが最高です。季節の食材があしらわれていて、見た目に素晴らしい一品。近年、お通しがいらないという風潮、お通しはもう古いという考えが外食業界にも広まっているみたいですが、やっぱりこういう手抜きない仕事されたお通しが供されると、酒場好きとしては嬉しくなります。
なお、この日のお通しは、蛍烏賊、独活、胡瓜を盛り付け、上には品よく酸味が効いた酢味噌です。独活は春の山菜ですが、茎の部分は生のまま拍子切り、写真では隠れていてわかりづらいですが、葉の部分は湯掻いてアク抜きの処理がなされています。
独活のほろ苦さがビールとよく合い、食欲が湧いてきます。そして、蛍烏賊です。旨みが詰まったこの食材には、日本酒が欲しくなります。地酒「わしの尾 金印」は二合熱燗でいただきます。
⚪︎ナマコを肴にとります
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さて、熱燗も届きましたので、ナマコ酢を注文します。見てください、なんとも美しいアカナマコです。盛り付けから器の選び方から、酒場好きの心がくすぐられます。
こちら、70年以上の歴史を持ち、何代も代替わりしていらっしゃいますが、厨房で包丁をふるう職人は、「川柳」で働き始め今年51年目だとか。ものすごい和の職人が「川柳」にはいる老舗酒場です。
と、もろもろ絶賛していますが、ナマコも食感上々、風味上々で酒が進みます。メニューには、アレもコレもというわけではなく、絞り込まれた酒肴が掲載されており、酒場好きにはたまらない品揃えとなっています。
⚪︎茶碗蒸しが絶品なのです
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うなぎ、すっぽんも食べることができますが、どじょうもあります。柳川の開き鍋は1,400円、丸は1,250円となっています。熱燗でどじょうも最高です。
で、「熊ヶ井旅館食堂」の若旦那にイチオシされたのが、茶碗蒸し(600円)です。
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ということで、茶碗蒸し到着です。最高の見た目です。で、すくって口に運ぶと、なんとも上品な出汁と卵の甘みが効いた味わいにうっとりです。
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口溶けなめらか、具材たっぷりの茶碗蒸しに恍惚としながら、熱燗を追撃させます。最高です、至高です、これぞ酒場の悦びです。
⚪︎さらに極みへ「骨酒」で仕上げます
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と、メニューに目をやると、「骨酒 こつしゅ(山女酒・岩魚)」が。
『川魚の姿焼きの出汁が熱燗に染み渡る一品。天然の川魚を使用しているため、ご希望の際は、在庫の有無をお店へお問い合わせ下さい』
とのことなので、「本日は、骨酒をいただけますでしょうか」とお店の方に伺いますと、「本日は岩魚になります」とのことで、「それでお願いします」「かしこまりました」となりました。
岩魚を焼く時間をいただきます、とのことでしたが、熱燗が一合ほど残っていたので、茶碗蒸しをいただきながら、ちびりちびり呑ります。
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そしてついに到着しました「骨酒」です。岩魚バージョンです。ほんのり色づいた酒をくぴり、、、といきますと、「おおっ、、、」と思わず声が漏れます。
カウンター席で一緒になり、世間話をしていた先客にも振る舞うと、「ほお、、、これは、、、」と旨そうに呑んでくださいます。
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上から覗いてみると、なんとも立派な岩魚が一尾。この岩魚の出汁が美味しくないはずがないのです。
時間を置くと、ますます旨みが熱燗に移っていき、凄まじく濃厚な味わいになります。旨すぎです。
まあ、こういう骨酒系は、冷めると魚臭さが出ますので、素早く呑み進めていきます。例の先客にもどんどん勧め、二人でぐいぐい呑ります。
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骨酒を呑み干し、残った岩魚を半分に切ってもらい、先客の方と分けていただきます。で、これがまたしっとり柔らかで実に旨いのです。なんというか、あっさりとした風味と味わいの煮物のような感じでした。
⚪︎ランチもお得なのです
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ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたことをきっかけに、観光客の来店がすごく増えたそうです。ランチタイムも行列になることもあり、51年目のベテラン職人がフル稼働されている模様です。
ランチをやっているとは知らなかったので、これは朗報です。遠方からのお客様を連れていっても喜ばれそうです。
創業昭和26年の老舗酒場ですが、サービスはアットホームそのものでした。深みと風格がある店内の雰囲気を楽しみながら、肩肘張らずに絶品料理を味わってみてはいかがでしょうか。