【夏の副菜はこれで決まり】ピリ辛たたききゅうり-生野菜料理×日本酒のペアリングを考える-~日本酒ペアリング研究会 報告書No.9~
※「日本酒ペアリング研究会」は、日本ソムリエ協会が認定する日本酒・焼酎のソムリエ資格「SAKE DIPLOMA」を持つ筆者が、ご家庭でもできる料理と日本酒の合わせ方を提案する企画です( ˘ω˘ )。
ついでに日本酒は三重の地酒を中心に取り上げ、料理で使う食材はほとんど三重の地物食材です。料理のレシピも詳しく解説していますので、ぜひお読みください( ˘ω˘ )。
〇はじめに
こんばんは( ˘ω˘ )。
今回は日本酒ペアリング研究会の第9回目です。
遅れてやってきた梅雨で雨やら曇りやらが続きますが、晴れると蒸し暑いですね~。書き始めた日はアブラゼミと思われる鳴き声が聞こえたり、ナツアカネやコシアキトンボが丘の斜面の上を群れで舞っていたりと、夏を感じるいろいろがありました。
そして、直売場に出る野菜のほうも完全に夏野菜に移っております。今回はそのなかから「きゅうり」を選びました。お手軽メニューが作りやすいですからね。今回はそのなかのひとつ、「ピリ辛たたききゅうり」をご紹介します!
また、ペアリングの観点からは、ワインには合わせづらい食材というのがありまして、魚卵や塩辛などいわゆる磯の香りや生臭さが強いもの、鶏卵、納豆などが挙げられます。そして、きゅうりもそのなかのひとつに入るようですね。(そもそも生野菜全般が合わないと書かれた文章がどこかにあった気がするんですが、忘れました…。)
しかし、日本酒はこういったワインが苦手な食材にも合わせやすいという特徴があります。それを踏まえて、今回はきゅうりを使った料理と日本酒の合わせ方を考察していきます!
それではさっそくやっていきましょ~( ˘ω˘ )。
◯材料と作り方
◇材料
きゅうり 3本
<ピリ辛だれ>
コチュジャン 大さじ1
ごま油 大さじ1
醤油 大さじ1/2
鶏がらスープ 小さじ1
はちみつ 小さじ1
煎りごま お好みの量
にんにく 少量
はちみつは砂糖でもいいですが、おそらく砂糖のほうが甘味が強く出るので、量は少なめのほうがいいかもしれません。
◇作り方
1.きゅうりを洗って、板ずりをする。
皮の苦み・エグ味や青臭さがある程度落ちるので、これは絶対やったほうがいいです。
まず全体に塩をかけて、
まな板の上で軽く押し付けるようにしながら転がします。
手でこすってもいいです。
2.きゅうりの塩を洗い流し、端を落とす。
3.きゅうりを叩いて割る。
すりこぎ(ごまをするやつ)などでたたき割りましょう。自分の手まで叩かないように。
すりこぎを使わなくても、手で押さえて体重をかけたら割れます。
危ないので、包丁などを近くに置いたまま行わないようにしてください。また、きゅうりをつぶすことになるので、すりこぎでたたき割るよりもきゅうりの水分が出て、水っぽくなりやすいかもしれません。
どちらにせよ、こんなかんじにしましょう。
4.食べやすい大きさに切る。
最終的にはこんなかんじ。
5.<旨辛だれ>の調味料を混ぜる。
6.きゅうりを皿に盛って、たれをかけて完成。
和えて一晩置いても美味しいですよ。
◯今回のお酒とペアリング考察
今回は合いそうなものを4種類用意しました。ひとまずきゅうりの青い清涼感やみずみずしさに合わせて、すべてアルコール添加をしたお酒を選んでいます。
左から順に、
「鉾杉 秀醇」(三重県 多気郡 河武醸造)
「神楽 本醸造」(三重県 四日市市 神楽酒造)
「滝自慢 本醸造 生詰め」(三重県 名張市 瀧自慢酒造)
「鈴鹿川 吟醸」(三重県 鈴鹿市 清水清三郎商店)
というラインナップです。
それでは、以下にて詳しく解説していきます。
◇お酒の基本情報とコメント
1.「鉾杉 秀醇」(三重県 多気郡 河武醸造)
区分:普通酒
米:国産米 精米歩合65%
度数:15度
公式商品紹介ページ:
SAKE TIMESに詳しいインタビュー記事がありましたので、そちらもぜひ!
