問題解決に追われるのはもうやめよう #突破するデザイン
日々の会議で繰り広げられる議論、進捗遅れへの対策、クレーム対応、チーム内の問題解決など、僕の仕事はその大半が問題解決に費やされていました。
特に前職では営業のマネージャーというポジションだったこともあり、問題解決に多くの時間を割いてきました。その感覚はWEB制作の仕事を始めた今でも引きずっています。
そんな今までの仕事のやり方をすべて考え直すきっかけとなった本に出会いました。それが今回のお話の題材となる『突破するデザイン』です。
本書の概要
本書にはデザインとイノベーション、つまり技術革新を題材としてアイデアを浸透させていくアプローチについて書かれています。
中でもポイントとなるのが次の点です。
ベルガンティ教授は「問題解決」と「意味」両方のイノベーションが備わっていることが何よりも重要であり、どのタイミングでどちらを使うかということを説いています。
流れを簡単にまとめるとこうなります。
① 内→外の考え方から始めてビジョンを明確にする
② ビジョンを打ち立てたらいくつかのステップを経て強固にする
③ 外→内の考え方は問題が発生した時にだけ考える
外→内:問題解決のイノベーション
僕たちの仕事は「問題解決思考」に偏ってしまい、目の前の問題をどうやって処理するかを常々考えています。自分たちの内にある考えでは解決できないからこそ「解決すべき問題」が発生しているわけなので、当然外部からアイデアを取り入れることになります。
会議の場で出来るだけ多くのアイデアを集めて、その中から最善の組み合わせを選択していこうという流れを経験した人も多いのではないでしょうか。
ここで注意しないといけないのは、外から情報を取り入れる時はどうしても自分が欲しい意見や都合のいいアイデアばかり見てしまうということです。
情報が溢れる今の時代、ウェブページ数は80兆とも言われています。世界の人口で割っても一人1万ページ持っている計算です。これほどの情報の海の中であらゆる可能性をフラットに検討するのは難しいので、どうしても自分にとって都合のいい情報を受け取りがちになります。
そうなると、いつの間にか自分たちが提供しようとしている価値が他の誰かが作り出した価値に塗り替えられてしまうという現象が起こるのです。
これがいわゆる「何のために、誰のために仕事をしているのかがわからなくなる状態」です。
プロジェクト計画段階での注意点
新しいプロジェクトを始める時にも、ターゲットを設定し「ユーザーが抱えている問題を解決するモノゴトを提供しよう」という考えになることが多いです。
僕は特に営業商材として「ビジネスソリューションサービス」というモロ問題解決型の商材を扱っていたので、顧客が問題を抱えていてそれを解決したいと思っている前提で事業推進をしていました。いわゆる「潜在ニーズを引出そう」というやつですね。
この時、「どうやってクライアントの問題を掘り起こし、解決するか」とばかり考えていると、他の競合サービスとの差がなくなり、コモディティ化に飲み込まれてしまいます。
同じアプローチで同じ改善ができるサービスがゴロゴロ存在する時代なので当然です。
そうなると、サービスの価格と営業マンの人柄でしか差が生まれなくなるので、価格競争と属人的要素で勝負するしかなくなってしまいます。
そう、内から生み出した意味=ビジョンが必要なのです。
内→外:意味のイノベーション
「どのように」ではなく新たな「なぜ」を追求する思考法。ユーザー分析からスタートするのではなく、自分の中にある不満や実現したいことから生み出される考え方であり、ビジョンとなるものです。
本書では、ヤンキーキャンドルのロウソクが例として取り上げられています。
もともとロウソクの存在価値は明かりを灯すことでした。そのため、メーカーは各社ロウソクの明るさや持続時間といったスペックで凌ぎを削っていました。
しかし、電球が登場したことで明るさと持続時間の争いは価値を失いました。
そんな中、ヤンキーキャンドルはロウソクの存在価値に「ぬくもりと香りの空間」という新しい意味を見出したことで別の使い方を生み出したのです。
ヤンキーキャンドルのビジョンはロウソクの香りによってあなたを心地よくするということです。
「ユーザーはロウソクで部屋を明るく、出来るだけ長く照らしたいと思っている」という問題解決前提で考えていると絶対に出てこないアイデアですね。
批判精神
問題解決のイノベーションでは、外から得た意見を否定せず柔軟に受け入れてアイデアの数を増やしていこうという考え方でした。意味のイノベーションではそれとは全く逆の「批判精神」を重要視しています。
先ほども少し触れたように、人間は自分にとって都合のいい情報を無意識に選択する生き物です。内→外の考え方である意味のイノベーションは、組織としての明確なビジョンを打ち立てるのに有効ではありますが、その反面考えを客観視することが難しくなります。
