あの春の日の、幸せを
春というと、思い出す風景がひとつある。
長野県の小高い山の上。青空の下、満開に咲いた桜の木が1本。
僕ら家族はその山頂で、目の前に広がる北アルプスを眺めている……。
「早く行かないと遅くなっちゃうよ」と祖母がせき立てる。
「ゆっくりしていけばいいじゃないか」と祖父はなだめる。
そんな2人のやり取りを、父も母も、笑いながら見守っている。
善光寺のご開帳に行く途中で、僕がたまたま見つけたその山へ、みんなで立ち寄ったのだ。
「お前のおかげで、いいところに来ることができたよ」と祖父が呟いた言葉が嬉しかったのを覚えている。
それが、家族全員で行った、最後の旅になった。
その2年後、祖父が天国へと旅立ったからだ。
いつかまた、あの長野の美しい山へ、僕は登ってみたいと思っている。
もちろん、行くなら春がいい。青空が輝き、桜の花が風に揺れる、暖かな春の日だ。
きっとそんな日なら、あの瞬間の幸せを、心にまた感じられるはずだからだ。
旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!