筆者のコメント:
<香り>
プロセスチーズのような乳製品の香り
炊いた米のようなふくよかな香り
+
稲藁・干し草のような青さや香ばしさのある香り
米麹のような香り
炭、ナッツ、コーヒーなどのような熟成香がほのかにある気がする。
昔ながらの日本酒らしい香りで、全体的にはとてもふくよか。ラベルには書いていないが、山廃酛のお酒がブレンドされているらしく、乳製品のような香りはここから来ている。口のなかでもその香りが広がり、余韻にまで続く。
<味わい>
クリアで軽い第一印象
軽い甘味のあとに、きめ細かい酸味がくる。
中盤からは豊かな旨味があり、ややはっきりした苦味がコクを生み出している。
輪郭はスリムで後味にもキレがあるが、中盤以降の濃醇さは余韻にも続く。
<総評>
昔ながらの普通酒を受け継ぐ味わいだがしつこさはなく、コク深い旨口といった印象。山廃酛をブレンドしているからか、酸味・苦味が比較的はっきりしているのが特徴だと思う。逆に言えば、速醸酛のお酒をブレンドすることで、山廃らしい酸味・苦みがより飲みやすいレベルまで抑えられているとも言える。
冷酒ならば酸味がよりシャープに、苦みもはっきり感じられる。燗酒にしてお猪口で飲むオールドスタイル(?)もとても良い。「IWC(インターナショナルワインチャレンジ、フランスで開催される日本酒コンクール。)」では、「グレートバリュー・チャンピオンサケ」を受賞したのも頷ける。
2.「神楽 本醸造」(三重県 四日市市 神楽酒造)
区分:本醸造
米:国産米 精米歩合60%
度数:15度
公式商品紹介ページ:
筆者のコメント:
<香り>
炊いた米のようなふくよかさ
炭、コーヒー、ヒノキ、ローストした穀物、たくあんなどの熟成香
+
青竹、月桂樹の葉などハーブのような爽やかさ
口のなかでシナモン?的な甘やかさや、ホイップクリームのような乳製品感もある。
メロンのような果実香もほのかに感じる。
昔ながらの日本酒の香りがふくよかに感じられる。またホームページによれば、この本醸造は1年間熟成されているとのことで、その熟成香によって香りに複雑さが生まれている。
<味わい>
最初は軽く穏やかな甘味があり、その後に穏やかな酸味がくる。
中盤からは米の旨味がしっかりと感じられる。
やや苦味も感じ、味わいの豊かさにつながっている。
以外にも柔らかく終わり、旨味はしばらく続く。
<総評>
これぞ昔ながらの本醸造という香味だが、全体的にしつこさは抑えられている。1年間の熟成のおかげか、アル添酒のクリアさはありつつも柔らかい印象がある。
冷やすよりも、冷や(常温)や熱燗がよいと思う。
3.「滝自慢 本醸造 生詰め」(三重県 名張市 瀧自慢酒造)
区分:本醸造
米:国産米 精米歩合60%
度数:13-14度
公式商品紹介ページ:
筆者のコメント:
<香り>
バナナ、メロン、桃のような果実香
+
上新粉・白玉粉など上品な米の香り
石灰のようなフレッシュなミネラル感
青竹のような爽やかさ
穏やかで軽くすっきりとしているが、果実香も綺麗に感じられる。吟醸や大吟醸と言われても納得しそうなぐらいの上品さがある。穏やかな果実感が損なわれていないのは、1回火入れの生詰めだからだろうか。
<味わい>
とても軽くクリア
ほのかな甘味、かなり穏やかな酸味が最初に感じられる。
アルコール感もかなり穏やかで、旨味もあるががとても控えめ。
後味はすっとキレていき、滑らかかつするすると流れていくような質感。
かなりスムースでドライ。
<総評>
なるほど、本醸造でアルコール13ー14度。かなり珍しいのではないだろうか。とてもクリアで、湧き水のような清らかな酒。まさに赤目四十八滝。
ブラインドで大吟醸と答える人がいても、責めることはできないぐらいにうまくまとまっていると思う。
本醸造ですが、冷酒をワイングラスで飲むのが良い。
「鈴鹿川 吟醸」(清水清三郎商店)
区分:吟醸
米:国産米 精米歩合60%
度数:15度
公式商品紹介ページ:
筆者のコメント:
<香り>
リンゴや洋ナシを思わせる果実様の香りが豊か。熟した芳醇な香りというよりは、アルコール添加のお酒らしい若い青さ、爽やかさを感じる。
若いメロンや青りんごのような感覚もある。(教科書的には青竹や新緑、セルフィーユと表現される)
+
花を思わせるようなフローラルな香り
上新粉や白玉粉のような上品な米の香り
教科書的には石灰と表されるようなフレッシュさ
<味わい>
口当たりはクリアで上品な甘みが感じられる。
酸味も穏やかで優しく、このお酒の爽やかさをさらに演出する。
中盤からは米の旨味とほのかな苦みが味わいを豊かにし、最後は吟醸らしくすっきりとした後味でキレよく終わる。
ややドライでありながらも、特に中盤の味幅の広がりがとても印象深い。
<総評>
同じく清水清三郎商店の「作」にはない「吟醸」というラインナップ。個人的には、吟醸というともっとコンパクトにまとまったドライなお酒が多い印象だが、このお酒は吟醸らしいすっきりとしたクリアな味わいはありつつも、綺麗な甘味や果実感、味幅を持たせながらもしつこくない米の旨味を兼ね備えている。それゆえに、味・香りともに綺麗な広がりのある、まるで大吟醸クラスのような高い完成度を持つ。
