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【就農3年目のジレンマを越えて】「農園ケータリング」という挑戦 【後編】

畑を広げないと、家族の暮らしがもたない。しかし、畑をこれ以上広げると、家族の労働力がもたない。こんな就農者の「3年目のジレンマ」を、現場の農家さんはどう乗り越えているのか。その先に、どのように進化を遂げていくのだろうか。

茨城県古河市の秋庭さんは、米やハーブを育てるだけでなく、就農から3年間で500人のファンを農園に受け入れてきた。若手農家の注目の人だ。

前編では「3年目のジレンマ」に対し、畑を拡大しない方針転換について聞いた。後編ではさらなる進化として、新しい事業「農園ケータリング」についてお話いただく。

語り手:秋庭さとるさん
聞き手:森山健太

前編から続く)


◆ 農園ケータリング

— 農園ケータリングとは、どんなものですか?

ひとことで言えば、「秋庭農園の出張・料理サービス」。

銀座のレストランの料理人だったぼくと、

ハーブティーブレンダーの妻ヒロコが、

秋庭農園に来てくれた人に、とれたての野菜やハーブで料理を出していた。

じゃあ今度は、秋庭農園が出張して、ケータリングしてみたらどうだろうと。でもせっかく農家が行くのに、ただの“料理の運び屋さん”じゃ意味がない。

作り手だから語れる生産から収穫までのストーリーがある。旬の一番おいしいものと作り手のストーリーをお届けする「農家初のケータリング」をはじめたんだ。

カバー範囲は、茨城県では、古河市周辺からつくば市まで。埼玉県では、久喜市から春日部周辺まで。古河から車で30〜40分以内の場所なら車で出張できる。

— なぜ、古河市周辺に限定しているのですか?

農園からの距離の問題はある。でもそれ以上に「古河の良さを地元の人に知ってもらいたい」そして少しでも「ふるさとを感じる豊かさを味わってほしい」という想いがあるんだ。

◆ なぜ農園ケータリングをするのか

なぜ、そういう想いを込めたのか。そこには、僕が農家になるまでは知らなかった、生まれ故郷の古河が持つ2つのポテンシャルがある。

地元の人が知らない食材

まず、古河には「いい食材」があることを知らなかった。たとえばお肉では、全国大会で名誉賞を2度受賞した匠の常陸牛や、国内に100頭しかいない幻の最高級豚肉“梅山豚(めいしゃんとん)”。お酒では、“御慶事(ごけいじ)”。全米日本酒歓評会で最高位をとった銘酒だよ。

では、こういった食材はどこで消費されているのか。実は、ほぼすべてが都内で食べ尽くされているんだ。だけどそれって、古河の人にはもったいないことじゃないかな。

地元の人が知らない歴史

次に、古河には「いい歴史」があることを知らなかった。ただの場所じゃなく、歴史が息づく空間がある。たとえば、築140年の巨大古民家“山川邸”がある。

ぼくは古民家再生協会のメンバーとして山川邸の整備に関わっている。ある日、竹林の整備をしていた。気づくと日が暮れていたので、「おつかれさま」と冷蔵庫にあったビールをプシュっと開けて縁側に腰かけ、仲間と語りあっていた。すると夕立がはじまった。

ポツポツポツ……

森に包まれた空間の中で、雨の音が優しく響く。「いつまでたっても豊かな時間だね、これは都内にいては絶対に味わえない時間だね」と話したのを覚えている。
140年の歴史ある古民家でありながら、どんな人でも受け入れてくれる山川邸。でもこの歴史と空間を、古河の人たちはどれだけ知っているのだろう。

◆ ふるさとを表現する

だから、農園ケータリングには、地元の人が知らない「いい食材」と「いい歴史」を表現してみたんだ。

農園ケータリングin山川邸(2018年10月3日)

[ アミューズ ]

▲(奥から反時計回りに) ふなの甘露煮 カダイフ巻き
小茄子“坊さん気絶” 毬栗揚げ 根菜のピクルス

<解説>
古河名物「ふなの甘露煮」を黒酢でマリネし、カダイフを巻いて揚げたアレンジ料理を中心に、秋庭農園で収穫した秋の味覚がぐるりと揃っています。農園の“小茄子”に茨城納豆を加えた蒸し料理。農園の“栗”を毬栗揚げにし、アーモンドミルクのクリームを添えました。農園の“根菜”と“柿”のピクルスでさっぱりと口直しを。

[ 魚料理]

▲ 秋鮭のしもつかれ

<解説>
下野の国(栃木県、茨城県)の郷土料理「しもつかれ」。祖母が2月の初午の日に作ってくれた想い出の一品。お歳暮の新巻鮭の頭、節分の大豆と、寒締めした大根を鬼おろしですってごった煮した郷土料理。
滋味あふれる体に良い郷土料理ですが、独特の香りと写真映えしないことから、若い人に敬遠されてきました。そこで、フランス料理にアレンジして新しい食べ方を提案。ネガティブなところを変換し、大根のうま味たっぷりなスープにミキュイした(半生な)鮭と油揚げのチップスを一緒に食べて様々な触感で楽しんでください。

[ 肉料理 ]

▲ 梅山豚のイチジク葉包み焼き

<解説>
秋庭農園から20分、お隣の境町にある塚原牧場の「梅山豚」。秋庭農園の“イチジク”の葉で包み、蒸し焼きにしました。イノシシに近い梅山豚の脂身あるお肉と、イチジクの芳醇な香りが印象的な一品。生産者の塚原さんの温厚で揺るぎない人柄を味わっていただけます。黒米をブレンドした“ふくまる”も、農園で収穫したもの。ローストした野菜とともに。

◆ ふるさとのメッセンジャー

就農3年目を迎えて、生産農家としては「畑を広げない」という選択をした。では、ここからどんな農家を目指していくのか。ぼくらは“ふるさとのメッセンジャー”になりたい。
ふるさととは何か。それは、「顔の見える関係性」だと思う。つまり、背景にいろんな人の顔が浮かぶこと。たとえば、ある地域に通って顔の見える関係が増えていけば、やがてそこがふるさとになる。

では、ふるさとを誰に伝えればいいか。それは地元の人だと思う。東京に稼ぎに出るために古河に住んでいる人は、古河に対して愛着を持っていない。でも、ふるさと愛のある人が増えていけば、地域の中でムーブメントが起きる。結果、都会の人が地域にやってくる。

こんな願いを込めて、農園ケータリングははじまった。メシのタネというよりも、ひとつのメッセージとして。農園ケータリングを通じて、地元の人に、ふるさとの誇りある食材や、ふるさとを作っている面白い人たちと出会ってもらいたい。

農園ケータリングが教えてくれるのは、「移動する農園」というコンセプトだ。本来、農業は食べ物を育てるために土から離れられない。しかしひとたび、生産業以外の目的を定めれば、土から離れることもできる。

「たとえば山川邸は、地域の人を受け入れる場所として、秋庭農園だけでは実現できなかったことを可能にしてくれる」とサトルさんは言う。

母が繋いでくれた庭や畑という土着的空間を守った上で、“ふるさとのメッセンジャー”として進化する秋庭農園は、地域内を自由自在に駆け巡る。この静と動の両立が、3年目の秋庭農園が選んだ『農家』という生き方である。

文:森山健太

農園ケータリングのお問い合わせは、秋庭農園HPまで

※この記事は2019年2月に作成されたものです

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