非エンジニアが「アジャイル」を理解するために最初に読むべき2冊
こんにちは、株式会社タバネルの奥田です。
「アジャイル」
もともとはソフトウエア開発手法として、エンジニア組織を中心に普及しました。しかし、今日ではソフトウェア、エンジニアの領域を大きく超え、幅広い領域、そして一般企業の組織全体にまで適用され始めています。
私が専門とするOKRも同様で当初はIT系企業から普及しましたが、今では幅広く普及し始めています。また、私のクライアントにはすでに「アジャイル開発手法」を取り入れている企業、部門も多く、以前より関心がありました。
そこで、今回はソフトウェア開発手法を超え、非エンジニア以外にも適用できるアジャイルを考察するため、2冊の本『みんなでアジャイル』、『日本企業が「アジャイル」を実践する方法』を読み解いていきます。
みんなでアジャイル
本書の副題は「変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた」とあり、まさにエンジニアに関わらず関心の高いテーマでしょう。
目次
1章 「アジャイル」とは何か?なぜ重要なのか?
2章 自分たちの北極星を見つける
3章 顧客から始めるのがアジャイル
4章 早期から頻繁にコラボレーションするのがアジャイル
5章 不確実性を計画するのがアジャイル
6章 3つの原則に従い、速くて柔軟で顧客第一なのがアジャイル
7章 あなたのアジャイルプレイブック
アジャイルを「手法」として理解し適応することに警鐘を鳴らします。「手法」と「考え方」が連携して、初めてアジャイルは本当の価値を生みます。
このことは、アジャイル開発の原点ともいえる「アジャイルソフトウェア開発宣言」からも分かります。
プロセス、ツール<個人と対話
包括的なドキュメント<動くソフトウェア
契約交渉<顧客との協調
計画に従うこと<変化への対応
同宣言の中では、左にも価値はあるが、右により価値をおくとされています。つまり、プロセス、ツールなど手法にのみ価値を置くのは間違っているのです。そのため、手法ではなくアジャイルの3原則を中心に本書は展開しています。
アジャイルの3原則
顧客から始める
早期から頻繁に協力する
不確実性を計画する
この3原則により、組織にある”重力”から脱却できるとされています。組織重力には3つの法則がありますので、一つずつ見ていきましょう。
組織重力の第1法則
組織に属する個人は、日々の責任やインセンティブがなければ、顧客と向き合う仕事を避ける
多くの企業が顧客第一、顧客中心主義を掲げているものの、実際にできている企業は少ないです。多くの場合、リーダーは顧客からもっとも離れた場所にいるため、この重力に拍車を掛けます。
そこで、この重力から脱却するために、アジャイルでは「顧客から始める」を原則としています。
具体的には、まず作業のスピードアップではなく、顧客視点でのスピードアップを図ります。
さらに、先述の宣言にある「動くソフトウェア」の先に「顧客体験」を見据えることが重要だとされています。
つづいて、第2法則について見ていきましょう。
組織重力の第2法則
組織における個人は、自分のチームやサイロの心地よさのなかでいちばん簡単に完了できる作業を優先する
組織全体が顧客中心主義に向かい全体最適で協力できれば良いのですが、ついつい自分のチームの部分最適になってしまいます。部分最適を回避するにはただ会議をするだけでは不十分であり、アジャイルの原則「早期から頻繁に協力する」ことが重要です。
早い段階から頻繁に会議・・・と考えると、うんざりてしまいそうです。
そこで、本書では「報告と批評の文化」から「協力的でアジャイルな文化」に転換しなければならないと書かれています。
また、デイリースタンドアップ(デイリースクラム)という毎日の会議でメンバーの進捗とチームのゴールを共有することを推奨している。15分以内で負荷を少なく行うことも継続するためのコツです。
それでは、最後の法則について、見ていきましょう。
組織重力の第3法則
進行中のプロジェクトは、それを承認したいちばん上の人が止めない限り、止まることはない。
顧客からもっとも離れた場所にいるリーダーしかプロジェクトを止められないのは、たしかにとても危険なことですね。
プロジェクトが不確実性を抱えているため、アジャイルの原則にある通り「不確実性を計画する」ことが重要になります。
まず、例えば1年単位の計画であれば、3か月ごとに方向性の調整の機会を持つなど不確実性に対処できる機会を増やすことができるでしょう。
また、固定の短い期間(2週間ごとのスプリント)で方向性を調整する機会を持つことが、不確実性への対応力を高めれくれます。
そして、プロジェクトのおわりに「ふりかえり」を行うことも忘れてはいけない。終わった仕事の批判をするのではなく、次に向かうためにどうするか?を問うことが重要です。
最後に忘れてはならないのが、アジャイルの3原則をベースに自組織に合ったアジャイルを組み込むことです。ツールや用語を表面的に導入するのではなく、自社に適合した形で組み込むことが大切です。
(個人的な雑感)
ソフトウェア開発によったアジャイル解説本が多い中、アジャイルの原則を丁寧に解説してくれています。直訳気味で多少読みづらい点があるのが、気にかかりますが、基本的なベースを理解するためには、参考になる点が多い。
