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【裏タケノコ王】第6話 タケノコだけで食っていく方法 裏年を克服し“タケノコ専業農家”という職業を生み出した男の物語【後編】
裏タケノコ王シリーズ 第6弾
“みんなに言われたさ。タケノコでメシは食えないってね。”
「タケノコを1億円掘った男」風岡直宏さんは、どうやってタケノコだけでメシを食っていけるようになったのか。17年間にわたる汗と涙の試行錯誤を5分で読める記事にまとめました。
聞き手:森山健太
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◆ 裏年の恐怖
まず、この写真を見てほしい。
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竹林が黄色ですね!
これは先月撮影した近所の竹林さ。栄養が足りている表年は、青々とした竹林になるのに、こんな風に真っ黄色になるってことは、今年は裏年なんだ。
風岡さんの竹林は?
ほれ。
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見事に青々としていますね!
ここまでなると、表年と裏年の収量の差(通常3〜4倍)がなくなって、ぜんぶ表年になるんだよね。
農業をはじめた頃は、裏年があったのですか?
あったよ。もう裏年表年の差が明確。裏年は、出てくる時期も遅いし、出てくるタケノコのサイズが小さくて細い。
就農1年目は裏だったさ。親父は来年は出ると言ったけど、出るという感覚がわからなかったさ。それで肥料をちゃんとやったさ。そしたら2年目は表で出たんよ。「ああ、こんな感じで出るのか」とわかったからそれ以上に肥料をやったさ。
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なのに3年目、出ないんよ!「ええ〜、なんでこんなに綺麗に管理したのに出ないんよ」と思った。裏年の恐怖を感じたよね……。
◆ 不良農家の登場
だけどお客さんは待っている。自分ちのタケノコだけじゃ足りない。苦肉の策として、同じ町の農家5軒から買い集めることにしたんだ。そんな状態が数年続いた。
ところが、しばらくすると農家が出してくるタケノコがどんどんダメになっていったさ。
どうして?
高齢化で年をとって身体が動かなくなる。タケノコを掘る技術も落ちて、傷物が増える。だけど、金がほしいという欲は変わらないよね。それで、農協が引き取ってくれないようなバカでかい規格外タケノコや、掘る時に傷ついたB品を回してきたんだ。しかも、集荷のカゴの下の方にそういうのを隠して持ってくるんだ。
え〜!
不良農家に騙されただよ。「目には目を」でB品は安く買い取るようにしたけど、そのうち我慢できなくなった。
「こんなへぼくてチョンボする農家と一緒にされたらたまんねぇ」
品質はもちろん、オレはここらで掘るのがダントツにうまかったさ。1日数百本掘ってキズモノになるのは1本あるかないかだからね。
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じゃあ、オレっちの竹林面積を増やして、努力に見合った価格にすれば、売れるスピードも穏やかになるだろうと。それで1日かけて売り切るようにしようと。そして、5軒を切って自分1軒だけにした。無謀もいいところだよね。
◆ スポーツ×農業
ここから研究の日々が始まった。プロで活躍していたスポーツの考え方を農業に持ち込んだんだ。たとえば、練習しても自分のベストタイムを更新できなくなった。どうすればいいか。さらに努力をするしかないよね。どう努力するか。他の選手(他の農家)がやりたがらないようなことをやるのがいいよね。
ターニングポイントですね。具体的に何をやったのですか?
それはですね…。
(ごくり)
それはですね……。
(ごくり)
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有料です!
えっ!有料コンテンツ!?(笑)
有料の講演会でお話ししている内容だからね。でも今回は特別に、土作りの秘密を公開しよう。
◆ 土作りの秘密
トライアスロン時代に多くの選手が最も嫌っている練習は、インターバルトレーニング。略して「不完全休養」。タイムを計ってギリギリまで身体を追い込んでいく練習さ。これをタケノコ農家に置きかえてみた時に、明らかに「土作り」だろうと思ったわけ。重たい土を、険しい山の斜面に何度も運ぶ重労働なんて、誰もやりたがらねぇら?
やりたくないですね。
他の農家がやりたがらないことをやって「かめはめ波」を毎年出せるまで土の状態を高めれば、裏年を克服できるかもしれないとイメージしたんだ。
どういう土作りをしたのですか?
