▲ 2-6 北欧・バルト海クルーズ
2010年には「ウィーン・フィル」が演奏したことのないサンクト・ペテルブルクでコンサートを実現しよう!ということになり、マリインスキー劇場での貸切コンサートをやる計画となった。この劇場は1783年にエカテリーナ2世により、オペラとバレエの専用劇用として開設された帝室劇場で、ムソルグスキーやチャイコフスキーの多くのオペラの初演が行われた劇場だ。劇場の芸術監督を務める指揮者のヴァレリー・ゲルギエフもクルーズに乗船することになり、ヨーロッパでも話題となった。
このクルーズは ハンブルク(ドイツ)〜 リューベック(ドイツ)〜 サンクトペテルブルク(ロシア)〜 タリン(エストニア)〜 ヘルシンキ(フィンランド)〜 ストックホルム(スウェーデン)という航海ルートのバルト海のクルーズとして発表した。さらに、現在のロシアの飛地であるカリニングラードで演奏会を行うというウィーン・フィルにとって意味のあるツアーとなった。
サンクトペテルブルクに向かう船内では、ゲルギエフがリハーサルを行った。彼は厳しい印象のある風貌だが、リハーサルではオーケストラの演奏を途中で止めることなく楽しそうに指揮をしていた。「いま私たちはバルト海を航海していますが、あの水平線に夕陽がゆっくり沈んでいくようにリタルダンド(だんだん遅く)してください。」というような詩的な表現をされていたのが私にとっては意外に感じ、印象に残っている。もう1人の指揮者、クリスティアン・ティーレマンは、逆に几帳面でやさしい感じの印象だったが、この方の意外な一面をみた。リハーサル時に舞台袖で撮影待機していたマスコミの1人がカメラのシャッターを押した。ティーレマンはすぐさま演奏を中止して「いまシャッターを押したのだ誰だ?大切なところで撮影で邪魔をするなら次からは退場してもらいます!」と厳しい表情で言い放った。この言葉でオーケストラのメンバー達にも緊張感が走ったように見受けられた。2人の指揮者のリハーサルに立ち会い、オーケストラとの音楽づくりの手法の違いや人柄などを知ることができたのは貴重な体験だった。