自社にどう具体的に導入し実践するか?については、さらに深い理解と考察が必要になると感じました。
そこで、次に『日本企業が「アジャイル」を実践する方法』を読み解いていきます。
日本企業が「アジャイル」を実践する方法
こちらは、ハーバード・ビジネス・レビュー掲載の論文になります。
目次
・ウォーターフォール型の限界をいかに乗り越えるか
・アジャイル実践の要諦
・アジャイルが有効な条件と、導入におけるボトルネック
・日本企業のアジャイルに有効な三つのステップ
従来型日本企業が急速な事業変化に対応できていない最も大きな要因が、仕事の進め方とそれを支える組織のあり方と筆者は考えています。
こういった企業で開発をするプロセスが「ウォーターフォール型」です。
「ウォーターフォール型」とは、最初にゴール、要件を定義したうえで、設計、開発、テスト、リリースとったプロセスをたどる手法ですはウォーターフォール型は、変化が少なくゴールを明確に定義しやすい環境下で効果を発揮します。
一方で、環境変化に合わせた迅速な対応が必要なケースでは非効率になるとも書かれています。具体的な課題として、「部門間調整による遅延」「多大なドキュメンテーション工数」「土壇場での手戻り」などが挙げられます。
これらの課題を解消するとして注目されているのがアジャイルです。
アジャイルの概要は「みんなでアジャイル」と重複するので割愛しますが、一般的な進め方について分かりやすい説明がありました。
要件定義
エンドユーザーなどの要望に基づき、プロダクトオーナーが要件定義を行う。それからミッション、実現したい内容(プロダクト・バックログ)とリリース計画までを決定する
スプリント・プランニング
プロダクト・バックログに基づき、2週間の実施対象と役割分担(スプリント・バックログ)を決める。
デイリースクラム
1日の開始時に誰がどのスプリントバックログに着手するか、問題は発生していないかなどを15分で確認します。
スプリント・デモ(スプリント・レビュー)
スプリントでできたプロダクトの結果をデモ(レビュー)して、受け入れ可能性を判断、フィードバックする
スプリント・レトロスペクティブ
スプリント終了時点で、当該スプリントの仕事の進め方、プロセスを振り返る
ウォーターフォール型と比較したメリットは下図の通りです。
このようにウォーターフォール型とアジャイルは大きく異なるため、従来型の人事制度の以下の点が課題となります。
アジャイル適応時の人事制度の課題
・年次の目標管理制度
・全社共通の評価基準
・相対評価によるランク付け
ベンチャー企業などはこれらの課題を意識した組織設計をされていることが多いが従来型の大企業はなかなか対応が難しいです。
とは言え、すべての企業が全社的にアジャイルを導入すべきではないため、本書ではアジャイルが有効な業務の条件を示しています。
アジャイルが有効な業務が満たすべき条件
・トライ・アンド・エラーが許容される
・短期間で成果を可視化できる
・最大20人の単位でチームが成り立つ
この条件のほかに乗り越えるべき課題は人材にあります。リーダーの力量はもちろん、メンバーの自律性も必要になります。
業務の条件に加え、この人材の課題を乗り越えて、日本企業が導入するためめのステップが書かれています。
STEP1 「アジャイル特区」を設ける
STEP2 特区に適応する人事制度・評価制度を設計する
STEP3 汎用性のある制度を全社に移植する
どのSTEPも詳しく書かれていますが、ここではSTEP2について触れることにします。
特区での人事制度設計で重要なことは、最終評価者であるプロダクトオーナーに、権限をしっかりと委譲することだと書かれています。
アジャイルは高速で回すため、評価も高速でリアルタイムで行わなければなりません。そこで、年次評価ではなくリアルタイム・フィードバックが必要となり、その場で絶対評価を行うことが必要だからです。プロダクトオーナーが必ずしも所属部門の上司でないため、そうしなければ部門の上司の顔色をうかがうことになるからです。
この高速なリアルタイム・フィードバックは、ウォーターフォール型でも十分に有効ですこのようなアジャイルのエッセンスを抜き出すことで、STEP3で全社に移植することが可能になります。
おわりに
どちらの本もエンジニアの方がアジャイルを学び、実践するには物足りないかも知れません。一方で、私のような非エンジニアにとっては、気づきの多い二冊でした
『みんなでアジャイル』は非エンジニアにはとっつきにくい用語、手法を表面的に理解し適用することの無意味さを教えてくれます。組織重力の法則はアジャイルに関係なく、その通り!と思える内容でした。
一方で読んだ後に、アジャイルの基本、メリットは分かったものの、とは言え万能な手法でもないとも感じていました。
しかし、その後に読んだ『日本企業が「アジャイル」を実践する方法』では、効果を発揮する業務特性があることを教えてくれ、疑問が見事に解消されました。
どちらか一冊を読み始めるとすれば、『日本企業が「アジャイル」を実践する方法』がオススメです。コンパクトでありながら、初学者には十分にまとまった内容かと思います。同じチームの人と一緒に読むと議論が盛り上がると思いますので、一度お試しください。