冷蔵庫でしっかりと冷やして、ワイングラスで飲んでほしい。
◇今回の料理とのペアリング検証
それぞれの酒との相性度は5点満点で表します。ただしこれは実験ですので、たとえ1点がついても酒が悪いわけではありません。悪いのは合わせてみた僕です。
それではいってみましょ~( ˘ω˘ )。
1.「鉾杉 秀醇」:3点
酒の酸味・苦味がはっきりしているからか、うまく噛み合わずスリップしている印象がある。ゆえに、苦味や酸味がしつこく感じてしまう。
そのため、例えば、ハダマグロの赤身をべっこう漬けにしたり、ふつうの漬けに山椒をかけたりするといいかもしれない。茗荷やネギ、青じそを大量にのせていただく鰹のたたきも。つまり、酒の苦味・酸味にもっとフォーカスを当てて合わせるのがいいと思う。燗ならおでんなど出汁の効いたものにはあいそう。
2.「神楽 本醸造 生詰め」: 5点
熟成香の複雑さや香ばしさが、ゴマの香ばしさやコチュジャン・醤油の香りと合っている。石焼ビビンバ的なイメージだろうか。
味わいでもキュウリの水分に負けることなく、むしろタレに米の旨味を足して深みを与えている。やや柔らかい質感もタレに合っているかもしれない。一方、アルコール添加由来のクリアな印象や爽やかさもあるので、それがキュウリの清涼感やみずみずしさにもよく調和している。
3.「瀧自慢 本醸造 生詰め」:3点
合わないというわけではないが、酒自体がかなり軽く控えめなぶん、酒の香味がコチュジャンや醤油のインパクトに完全に掻き消されてしまう。
マゴチの薄作りをスダチで、きゅうりなら梅肉合えや酢の物にするなど、より上品で淡い味わいの料理のほうが合うと思う。
4.「鈴鹿川 吟醸」: 4点
香り、味わいともに親和性が高い。キュウリのみずみずしさや青さ、コチュジャンの唐辛子の香りや辛さにはうまく調和している。しかし一方で、一体化しすぎて酒の味わいや香りがやや消えているとも感じられ、ペアリングとしてはすこし物足りない。
☆このお酒のペアリング提案は他にもあります!こちらもぜひ!
◇検証を終えて
ということで、結果としては
「神楽 本醸造」:5点
「鈴鹿川 吟醸」:4点
「鉾杉 秀醇」:3点
「滝自慢 本醸造 生詰め」:3点
となりました。今回は先述のとおり、きゅうりの清涼感やみずみずしさに合わせて、吟醸や本醸造といったアルコール添加のお酒を選んでいます。芳醇な純米酒系だときゅうりの水分で味が薄くなり、雑味が目立つのではないかと考えたんですよね…。今回は試していないので、まだ想像でしかありませんが。五百万石を使ったお酒だとまた違うのかもしれません。
それはともかく実際に合わせてみた感想としては、やはりアルコール添加によってクリアかつ穏やかな香味とスリムな輪郭を持ったお酒を合わせたのは正解だったと思います。質感的にとてもなじみが良かったですし、香りも邪魔になりませんでした。
そして今回の「ピリ辛たたききゅうり」に関しては、そのなかでも味全体のバランスがとれており、よりふくよかな味わいのもののほうが合うと感じました。今回のタレは、コチュジャン・醤油・鶏ガラスープを使ったことから香味がしっかりしているので、より旨味とふくよかさを感じられる「神楽 本醸造」が良かったのだと思います。加えて、ゴマの香ばしさと熟成香の相性が良かったのも大きなポイントだと思います。
一方、「鉾杉 秀醇」のように酸味や苦みが特徴的なお酒は、きゅうりのフレッシュな水分によってその酸味や苦みがより目立つようになり、雑味とも感じさせてしまうような印象がありました。また、「滝自慢 本醸造 生詰め」と合わせたときのように、あまりにも淡麗なお酒だときゅうりからの水分やタレの旨辛さで酒の香味が消えてしまうことが分かりました。
ただ、これはどのようなタレや食材を合わせるかによっても大きく変わると思います。そんなことも踏まえながら、今回のレシピも含め、皆様もぜひいろいろとお試しくださいませ( ˘ω˘ )。
〇終わりに
今回は、「ピリ辛たたききゅうり」と三重の地酒4種類を合わせてみました。個人的にはあまり生野菜をつまみにして酒を飲むということはしてなかったので、けっこう面白かったです。今後も和えるものを変えて、いろいろ試していけたらと思いました。
また、今回のレシピは火も使いませんし、けっこう手軽にできると思います。作りに置きにもいいと思いますので、この夏はぜひ作ってみてください( ˘ω˘ )。
それでは、また次回お会いしましょう。
素敵な日本酒ライフを~( ˘ω˘ )。
「日本酒ペアリング研究会 報告書」のまとめを作りました。
他のメニューとペアリングもあわせてお読みいただけると嬉しいです( ˘ω˘ )。
本企画とは別でやっているエッセイ企画「淡い雲をとどめて」のまとめです。ぼちぼち書いていきますので、こちらもぜひに。