しあわせ卵が生まれる理由 ~飼育環境にこだわった卵でお客さまと障がいのある方を結ぶ、「ゆいのたまご」誕生秘話~【eumo×NIPPON TABERU TIMES加盟店取材企画】
きっかけは障がい者支援事業所での委託事業の養鶏場だった。
そこから、鶏たちと従業員の幸せな環境を実現する、”しあわせ卵”へのこだわりは始まった。その卵の美味しさは、「ゆいのたまご」以外の卵にはもう戻れない!とお客様に言わしめるほど。美味しさの秘密は代表・島田利枝(しまだ・りえ)さんのこだわりと経験が詰まっていた。
”大地を駆け回る喜び”を鶏たちに
「ゆいのたまご」は、障がいのある方の就労継続支援施設A型の作業事業所「わらくや」(栃木県真岡市)で作られた、地域特化型の高級ブランドたまご。
島田さんの旦那さんが福祉関連の資格を持っていたことや、障がい者支援の課題を感じる場面がお互い身近だったことから、夫婦二人三脚で始めた福祉事業所だ。
その委託事業だったとある養鶏場での経験が、今の「わらくや」の精神につながっているそうだ。
「福祉事業で養鶏場の作業を委託されたことが始まりだったのですが、そこで飼育されている鶏たちの環境があまりに悲惨で……。
餌は一日2回のみで、卵を産むのに必要な最低限度の量のみです。
加えて、鶏がゲージと言われる籠にぎゅうぎゅうに2匹ずつ入れられていて。
彼女たちは好きな時に好きなだけご飯を食べたり、大地を駆ける喜びを知らないまま、※廃鶏され肉になってしまう。
※廃鶏:産卵期を終えた雌鶏が鶏舎を出され、肉用として加工されること。
これはとても悲しい事実で、しばらく卵を食べることができなくなりました。自分が養鶏場を営む際は多少費用がかかっても、鶏らしく生活できる平飼い、餌も水もいつでも好きなだけ食べられるように用意をしようと考えたんです」
鶏たちが好きな時に、水を飲んで、餌を食べ、そして大地を駆け回ることができる環境を実現させること。
「わらくや」のこだわりの環境が誕生するきっかけが、福祉事業所で委託された養鶏場の作業だったのだ。
“しあわせ”=美味しいたまご
ゆいのたまご直売所では、「ゆいのたまご」と、グループ会社であるハコニワ・ファームの箱庭たまご「茜」が販売されている。
まずお店の名前にもなっている「ゆいのたまご」。
この名前の由来には「お客様と障がいをもった方を、美味しいたまごで結びたい」という島田さんの願いが込められている。餌には「わらくや」で育てた新鮮有機野菜を使用。愛情とこだわりが詰まっている。ほんのり甘く優しい卵の味がした。
そして、箱庭たまご「茜」。
殻を割った時に出てくる黄身の色が夕焼け色で、本当にきれい…!
そして、三種類の中でも混ぜたときの黄身の粘り気、コクは格別!
この夕焼け色の秘密は餌にある。
実は、箱庭たまご「茜」を生む鶏たちの餌にはエビや真鯛が食べる海洋微生物を含んでおり、これが綺麗なオレンジ色を生み出している。すごいのは色だけではなく、餌に含む海洋微生物により、天然の*アスタキサンチンを豊富に含んでいることだ。
*アスタキサンチンは緑黄色野菜にも多く含まれ、エビ・カニの甲羅、サケの身、イクラなどの赤やオレンジ色を生み出している色素。アスタキサンチンの働きで注目されているのが抗酸化作用で、よく化粧品などに用いられている成分で、お肌にもよいと言われている。
箸で突っつくと跳ね返る、ぷるぷるした弾力。そして黄身の色が、夕焼けのように濃くて美しい……。このこだわり卵のおいしさのわけは、”鶏たちの幸せ”だった。
「一般的に鶏の産卵期間は1年から1年半と考えられているのですが、うちの鶏たちの中で一番長い子は現在進行中で700日生み続けています。長生きの理由はもしかしたら環境と餌のこだわりにあるかもしれないと思う。
うちでは、純国産の鶏・もみじを育てています。もみじを選んだ理由は、穏やかで攻撃性があまりないことと、国産という希少性。国産での卵のブランド化は、美味しさでお客様を結ぶ、という理念に合っていたし、穏やかな性格の鶏であれば、福祉事業として、安心です。
彼女たちを見ていると、止まり木でぼーっとしていたり、駆け回っていたり、うちで育てた有機野菜の餌をパクパク食べたり……。幸せそうでとても微笑ましいです」
鶏たちの様子を語るとき、島田さんの口調は、子供のことを話すお母さんのように優しい。少しでも長く生きて、毎日満腹でいてほしい、鶏たちのことを気遣う想いが飼育環境へのこだわりに反映されていた。
命を扱う仕事がぴったりだった
養鶏の作業は一年を通して同じサイクルで進むため、障がいのある方たちと、委託事業の中で、一番相性が良かったと語る島田さん。
そして何より、生き物を扱う、ぬくもりのある仕事ということが従業員一人一人のやりがいにつながったのだと語る。
「卵の選別って、淡々とした単純な作業だから退屈しちゃう子もいて。ある時、選別の時に卵をわざと割るのを、注意しても辞めない障がい者の方がいました。
そこで二人で鶏のいる鶏舎にいきました。『卵はここにいる鶏たちが毎日命を削って私たち人間ために産んでくれている大切なもの。この卵をお客様に届けなくちゃ鶏さんが悲しむよね』そう話しました。
その後、卵を二度と、割らなくなりました。命を大切にする、命そのものの卵を大切にする。命を尊ぶ、そんな気持ちが心に届いたのだと思います。
養鶏って、無機質なものではなく生き物を扱う仕事。その分、使命感が芽生えやすくて。
命の重さを感じるということに利用者さんたちはとても敏感です。体調に起伏がある中でも、鶏たちが待ってくれているからと仕事に来てくれる。その真剣な姿に私たちは感動することが多いです」
島田さんは終始、鶏たちから命をいただいているのだと語っていた。この島田さんの想いを素直な気持ちで受け取っているからこそ、従業員の方々は活き活きと、仕事に望むことができる。
お客様と障害のある方を結びたい。この願いは「わらくや」の皆さんの毎日の愛情あるお世話によって実現されていた。
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