平伏の身体観
本日は円覚寺の横田南嶺老師との今年最初の個人稽古の日。昨年の暮れにお伝えした平伏(へいふく)の感覚をおさらいしたいという事だった。
円覚寺に到着し直接お話を聞いてみると、、お伝えしている時はまだよく分からなかったそうだが、ご自身で工夫を重ねているうちに「坐る」が爆上がりしたそうだ(爆上がりは老師が今風に言うとと仰り、思わず笑ってしまった)。ただ、言語化出来ないので日記にも書いていないらしい。
身体感覚とは質が上がれば上がるほど言葉が抽象化しやすくなる。とはいえ、伝える側としてはいかに普遍的で共通認識が多い言葉を選べるかが伝わりやすさの一つの指標だろう。なので、私は身体感覚を育てていって新たな感覚が生まれたらとりあえず言語化してみる。
そして、伝える工夫としては身近な動作の例を挙げて、親近感やなんとなくの感覚を味わい掴んでもらうようにしている。解剖学や生理学などは共通認識としてはうってつけだが、その分落とし穴もあると感じている。うまく使っていくしかないのだが、とにかく言葉は本当に難しい。話が逸れてしまったが、今回の平伏の身体観に関して出した身近な例は「お腹が痛い時の格好」である。
その前にまず平伏とはなんぞやという事になるのだが、簡単に言うと平伏は土下座やお辞儀であると思ってもらえればいい。土下座…はあまり言葉的に良くないなと思って別の言葉を探していた時に平伏という言葉があり、音の感じも合わせてこれが今の感覚にピッタリ合うという事で平伏となった。
平伏する時に多くの方は頭から下ろしていくと思う。そんな事考えたこともない、と思う方もいるかもしれない。別にどうという事はないのだが、相手に胸あたりを抑えられて動きが制限された状態ではどうだろうか(武術的な動きでは制限のある中で如何に動けるかが一つのテーマでもある)。
頭から下ろしていくと動きが止まり膝が浮いてくるのではないかと思う。これは肩周りに力みが生じているのが原因の一つだ。同じ動きでもどこから動いてみるのかで大きく変わる事は、普段の稽古会でも良くやっている。
次にお腹に感覚を向けて平伏してみるとどうだろう。同じように胸を抑えられても抵抗感をそこまで感じずに平伏できると思う。なぜ違うのか。お腹で平伏している時はより股関節の動きがクリアになっている感じがあるし、抑えられている所があまり気にならない。ここまではワークショップや稽古会でも事あるごとにお伝えしていた事だ。平伏の原理はこの一つ先の身体感覚。
先ほど、今回の平伏の身体観に関しての身近な例は「お腹が痛い時の格好」である、と書いた。皆さんはお腹が痛い時はどのような格好を想像するだろうか。お腹を抑えて少し屈む形になるのではないだろうか。
この屈む形がポイントで、お腹に感覚を向けた時との違いだ。
お腹に感覚を向けた時はお腹から前へ倒していく流れだが、平伏の場合はお腹を寧ろお尻や股関節の方に下ろしていくような感覚である。お腹の奥の奥の深遠な穴にボールを落としていくとでもいうのか。
ちょうど地震の時の説明で使われる地球のプレートが中へ入り込んでいくような感じでスッと入り込んでいく。こうすると相手に胸を抑えられていてもほとんど抵抗を感じずにお辞儀ができる。
そして、面白いのがこの平伏は胸や肩がかなり抜けていく。抜けとは力みがなく力の流れに滞りがない事だと解釈しています。横田老師が鳩尾からやってみたらどうかと試されたが、やはり腹から下ろしていく方が断然抜けていく感じがある。
また、平伏するとお腹と腿がピタッとくっ付き安心感が出てくる。これは頭やお腹から下ろしていった時との違いを比べてみるとはっきり分かると思う。何故こんなにも落ち着きが生まれるのかは分からないが、心落ち着かない方は平伏してお腹と腿がピタッとくっ付いたら1、2分そのままジッとしているとかなり気持ちが変わってくると思う。
横田老師のお話によると、坐っている時にこの平伏の感覚を行うと胸や肩の緊張が取れ、自然と腰、仙骨が立ってくるとの事。これほどの変化はオブラートに匹敵するほどとの感想を頂きました。また、ランニングをした際に平伏の感覚を試していたら、速くて周りの方に驚かれたとの事でした。私自身まだここまで色々と試していないので(別のやりたい事が出てきてそこに気がむいてしまっている)、今後試していきたい。それにしても横田老師の探究心には毎回敬服いたします。
という訳で平伏の身体観をまとめると、
①単にお腹を感覚するのではなく、お腹が痛い時にする格好のようにお腹を斜め後方に下ろしていく
②平伏の感覚が出ると抑えられていても気にせず平伏ができる
③肩と胸の抜けが断然違う
④平伏をしていった時のお腹と腿がピタッと合わさり生まれる安心感
などがある。
身体にはまだまだ知らない世界がある。
皆さんもほんの少しの時間でいいので身体に感覚を向けて色々と試してみて下さい。
正解がない世界ですが、この方が私にはしっくりくるという感覚が生まれてきます。
死ぬまで一緒のこの身体を是非味わって下さいね。