だからこそ自分自身の考え方に批判的になり、「なぜそれが必要なのか」を繰り返し問いかけて掘り下げることが大切だと言います。
本書では、批判=否定ではなく批判=議論という観点で捉えています。
日本人はこの批判精神が苦手な生き物です。会議の場では声の大きい人が自由に発言し、声の小さい人は間違っていると思っていても意見を上げられない。勇気を振り絞って発言したとしても「それは前例がない」などの古い考え方で逆に否定されてしまう。
議論に参加する人数が増え、上下関係が生まれるとより一層この傾向は強まります。
そこでベルガンティ教授は、意味のイノベーションからアイデアを生み出す方法を5つのステップで解説しています。
意味のイノベーション5STEP
このステップの流れを見ると、批判精神も自分の内から始まって外へ向かうようになっているのがわかります。まずは自分の中で「なぜ」と問いかけ続けて思考を深めます。そして2人、4人と同じ志を持ったメンバーを議論の場に増やしていき、Step4では外部の力を借ります。
ここで注目したいのはStep4で外→内の考え方を取り入れるという点です。
まずは自分たちがその仕事をする意味を徹底的に作り上げます。そのためには心から信頼できる仲間を集めることが大切です。
そうして出来上がったビジョンが世の中で通用するものなのかどうか、最後の調整を行うために初めて専門家からの意見を取り入れ、そして実行へと繋げていきます。
WEBデザイナー視点
WEBデザイナーはアーティストではないので、設計する時は自分たちのエゴによるデザインを生み出すのではなくクライアントの求める成果にコミットするために作っていきます。
そのため、「集客を上げたい」「売り上げを伸ばしたい」など既に顕在化している課題に対する問題解決型の思考から始まることが多いです。
デザインを考える時は参考サイトを吟味しますし、そうして出来上がったラフ案は他の案件と似通っていたりします。
ディレクターにおいてはそのビジョンを見失うとクライアントの御用聞きになって何でも取り入れようとし、結果的に成果にコミットできない無駄なモノを生み出すきっかけになります。
自分たちがクライアントに提供する価値=ビジョンを蔑ろにしてしまうとコモディティ化の波に飲み込まれて、価格競争と属人的価値提供に身を投じることになります。
営業視点
定例会での一コマ。四半期の予算達成に向けた進捗確認と対策のために開かれた会議で、予算達成が危ぶまれる部門があるとします。
現在展開している市場だけでは不足分の回収は難しいとなった時、他部署の商材を担当顧客に提案しに行けば売り上げは立つだろうという意見がでました。
果たしてその選択は正しいのか。
結論から言うと、その商材を提案しにきた意味を明確なビジョンとしてクライアントへ伝えることができるなら正解。それができないなら間違いだと思います。
組織として何のビジョンも伝えられず、いきなり全く別ジャンルの商材を勧められると、売上が厳しいから提案しにきているという目的は簡単に見透かされます。しかし、組織として一貫したビジョンを持ってクライアントの問題解決に繋げたいという意思が伝わるのならそれは新たな提案として受け入れられます。
よくありがちなのが、上から言われたから新しい商材を扱わなくてはならないという『やらされ感』です。
これをなくすためにも意味のイノベーションから始めることは非常に重要であると感じました。
問題解決に追われるのはもうやめよう
・どうやって足りない売り上げを補おう?
・どうやってクライアントが満足するサイトを作ろう?
問題解決型の思考からスタートすると、「売上が足りていない」「クライアントが満足しない」というネガティブな問題に対してばかり焦点が合います。そこから生まれる仕事は、例え問題が解決したとしてもマイナスがゼロになっただけです。
つまり、常に後手に回ってしまうことになります。正直つまらないです。
それよりも、自分が取り組む仕事に対する意味=なぜこの仕事をするのかをしっかりと考え、明確なビジョンを持つことができればクライアントに対して本当に必要なものを提案することができるようになります。
意味付け力を鍛えることで先手を打つことができるということです。
正直この「意味付け力」については営業時代から意識していたものの、意味のイノベーション5STEPのような強力なプロセスは踏んでいませんでした。
このステップをトレーニングとして日常的に行っていけば、どんな小さな仕事にでも一貫した熱意と魂が込もり、仕事はもっと楽しくなるだろうと感じました。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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