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これを考えるときにヒントになったのが、さっきの不良農家の話なんだよね。実は当時5軒から集まってきたタケノコを食べ比べしていた。すると、なぜか5軒とも味が違ったんだよね。
なぜ違ったんですか?
肥料の種類だよ。「タケノコって、肥料によって味がこんなに変わるものなのか!」と驚いたよね。タケノコと肥料の種類と味の関係については、お客さんも、普通の農家も知らないと思うよ。それで肥料を工夫したんだ。
どんな肥料を使っているのですか?
たとえば堆肥でいうと、静岡県の畜産品評会で1位をとった堆肥だね。
どれくらいすごいですか?
ブルーベリー農家さんがこう言っていたよ。「ブルーベリージャムの糖度を上げるためにこれまでは砂糖を入れていた。だけどこの堆肥を使うと、砂糖をほぼ入れなくていいくらい甘くなる」と。この堆肥をうちではタケノコに贅沢に使っているよ。
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ここだけの話、近所で手に入る無料の堆肥もある。だけど、タケノコの味が上がるならお金を払って遠くまで行く価値があるよね。うちは1年間の肥料代で、この町のタケノコ農家の所得分(50万円)は投資しているよ。
こういう土作りはすぐ成果には出ませんか?
出ないね、一時期は諦めていたぐらいさ。だけどそのうち土の中に「埋蔵金」が溜まっていくんだな。
「埋蔵金」とはなんですか?
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有機物のことさ。今年出たタケノコは、何年前かにまいた肥料が効いているかもしれない。努力に即効性はないんだよね。
先の見えない中で、なぜ努力を続けられたのですか。
スポーツが大いに関係しているよね。素質がないなら、素質を超える努力をするしかない。農業でいえば、裏年っていう自然の摂理がある。ほとんどの農家が「今年はダメだね」って自然のせいにしている中で黙々と努力をすれば、どこかで自然の摂理を超えて横並びの集団から抜け出してぶっちぎれるんだ。
そして10年目の春、裏年を克服した。
ついにタケノコだけで食っていく「タケノコ専業農家」という仕事を確立したんだ。
◆ 食えない仕事を食える仕事に
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タケノコ専業農家とは、どんな仕事ですか?
「2ヶ月で1年分売り上げるタケノコ屋」だよ。タケノコは3月から5月にかけておよそ2ヶ月しか出ないから、そのときで1年分稼がないといけない。
どれくらい稼ぐのですか?
シーズン中は毎日、同級生の月収以上稼ぐよ。だけど、さっき話した土作りのようなあらゆる投資と1年分の人件費の上に初めて成り立つ「ファイトマネー」なんだ。
加工で他の時期に稼がないのですか?
加工はやらない。どうしても旬のたけのこよりも味が落ちるし、どこかで必ず手抜きが起こるからね。
前編でふれた「その日のタケノコをその日のうちに自分だけで売り切る」というコンセプトは、本当に一貫していますね。
◆ お客さんと一緒に
最後に、タケノコ専業農家という仕事の魅力について教えてください。
まず、お客さんの顔が見えること。うちのお客さんは、農協価格もうちのタケノコの価格も両方知ってるよ。ただ単に高いだけだったらお客さんは来ないし、それに見合った価値があるから来てくれるわけ。だから毎年、お客さんとの真剣勝負。その緊張感がたまんないんだよね。
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そして、肥料による味の変化。農家もお客さんもどこのタケノコもそう変わらないと思っている人もいるかもしれないよね。オレの味が日本一かどうかはわからないけど、タケノコに対して日本一の努力をしているっていう自信があるんだ。オレのファンなら一度はうちのタケノコを食べてほしいな。
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「全身タケノコ男」
オレはタケノコを掘るために生まれてきた。“全身やり投げ男”と呼ばれた伝説的アスリート溝口和洋さんのように、“全身タケノコ男”になって24時間タケノコのことを考えている。なぜそこまでやるのか。証明だよね…存在の証明のために戦っているんじゃないの?
タケノコ注文受付中!
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①店頭販売か、②電話・FAXでの全国配送注文を承っております。お値段は時価ですので直接お問い合わせください。例年、4月中旬がハイシーズンとなります。
①店頭販売
風岡たけのこ園(〒419-0315 静岡県富士宮市長貫1120 / 営業時間 10:00~17:00 / 定休日なし)
②電話&FAX
0544-65-5005(営業時間 10:00~17:00 /定休日なし )
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